第八十五話 間引き
「暗黒魔導師様が主力を率いて出陣した今、この地を守る『スケルトン戦士ヴィープ子爵』様に勝てるかな? って! 『治癒魔法』と傷薬(大)を一気に投げつけるな! 卑怯だぞ! ちゃんと戦え!」
「勝てばいいのさ。勝てばね」
「なんか、アーノルドが悪役みたいね」
「じゃあ、ローザは正々堂々と戦ってね」
「トドメよ! 骨!」
「せめて、名前くらい覚えろ! このガキがぁーーー!」
ゲームでもそうだが、アンデッド系のボスはハメ技で簡単に倒せるな。
『治癒魔法』はともかく、傷薬(大)を大量に投げつける攻撃は、人間や他の生物で例えるなら、濃硫酸を大量に振りかけられているに等しい。
誰でも大ダメージを与えられるが、効率よく錬金できないと、金の力で倒すみたいな戦法になってしまう。
シャドウクエストだと、錬金ができないとなかなかお金が貯まらないので、人によっては使えない戦法だったのだ。
俺みたいに錬金を極めておけば、比較的低コストで強力なアンデッドを倒せるけど。
「火魔法もやめろ!」
「オードリー、じゃんじゃん火魔法を使って焼き払って」
「わかりました」
スケルトンは骨だけど、超高温で焼けばすぐに骨が脆くなって大ダメージを受ける。
火葬場で焼かれた骨みたいになるわけだ。
トドメに、レベルが150を超えたオードリーの火魔法を食らい、スケルトン戦士ヴィープ子爵はこの世から完全に消滅した。
「またゾンビの骨が出たわね」
「オッケー。あとで使える」
「こんなものが素材扱いなんて凄いわね」
「アーノルド様、今度はどこに飛びましょうか?」
「ええと……。じゃあ、西のこの辺に飛んでくれ」
「わかりました」
レベル150を超えたオードリーに『補助魔法』も覚えさせたのだが、ゲームと同じように『縮地』、『エスケープ』を覚えてくれてよかった。
この魔法は、要は某RPGの〇ーラと〇レミトだ。
『補助魔法』に属するのだが、とにかく覚えられる可能性が低いのだ。
現に、俺たちの中では誰も覚えられなかった。
ゲームでも覚えられるかどうかは完全にランダムで、キャラメイキングの時点でそこを諦めると、ゲームで移動に時間がかかってイライラしてしまう。
初心者はそこまで考えないから、中盤、終盤とゲームが進むにつれ、移動に時間がかかってゲームを投げ出す人が多かった。
ゲームの設定では、行ったことのある場所に魔法で瞬時に移動できたり、ダンジョンから一瞬で脱出できる魔法を使える人がそんなに多いわけがない、という解釈だそうだ。
オードリーは両方覚えられるので、俺は彼女を仕官させたわけだ。
魔王軍討伐後も、我がホッフェンハイム子爵家の役に立つ。
第一弾のレベル上げに成功した俺たちは、今、魔王軍の支配領域に分散配置されているボスモンスターを間引いていた。
魔王軍の戦力を効率よく落とせるし、ドロップする魔石の質とアイテムも悪くないからだ。
経験値も多く手に入る。
ただ、順番に近場から倒すと、あの暗黒魔導師に行動パターンを読まれる可能性があった。
大群で待ち伏せでもされると面倒なので、そこでオードリーの『縮地』というわけだ。
魔王軍の支配地をランダムに飛んで、ボスをピンポイントで倒す……実質暗殺しているようなものだな。
魔王軍からすれば、東でボスモンスターが倒されたと思ったら、次は西といった感じなので、対応は難しいと思う。
『縮地』は行ったことがある場所にしか飛べないので、これからオードリーをあちこちに連れまわす必要があるのだけど、それは魔王討伐後の話だ。
「でも、変だな」
「シリル、なにが変なの?」
「俺たちの行動の予測がつかないのも事実だが、魔王軍の反応が低いというか……警戒が薄くないか?」
「警備体制が緩いですね。それは感じます」
シリルとビックスは、魔王軍の対応が悪いせいで、暗殺作戦が上手くいっている面もあると思っているようだ。
確かにそう言われると、そんな感じがしなくもない。
「でもそれは、魔王軍の支配領域が広いから分散し過ぎなんだと思うわ」
「そうか? それにしても、次々とボスモンスターが倒されているんだ。もう少し即応体制を取るべきだろう」
アンナさんの意見に、シリルが否定的な関係を述べた。
「魔王軍、忙しいのかな?」
忙しい……。
このところ損害が大きいので、忙しいのは確かかも。
四天王も、まさかのトラブルでもう一人しか残っていないのだから。
これはゲームの攻略チャートとまったく違う展開だ。
「じゃあ、次に飛んでくれ」
「わかりました。この廃墟と化した町ですね」
俺が地図で指差した場所に、オードリーは『縮地』で飛んだ。
ボスの場所は『隠し』も含めて俺がすべて知っているので、逃げられるとは思わないことだ。
その後も順調にボス狩りを続けていたが、あと少しでミッションコンプリートという時、ちょうど魔王軍とバルト王国の支配圏の狭間に飛んで来た時、俺たちはいかにも密偵といった感じの人間に見つかってしまった。
「探しました、アーノルド様」
「僕を探していたの? どうして?」
「ロッテ伯爵様が探しているのですよ」
「あの人がねぇ……」
俺たちの存在を煙たがっていたくせに、急にどうしたんだろう?
「実は数日前、魔王軍が城塞都市に攻め寄せてきました」
「よくそんな余裕があったな」
誰がそんなことを?
暗黒魔導師……あの策士が、そんな無駄なことをするかな?
ちょっと予想外だった。
「防戦で被害が大きかったから、また傷薬が欲しいのかな? それとも、補修用のコンクリート?」
「それが、バルト王国軍全軍と、ホルト王国軍以外の派遣軍全軍が再び大規模な会戦となりまして……」
「ごめん、ちょっと意味がわからない」
なぜこの時点で、わざわざ犠牲の大きい大規模な野戦をするのかな?
バルト王国軍と派遣軍の連中はバカなのか?
「ホルト王国軍は、城塞都市から出陣していないのね?」
「はい。ローザ様の仰るとおりです」
この密偵、かなり優秀な人だな。
オードリーの『縮地』であちこち飛び回っている俺たちの移動パターンを読んで、無事に合流できたのだから。
ただ、そこまでしたということは、よほど状況が悪いのであろう。
「ちなみに、会戦の勝者は?」
「勝ちとか、負けとか。あまり関係ないかと。両軍が壊滅状態であり、双方全軍が擦り切れるまで潰し合いましたので……」
魔王軍も退かなかったのか。
そして全力で殺し合ったと……。
これでは人間側も魔王軍の支配領域に手を出せず、魔王軍も人間側の領域に手を出せない。
完全な膠着状態に陥ったわけか。
あれ?
でも待てよ。
魔王を倒すのが目的の俺たちには、かえって都合がいいのか?
魔王軍の主力も壊滅状態なのだから。
「そんなわけでして、アーノルド様には……」
「わかった」
そんな状態では傷薬も足りないだろうし、ここは一旦ボスの暗殺作戦を中止して城塞都市に戻るしかないか。
どうせ魔王軍も、再建中の戦力が壊滅したのでなにもできないだろう。
「戻ろう、ローザ」
「そうね」
裕子姉ちゃんも賛成したので、俺たちはオードリーの『縮地』で急ぎ城塞都市に戻るのであった。
なおオードリーは、過去に城塞都市にお遣いで行ったことがあるそうで、特に問題なく『縮地』で飛ぶことができた。




