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【書籍化】骨姫ロザリー ~死者の最期を追体験し、力を引き継ぐ~  作者: 朧丸
第四章 暗雲低迷、雷鳴轟く

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341 黒獅子と嘆きの騎士―下

 ――レオニードの門、応接間。


「これは大叔父殿!」


 武人然とした態度で知られるニドには珍しく、親しげな振舞いで彼は先王弟を出迎えた。


「おお、ニドよ!」


 先王弟もこれに応じ、二人は笑顔を湛えて抱き合った。

 身体を離し、先王弟が言う。


「息災であったか?」

「ご覧の通り。風邪ひとつひいておりませぬ」

「そうか、そうか。もう冷えるでな、油断するでないぞ?」

「ご心配ありがとうございます」


 レオニードの門は戦時を想定して建てられた要害ということもあり、応接間は無味喧噪な空間だった。

 テーブルがひとつあって、それを挟んで椅子が三脚ずつあるだけ。

 ニドは先王弟に椅子を勧め、彼が座るのを見届けてから、その対面の椅子に腰かけた。

 先王弟の後ろにドルク、ニドの後ろにローレライがつく。


「して、大叔父殿。どのような御用向きでこんな僻地まで足をお運びに?」

「……儂も年をとった。死ぬ前にもう一度、皇国の地を踏もうかと思うてな」

「……皇国に攻め入ると?」

「攻めはせぬ。行くだけじゃ。……(ぬし)は供をしてくれるな?」


 この年寄りの妄言としか思えない危険な話を後ろで聞いていたローレライは、汗が噴き出る思いだった。

 しかし、ニドは即答した。


「もちろん。喜んでお供いたします」

「……フフ、戯れじゃ。許せ」


 先王弟は愉快そうに笑い、続けた。


「実はニドに言っておくべきことがあってな。それを伝えに来た」

「ほう。どのような?」

「儂はウィニィを討とうと思う」

「!」


 ローレライは「また戯れか」と冷ややかな視線を老人に向けた。

 しかしニドはこれには即答せず、じっくりと考えてから返事をした。


「それは……ご冗談ではありませんな?」

「うむ」

「理由をお聞かせくだされ」


 先王弟は遠い目で応接間の天井を見つめた。


「儂は……年をとった。これは本心じゃ。先が長くないと実感すると思うことがある。このまま生を終えてよいのかと。やり残しはないかと気になり始めるのじゃ」

「それが、なぜウィニィを討つという話に?」

「近日、皇国と休戦協定について話し合う会議が行われることは知っておるな?」

「存じております」

「その代表がウィニィに決まった」

「「!」」


 これにはニドも珍しく目を丸くし、ローレライなどはとっさに口元を押さえるほどの驚きを見せた。

 先王弟が続ける。


「ウィニィが国の代表として、お主のいるこのレオニードの門を通り、皇国との重要な決議をする。……これはいかん。この国にとてもよくないことを招く」


 ニドは深く、ため息をついた。


「……私にどうしろと?」

「何もするな! 絶対に関わるでないぞ。お主は儂がやったということだけ胸に秘めていてくれればよい!」


 ニドは再びため息をつき、ふとドルクのほうへ目を向けた。


「卿は誰だ。〝牧杖〟にいた覚えはないが」


 ドルクは礼に則ってその場で膝をつき、王子ニドに首を垂れた。


「お初にお目にかかります、ニド殿下。ランスロー騎士団〝遠吠え〟団長、ドルク=ラニュードでございます」

「ほう。卿が」


 ニドは何度か頷いた。

 そして次の瞬間、その身に留めていた魔導を一気に解き放った。


「――卿が大叔父殿を唆したのか?」


 魔導の暴流が同席する三人に死の恐怖を植え付ける。

 ドルクは歯を喰いしばり、ニドを見上げた。


「……そうお考えいただいて結構にございます」


 刹那、ローレライが叫ぶ。


「出合え! 者共、出合え!」


 副長の命に従い、扉から黒獅子騎士団が部屋に雪崩れ込む。

 あっという間に黒騎士が応接間を埋め尽くし、先王弟とドルクを包囲した。

 ニドが言う。


「大叔父殿、しばしご容赦を。乱を目論む大罪人を討ち取りますゆえ」


 先王弟は返事せず、しかし椅子から動かなかった。

 無数の刃先を突きつけられたドルクは、未だ床に膝をついたまま。

 ドルクは膝を揃えて座り直し、太ももに両こぶしを置いて、叫んだ。


「ウィニィが玉座に就こうとしている!!」


 この叫びを聞いた黒騎士たちのほとんどが、その場で動きを止めた。

 その反応を見てとったドルクが、声高に続ける。


「黒獅子の騎士たちに問う!」

「これが卿らが見ていた未来か!」

「こんな僻地で現れることもない皇国騎士を警戒しているのは何のためだ!」

「希代の武人に! 王国で一番の騎士に仕えるため! そして!」

「その武人が次代の王となった暁には、その手足となって王国を支えるためであろう!」

「それが卿らの思い描いていた未来ではないのか!」


 黒騎士たちの中に剣を下ろす者は一人もいない。

 しかし、その表情にはっきりと動揺が浮かんでいた。

 ドルクがさらに続ける。


「しかし! その未来は訪れない!」

「このままだ! 来ないエサを暗い穴倉で待つ蛇のように!」

「王都で輝くウィニィを羨みながら、この飛竜渓谷で生涯を終えるのだ!」

「卿らはそんな未来を受け入れるのか!」

「私なら御免(ごめん)(こうむ)る!」

「あのように華奢で小さく! おそらくは魔導も私や卿らより少なく! 手折(たお)ればそれまでの花のような御仁を頭上に戴くことなど――断! じて! ない!」


「そこまでだ」

「そこまでにせよ」


 二人の王族が同じように止めに入り、ドルクは演説をやめて床に額を擦りつけた。


「熱が入り言葉が過ぎました、お許しを……」


 そう深々と謝罪してから、ドルクは再び頭を上げた。

 そしてその顔に怯えや迷いを一切見せず、ニドに言い放った。


「討ち取るのであれば、どうぞご自由に。何も後ろめたいことはございませぬ」

「こやつ……」


 ニドは目を細め、品定めするようにドルクを眺めた。

 そこへ先王弟が言う。


「ニドよ。儂はこやつに賛同したのだ」

「大叔父殿……おやめください」

「やり残しはないか気になると言うたであろう? ウィニィ王の治世となったとして、儂はそれを見届けることはできぬ。その前に死ぬからの。だが、想像することはできるのじゃ。ウィニィを王として戴く王国が、果たしてどのように変化するか。……どうしても気にかかるのじゃ」

「後世のためであると?」

「儂はお主が王となっても、地位も領地も名誉もいらぬ。今の暮らしでよい。ひとつ、望むことはあるが……些細なことじゃ、事が成ってからでよい」

「そもそもの話ですが――」


 ニドは先王弟に挑発的な目を向けた。


「――大叔父殿にウィニィをやれますかな?」


 先王弟は薄く笑った。


「キングメーカー。二度やったのだから、もう一度くらいやってみせようぞ?」

「フ。なるほど?」


 ニドはドルクを殺めることができなかった。 

 話を終えた先王弟は、ドルクを伴って帰路に就いた。

 彼はニドに対し約定などは求めなかった。

 事が成れば、必然的にニドが王になるのだから必要ない。

 そう言って上機嫌で帰っていった。


 面会を終えたニドは自室に戻った。

 執務室と寝室が一緒になった、中級騎士の住まいのような簡素な部屋である。

 唯一贅沢といえるのは、高級木材であるハイランド松を使用した安楽椅子。

 これに腰かけたニドは、目の前の壁に吊るした額縁入りの王国地図を眺め、思索に(ふけ)っていた。

 しばらくして――背後の扉がノックされる。


「ローレライにございます」

「入れ」


 扉が開かれ彼女が入室し、静かに扉を閉めた。


「ドロス殿下がレオニードの門の索敵区域から出られました」

「そうか」

「いかがいたします?」

「監視所のことか? そうだな……」


 ニドはレオニードの門の背後――王国側に、極秘の監視所をいくつも設けていた。

 それはニド自身がこの要害を攻めると仮定するならば、自分は力攻めではなく内応策をとることになるだろうと考えているからだ。

 背を討とうとする裏切り者を監視するため、レオニードの門周辺以上に監視者が目を光らせている。

 ローレライが言う。


「面会前に監視所へ送った【手紙鳥】の返事が届いております。すべての監視所が、先王弟殿下のお姿を確認しておらぬとのこと」

「【隠者のルーン】に類するような迷彩術か?」

「たった二人で来たことと符合しますね」

「あるいは移動系の術の可能性もあるが……術者は極めて稀。可能性は低いか」

「まだ追えます。ラムジーに追わせても?」

「やめろ。気づかれたらこちらの想定通りに動かなくなる」

「それは……」

「なんだ? 言いたいことがあるなら言え」


 ローレライは迷っていたが、意を決して口を開いた。


「想定通りに動いてほしい。それは――策に乗るおつもりだということですか?」

「ふうむ……」


 ニドは安楽椅子に深くもたれ、言った。


「ローレライ。私はお前にだけは嘘をつかない。つかないが――」


 そこで副長を振り返り、微笑みを湛えて続けた。


「――お前ほど私を知る者もいない。ならば私がどうするか、わかっているはずだ」


 キョトンとして聞いていたローレライだったが、遠い過去に思いを馳せ、やがて彼女の顔に次第に笑みが浮かんできた。


「たしかに。ローレライは知っておりました」

「うむ。私は門から離れられない。頼むぞ?」

「はい。お望みのままに――」

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― 新着の感想 ―
エイリスとニドが確執あるなら警戒してロザーリー同行させそう。 そうでなくても数年前にウイニイ襲われてるし、最近は剣王が無断で侵入してたから護衛固めてるんじゃないかな。
あけおめことよろです ・気になった事 ウィニィがロザリーと同い年(=ミルザ戦以後の生まれ)だから 時系列的にウィニィの事情をニドが知らないかもしれないと思い至りました 知っていてもおかしくは無いでし…
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