第一章 君の生きる世界
五十層の奥にあったのは、洞窟内部とは思えない程綺麗な壁の小部屋だった。小部屋にあったのは、見た事も無い計器類、そして大量のモニター。
電源が切られているのか、そのどれもが光を失っていた。
「……なんだここ?」
勝手に触っていいものかどうか迷うが、ひとまず放置し、更に奥へと進む。
一度大きな曲がり角があり、そこを曲がると、明るい光が差し込んできていた。
「……行こう」
「ん」
繋いだ手の温もりを忘れないように、しっかりとフィリアの手を握る。
光へと進む。その先が、希望の光に照らされた地だと信じて。
何も考えず、ただそこへ。
ゲームをクリアしたと言う興奮に身を任せて。それを喜んでくれるであろう人の笑顔を思い浮かべて。
そして。
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「一つ面白い話をしてやるよ」
キジンはそう断りを入れて、話し出した。
「とある世界は、魔物の出現で文明社会が崩壊しました。後に魔王と呼ばれる者が生み出した魔物は、生物として根幹から違いました。剣で貫けない強靭な皮膚、軽々と鋼鉄を切り裂く鋭い爪。口から炎を吐くファンタジックな内臓器官。人類は原子レベルで異なる新たな敵に、敗戦の一途。次々と滅んで行く村、街、都市、国に世界は恐怖に陥ります」
それはどこでにもあるようなファンタジーのお話。
「けれど魔物の出現は悪い事だけではありませんでした。魔物を倒した時に手に入る素材は、停滞し始めた文明の進化を助けになったのです。予備知識として、当時その世界では資源の枯渇が見えていました。ですので魔物は、人類共通の敵でありながら、素晴らしく魅力的な資源でもあったのです」
戦争の原因は、人種差別や宗教は建前であって、結局の所資源欲しさ。
人類救済を謳える、万人に取っての敵は最高の戦争相手。
「そうなってくると人は強欲なもので、今まで生き残るに精一杯だったはずなのに、いつの間にか魔物を倒し、更なる生活の発展を目指していました。魔物は倒せない事はありません。けれど、一体の魔物を倒すのに何十人が犠牲になります。それは良くない。さて、そう考えたその世界の統率者は、一体どのようにしてこの状況を打破しようとしたと思いますか?」
「…………」
唐突に質問されても、そう簡単に答えは出ない。
俺達が沈黙する事も奴の予定に入っていたのか、実に自然な流れでキジン少年は言葉を紡ぐ。
「初めての挑戦者ですので、スペシャルヒントを差し上げましょう! ヒントはこの一回だけですよ?」
クイズ番組の司会者気取りで、実に上機嫌に喋る。
「ヒント! 《魔王》が生み出した《魔物》が世界を滅亡に導いています! まぁ大変、早く誰か助けて〜。でもそんな英雄なんて都合良くいないよ……。いないんなら、どうすれば良いんだろうね? っと、うわぁ、これは大きなヒントだ〜! さあ挑戦者さん!」
魔王の世界に、英雄はいない。
創るか、奪えば良い。
「勇者……召還」
俺の呟きに、キジンは笑みを浮かべ、奥を指差した。
「この先に真実がある」
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「そういう……ことかよ……」
Gardenから解放された俺の眼下に広がる光景に、俺は泣き笑いのような表情を浮かべた。
『これはデスゲームであっても、ゲームである』
隣の少女を思わず抱きしめる。
キョトンと俺を見上げる『召還獣』——いや、一人の少女は消えない。
『勇ましき者よ。汝がこの先辿り着き得る物は、それ相応の報いであろう』
俺は、確かに報いを得た。
ゲーム参加報酬として、一人の少女の命を。
ゲームクリア報酬として、『真実』を。
『お前は確かに体感したはずだ。たった一度だけ、仮想現実をな』
ボックスの操作はたったの一度。
足が地につかない、説明出来ない居心地の悪さ。
まるで偽物、実在しない世界であったような。
『この先に真実がある』
眼下に広がるのは、広大な世界。
一面に広がるのは海。水平線の先は見えず、その世界が球形である事を物語っている。空を飛ぶのは、洞窟で見たような巨大な龍。浦風が髪をなびかせる。
俺が抱きしめる少女は、とても暖かい。どちらとも解らない血の巡る音を感じ取る。
厄介なもので、意識するとどうしようもなくなる感情が俺の胸で息づいていた。
死んだ少女が生きていても、俺のこの感覚、感情は本物だ。
『この世界は現実だ』
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『あなたは英雄になりたいですか?』
女神様が問うたその質問に、俺は[いいえ]の選択肢を選ぶ。
悲劇無くして、英雄は現れない。英雄無くして、悲劇は終わらない。
だから、英雄にはなりたくない。英雄を必要とする悲劇なんて起こらなければ良いのだ。
『それなら、あなたは一体どんな人になりたいんですか?』
その問いに、俺は笑みを持って答えた。
俺を差し置いて理不尽を振るう者を許さない、この世のありとあらゆる理不尽、その元凶になりたい。
歪んだその願望は、言葉にすれば簡単だ。
『俺は、魔王になりたい』
だから俺は、魔法使いだったのだ。
本来ならこの後二章が続くのですが、モチベーションが上がらないので完全な未定。
という訳で、完結設定です。
感想をお待ちしてます。




