第六十八話 ドーピング
「これらのアイテムは?」
「魔王討伐に必要なものだ。己のステータスを見ながら100になるまで摂取するんだ。なお、これらの錬金物の名前、製造方法、存在することは秘密にしてほしい。では、始め!」
「この青臭いのを……ニガ不味いな、これは」
「なにこれ、知力が上がるけど酷い不味さね。しかも臭いし……」
「アーノルド君が世界の常識を覆すような、世間に漏らすと大変な発明をしているけど……この羽、敏捷が上がるけど飲みにくい」
体力上昇青汁、糞の知力増強剤、豆な行動薬、最後の力、快速の羽。
俺がデラージュ公爵家の御用商人ジキタンに頼んで密かに材料を仕入れ、作りに作りまくったものだ。
まずは、シリル、アンナさん、エステルさん、ビックス、リルルの基礎ステータスをすべて100にしてもらう。
自分の基礎ステータスは自分にしかわからないので、100になるまで摂取してもらうしかない。
えっ?
『鑑定』で見られないのかって?
実は、人間のステータスとレベル、特技は、『人物鑑定』という『鑑定』並にレアな特技を持つ者しか見れなかった。
他人のカードを覗き込んでも本人にしか見えないし、まさか対象を拷問して聞き出すわけにもいかず……。
これまでステータス万能薬で少しずつ基礎ステータスを上げてきたが、一度に0.1ずつでは効率が悪い。
そこで、秘密にしていた五種類のステータス上昇魔法薬を用い、一気に基礎ステータスを底上げすることにした。
あとは、プラチナナイトを討ったあとから、経験値が貯まってもレベルを上げるなという命令も出してあった。
四天王二人分の経験値なので、たとえ頭割りでもかなりの経験値が貯まっているはず。
基礎値を100にしてからレベルを上げれば、爆発的に強くなるはずだ。
残りのレベル上げは、マカー大陸に上陸してからだけど。
「同じ錬金術師として、調合レシピが知りたいが……不味っ!」
「不味いよぉ」
「でも、本当にステータスが上がるんだ。凄いな、アーノルド君は」
「さすがはアーノルド様……うげっ」
「アーノルド様、必要量を全部摂取するのに時間がかかりそうです」
「マカー大陸に上陸するまでが期限ね」
とはいえ、これは上陸ギリギリまで計画的に必要量を摂取するしかない。
それは宿題として、一週間後、俺たちは自分の家を出ることになった。
真夜中に他人の目を忍んでの出発なので、まるで夜逃げみたいだけど。
「アーノルド、この藁人形は、前の身代わりのやつかしら?」
「似てるけど違うよ。これは、監視者を誤魔化すやつだね。みんな、どれか一体に髪の毛を一本入れて」
「凄いね、アーノルド君は。『偽物藁人形』を作れるなんて」
「エステルさん、偽物藁人形ってなんですか?」
「私たちの身代わりをしてくれるんだよ。ほら」
髪を入れた藁人形は、その髪の持ち主と同じ姿に変身した。
「僕たちはこの家にいることになるってわけです」
「まったく俺たちと同じだな。よくできてるよ。これで安心だ」
「ところが、これは動けないので」
偽物藁人形は、姿形は見分けがつかないほど同じになるのだが、まったく動かないのが問題だった。
長時間監視されると、気がつかれてしまうかもしれないのだ。
「だから、デラージュ公爵様の手助けが必要なのさ」
俺たちがさらに危険になったので、錬金工房への移動も禁止し、この家で待機してもらう。
そういう名目で偽藁人形を家の中に配置し、不自然にならないよう定期的に動かす。
人が直接動かすとバレるので、魔法で動かすわけだ。
デラージュ公爵に頼まないと、口が堅い優秀な魔法使いに仕事を依頼できないわけだ。
「なるほど。なら、なるべく早く終わらせましょう」
「夏休みが終わるまでに、魔王を倒す予定だけど」
「アーノルド君、大丈夫なのかしら?」
「大丈夫だよ。ちゃんと僕が立てた計画どおりに行けば」
とはいえ、焦るような真似はしない。
少しくらい予定より遅れても、俺たちなら学校での遅れは簡単に取り戻せるのだから。
「というわけで、いざ出発!」
「マカー大陸にだね」
「いえ、まずは『ルクセン島』の『世界カジノ』まで」
「遊び? いいのかしら?」
「当然、魔王討伐に必要だから寄るんですよ。対魔王戦を有利にするために」
俺たちは密かに屋敷を出て、そのまま王都北部の港からマカー大陸へ……その前に、賭博ギルドが運営している世界で一番大きなカジノがある島へと向かうのであった。
魔王討伐に必要なものを手に入れるために。




