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テンションアップダウン第三回六月の花嫁は突然迎撃編

「吠天先輩昨日はあの後どうしたんですか?」

 放課後の部室。

 昨日とは打って変わって晴れた空。

 みんなが居る部室でボクは吠天先輩に問いかけた。

「『昨日はパニくっちゃってね』」

 彼女はいつものように元気そうな振りをしているが、目元が少し腫れていた。

「……丹沙」

「『何、マナ?』」

「後で聞きたいことがあるわ」

「『……マナは変わらないね、いいよ部活が終わった後にね』」


「さよならー」

「……さよなら」

「また明日!」

 ボクら後輩組は部活終了と同時に荷物をまとめて部室を出る、が直ぐに扉近くに息を潜め話を聞く。


「……それで丹沙、昨日は何があったの?」

「『いきなりだね』」

「まわりくどいのはあまり好きじゃないのよ」

「『……変わらないね、そのままでいてね』」

「……本当に何があったの」

「『実はね……』、実はね私今度お見合いするんだ」

「……本当なの?」

「『形だけね』、もう結婚式を挙げることは決まっているよ」

「!?……丹沙本当なの?」

「こんな時に嘘なんか吐かないよ……来週の日曜日に式を挙げることは決まってる」

「……」

「『みんなで見に来てね……私の晴れ姿を』」


「最後の一言……私たちに言ってたよね」

「……はい、多分」

「吠天先輩……」

 吠天先輩が帰って行った今、部室にはボクら後輩組と魂が抜けたような感じで外を眺めている先輩がいる。

「……吠天先輩は何故突然結婚式を挙げると言ってたんですか?」

「理由は簡単よ」

 ボクらの会話に突如梅ちゃん先生が現れた。

「梅ちゃん先生は何か知っているんですか?」

「知ってる」

「教えて下さい!何で吠天先輩が……」

「聞いてどうするの?」

「え?」

 それはあまりにも冷たい言葉だった。

「貴女達が聞いて、それでどうするの?何か出来るの?」

「それは……」

「あれはあの子の問題よ……他人が口出して良いようなものじゃない」

「…………仲間です」

「……何?何て言ったの?」

「吠天先輩はボクらの仲間ですよ!関係なくはないです!」

「関係ないでしょ、あれは家族の問題よ」

「梅ちゃん先生……じゃあ結婚って言うのはやっぱり」

 先輩の言葉に梅ちゃん先生は深くため息を吐いた。

「そうよ吠天家の存続に関わる問題よ」

「最近聞きましたが何かのプロジェクトで失敗したんですよね?」

「確かそうよ」

 吠天先輩の家は日本内の財閥界に名前を連ねる程のお金持ちらしい。

「じゃあ今回の結婚は……」

「そうよ……親同士が勝手に決めた忌々しい結婚よ」

 梅ちゃん先生は怒りに肩をふるわせながらも冷静に喋っている。

「何で止めないんですか?何で止めなかったんですか!」

「止めなさい!梅ちゃん先生も無理なのよ」

「どうして!?」

 ボクが先輩に詰め寄ると先輩は先生の方に目線を向ける、それに対して先生はただ首を縦に振る。

「……まず梅ちゃん先生の名前はわかる?」

「はい……それが何か?」

「実は本名じゃないの」

「えっ……でも」

「そこはこの学校の学園長に話をしたんだけど、先生の本名は灰頭梅華じゃなくて吠天梅華なのよ……」

「嘘……」

「あたしは吠天丹沙の実の姉よ」


 ここで少し昔話をする。

 あるところに二人の若いカップルが居ました。

 二人はとても仲が良く、周りの人も直ぐに結婚するんじゃないかと考えていました。

 しかし二人の間には決定的な差がありました。

 二人は身分が違いました。

 女性は大金持ちの財閥の令嬢、男性はサラリーマンの息子。

 二人は身分を気にしませんでした。しかしその身分の差のせいで二人は永遠に結ばれませんでした。

 ある日の事、女性は父親にある男性と結婚をするように言われました。

 勿論女性は拒みました。

 断られた父親は困り考えました。

 そこで一つの考えが浮かびました。


「男性は突如女性の目の前から姿を消した」

「その事を聞かされた女性は一つの結論に至りました」

「父親が彼を殺したんだ」

「決定的な証拠はないが殺らなければいけない状況だった」

「だから彼女は父親に復讐するために、夜父親の寝室へ行き手に持った果物ナイフで殺そうとした」

「でも失敗に終わった」

「だから彼女は家を出て、名前を変えて独りで住みました」


 梅ちゃん先生は語り終わるとボクらに背を向け。

「……変なことは考えない方がいい、やめとかないと後で後悔する」

 とだけ言うと部室を後にした。


「……どうしますか?」

「どうするもなにも……ねぇ?」

「決まってますよね……はぁ」

「吠天先輩を救いましょう!梅ちゃん先生と同じ様に悲しまないように!!!」


 作戦は至ってシンプル。

 まず結婚式前に吠天先輩を捕まえる、監禁しておく。

「かなり犯罪臭がするわね」

「良いんじゃないですか?悪役っぽいですし」

「……ちょうど式の前日に学校に来るみたいですよ」

「じゃあその前に吠天先輩を奪いますか」

「人を何人か集める?」

「……少人数で行動した方がばれにくいと思います」

「じゃあこの四人で別々に行動して最後にボクが捕まえます」

「頑張ろうね!吠天先輩の為に!!!」

 みんな成功するだろうと考えていたが……現実はそんなに甘くない。


 襲撃当日。

 空は曇り風が少し強い。

「……来た!」

 私は携帯を取りだし先輩方に連絡する。


「もしもし……わかったよ!」

 ボクはフィーからの電話にでながら走り出した。

 手にはお手製手榴弾(催涙ガス噴射型)を持っておりこれを使って逃げる作戦だ。

 他のみんなは今こちらに誘導するために動いている。

 今回の作戦は雰囲気作りの為に各々が結婚式に合った格好をしている、ボクは借り物のタキシードだ。

「見えた!」

 少し離れたところから煙が上がる。

 ボクはタキシードが汚れないように塀を乗り越え隣の道に飛び出す。

「……え?」

 目の前には止まっている車、黒いスーツを着た男達、そして……。

「吠天……先輩?」

 男達の間に見知った先輩の姿があった。

「何してるんですか!?逃げるんですよ!」

「何をしてるんですか!?はこっちの台詞……少し落ち着けばわかるよ?」

 吠天先輩に言われ深呼吸を数回する。

「……バレていたんですね?」

「匿名で情報提供があったのよ……みんなお願い」

 吠天先輩の合図で周りにいた数人の男達がこちらに向かってくる。

「くそっ」

 直ぐにタキシードのネクタイを外し構える。

 両手を使って一番最初に来た男を投げ飛ばす。

「あの子は柔道と空手の有段者よ」

 吠天先輩が離れたところから助言をする。

「しゃらっ!」

 近づい来る男達を外回し蹴りや背負い投げでかたしていく。


 向かってくる最後の男を投げ先輩に向き直る。

「先輩逃げますよ!」

 先輩に一歩近づく、それに合わせて先輩の横に立っていた最後の一人、黒眼鏡のハゲが立ちはだかる。

「…………」

「…………」

 お互い無言で睨み合う。

 ハゲは静かに構えをとる、構えはボクシングだ。

 互いにゆっくりと間合いを詰める。

「しゃらっ!」

 相手の襟を素早く取りにかかる、しかし相手は右に避けると直ぐに左手で殴りかかってくるそれを避けて隙ができた顔面に拳を叩き込む……がまたも避けられ、こちらが体勢を立て直そうとしたとき予想外の攻撃を受けた。

「うぐっ……」

 相手のスタイルを間違えていた。

「キッ…ク、ボク…シングか……よ…」

 相手の膝蹴りが鼻にヒット、直ぐに拳を構えて顎に強烈な一撃を入れてくるハゲ。

「助けに来る必要なんてない!……助けなんていらない!……」

 顔は涙でぐちゃぐちゃだった、泣かせたのはボクなのだろう。

 吠天先輩はハゲに何か指示を出すとそのまま歩き去っていってしまった。

 もう一度名前を呼ぼうとしたがその前にもう一度ハゲに腹を殴られ、そこでボクの意識は途絶える…………。

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