表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生女騎士と前世を知らぬふりする元カレ~二度目の人生で、愛する君は敵だった  作者: アニッキーブラッザー


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

16/34

第16話 人材登用

「し、失礼いたしましたっ!」

「ご、ご到着とは存じ上げず……!」

「申し訳ございません!」

「いいぇ、そ、その前に、ラヴィーネ隊長だけならまだしも、な、なぜ姫様までこのようなところに!?」


 誰かが椅子を倒し、誰かがカードをばら撒き、誰かが自分の足につまずいて転びかける。

 それでも全員が、ほぼ同時に地面に膝をつき、土下座のような姿勢で一度頭を下げた。

 そして、すぐに一同慌てて立ち上がり、敬礼の姿勢を取る。

  額には冷や汗が滲み、背筋は硬直し、誰もが恐怖に震えていた。

 ラヴィーネは、そんな彼らの様子を静かに見つめていた。

 セラフィナは、何も言わず、ただ微笑を浮かべていた。

 そして……


「ラヴィーネ……そして……姫……だと?」


 鉄格子の前で座るアマンスもまた驚いた様子で呟く。


「また、そなたが来るとはな。さらに、今回は思いもよらぬ大物まで……」


 必死に冷静さを取り繕いながらも、アマンスは心の中で……


(カノ……まさかまた来るなんてな……っていうか、何で帝国の姫がいんのぉ!? この金髪ドリル、セラフィナとか言ってたけど、たしか色んな意味で有名な、あのセラフィナだろ? なんだ? 何が起こってるんだ? 何か、かったるい雰囲気を感じるんだが……)


 それは、騎士アマンスではなく、前世の日之出大翔そのままの心の叫びだった。

 寂しいような、嬉しいような。 そんな複雑な感情が、胸の奥で静かに揺れていた。


「わざわざ大帝国の皇女まで連れて……自分の処刑でも決まったか?」


 とりあえず混乱しながらもアマンスが問うた瞬間、セラフィナが笑った。


「ふふ……噂のアマンスですのね。まさか、私が現れたというのにしばらく無視するなんて……だから看守含めて……死刑……かしら♪」


 冗談交じりのその言葉に、ラヴィーネは眉をひそめる。

 看守たちもビクビクしている。


「さて、冗談はさておき、まずは……」


 セラフィナは、冗談めかした言葉の余韻を残したまま、ゆっくりと一歩前へ出た。  そして、スカートの裾を両手で軽く摘み、優雅に膝を折る。


「帝国皇女、セラフィナ・アイソレイト。王国の魂にして英雄とも称えられたアマンス殿。こうして直にお目にかかれて、光栄ですわ」


 その所作は、まるで舞踏会の挨拶のように洗練されていた。

 だが、その瞳には冷たい光が宿っており、礼儀の奥にある『選別の視線』が隠しきれていなかった。

 ラヴィーネは、わずかに目を伏せる。  

 看守たちは、息を潜めたまま動けずにいる。

 アマンスは、しばし沈黙した。その視線は、セラフィナの仕草をじっと見つめていた。


(……査定……してるのか? ただ、とりあえず俺も……)


 アマンスはゆっくりと立ち上がり、背筋を伸ばした。  

 囚人服のままではあったが、その姿勢には騎士としての誇りが滲んでいた。


「バニシュ王国軍の騎士、アマンス・グレイブ。 現在は囚われの身ですが、名乗る資格はまだあると信じています」


 その声は、静かでありながら芯が通っていた。  

 セラフィナは、くすりと笑みを浮かべた。


「ふふふ、なるほどね」


 その言葉に、ラヴィーネの眉が再びわずかに動いた。

 看守たちは、誰もが息を止めていた。

 地下牢の空気は、再び張り詰める。


「生きることは諦め、見苦しく抵抗する様子はない。でも、負け犬の目はしていないですわね」


 セラフィナはニヤニヤと笑った。

 まるで品定めするように、彼をじっと見つめる。


「みっともなく牢の中にいるのに、英雄の風格は確かに感じる。容姿も悪くない。清潔にしたら、もっとよくなるでしょうね……なるほど。確かにあなたなら、ラヴィーネに勝っていたとしてもおかしくないかもしれないですわね」


 ラヴィーネは、黙ってそのやり取りを見つめていた。

 そして、セラフィナは品定めを終えて答えを出す。


「アマンス・グレイブ、私に忠誠を誓い、私のモノになりなさい。さすれば、手元に置いて可愛がってあげますわ」


 その言葉に、アマンスは静かに首を振った。


「生き恥を晒す気はありません。たとえ国が滅んでも、自分はバニシュ王国の騎士であります」


 その言葉は、囚人服の男とは思えないほど凛としていた。

 だが、セラフィナはむしろ嬉しそうに目を細めた。


「まあ……断るのね。いいですわ、そういう反骨心。私、そういうの、嫌いじゃありませんわ。目の前の生に見苦しく飛びつかないところ、いいですわ」


 セラフィナは汚れた鉄格子を素手で掴むほど身を乗り出す。その瞳は、まるで獲物を見つけた猛禽のように輝いていた。


「よろしくて? あなたが私のモノになれば、衣食住、三食付き。牢なんてすぐに出してさしあげますわ。服も整えて、髪も整え、ちゃんとした部屋を用意しますわ。ふかふかのベッドでね。それに、私が気に入るようになれば……そうね、あなたなら……男として初めて、私の夜伽の相手をさせてあげてもいいかもしれませんわね」


 その声には、妙な熱がこもっていた。看守たちは顔を引きつらせ、ラヴィーネは眉をひそめたまま沈黙している。

 セラフィナは、興奮したように言葉を続ける。


「あなたなら、きっと私を退屈させない。だから、絶対に私のモノにしますわ。逃げられると思わないことですわ」


 アマンスは、しばらく黙っていた。  

 その場の空気が、彼を飲み込もうとしていた。

 そして、ぽつりと――


「……かったる」


 その一言が、場の空気を切り裂いた。

 セラフィナは目を見開き、ラヴィーネは心臓を鷲掴みにされたかのように全身が震えた。  

 看守たちは、誰もが息を止めた。

 アマンスは、我に返ったように口元を押さえたが、もう遅かった。


(……あ、言っちまった)


 それは、騎士アマンスではなく、前世・日之出大翔の本音だった。この場に似つかわしくない、だが彼らしい一言。

 セラフィナは、沈黙の中で笑った。


「ふふ……何かしら今の? ひょっとして、それがあなたの本性かしら? でも……いいわ。もっと気に入りましたわ! 簡単に手に入らない! だからこそ尊く価値がある! ああ、いいですわ! ラヴィーネ以来でしてよ、ここまで欲しいと思った人は!」


 セラフィナは愉快そうに笑っていた。  

 だがその隣で、ラヴィーネは目を伏せる。


(い、今……また、かったるい……って? まさか……そんなはずはない。違うに決まって……けれど……)


 今の「かったるい」その言葉に、胸の奥で否定したはずの疑念が静かに揺れた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
↑面白いと思っていただけたら輝く星を、作者にブスッとぶち込んでください!!
とても大きな励みとなります!!
どうぞよろしくお願いいたします
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ