無意味な雨宿り
※『なろうラジオ大賞7』の参加作品になります。
1000文字以下のサクッと読める短い作品(多分ほっこり系)です。
今回、珍しく『現実恋愛』のジャンルになります。
「なんっで傘、持ってないかなー」
「そっちこそ、なんで今日に限って忘れちゃうわけ?」
「この間使った後、鞄に入れ忘れた……」
「使えないなー」
「人を当てにするなよ!」
数秒前、急に空から大粒の雨を落とされた二人は、通り抜けをしようとしていた公園にある屋根付きのテーブルベンチに駆け込んだ。
同じ中学校に通う二人は家が隣同士なため、よく帰り時間が重なる。
本日もたまたま一緒になり、ダラダラしゃべりながら家路へと向かっている最中の出来事だった。
「凄いどしゃ降りなんですけど……」
「でもすぐ止みそうじゃないか?」
「そうかなー」
疑わしげに空を見上げた少女が突然くしゃみをする。
「うわっ! なんでそんなに濡れてんだよ!? 拭けよ!」
「ハンカチも忘れた……」
「しょーがねーなー……。確か使ってないタオルが……」
少年は鞄の中を探り、白いタオルを引っ張り出す。
すると、タオルとともに黒い何かがコロンとテーブルの上に転げ出た。
それを目にした少女が勢いよく立ち上がって叫ぶ。
「ああーっ!! 傘ぁぁぁー!!」
だが、その反動で少女の鞄がテーブルの上で倒れる。
すると、少女の鞄からも水色の何かが転げ出てきた。
その瞬間、二人は無言となる。
少女の鞄から転げ出てきたのは、白い水玉模様の折りたたみ傘だった。
◆◆◆
十五分後。
雨足が弱まり、二人は再び家路へと向かっていた。
「なんっで傘ないとか言うかなー」
「だ、だって! この傘、お気に入りだから使いたくなかったんだもん!」
「それ……折りたたみ傘の意味ないよな?」
「そっちだって最初は忘れたとか言ってたじゃない!」
すると、少年は一瞬だけ目を泳がせた後、溜め息のように小さく息を吐く。
「色が黒いから鞄と同化してて気づかなかった……」
「ダメすぎでしょ!」
「今こうして帰れてんだからいいだろう!?」
いつも通りの他愛もない会話をしながら帰路に向かう二人。
しかし少女は、少年が傘を忘れたふりをしたことに気づいていた。
少年は昔から嘘をつく時、気持ちを落ち着かせるために必ず一呼吸する癖がある。
そして少年も少女の言い分が嘘であることに気づいていた。
実は少女が、あの折りたたみ傘を友人に貸しているところを見たことがあるのだ。
少女が嘘をついたのは、少年と一緒の傘に入りたかったため。
少年が嘘をついたのは、少しでも長く少女と一緒にいたかったため。
そんな二人を見守るように霧雨となった雨は、少年の黒い傘のみを湿らせる。
お読みいただき、ありがとうございました!
「そういえばなろうラジオ大賞に参加したことなかったなー」と思い、今回現実恋愛で参加してみました!
1000文字縛り、きつすぎる……。(-_-;)
皆さん、よく1000文字でお話をきれいにまとめられるなー。




