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【書籍化】骨姫ロザリー ~死者の最期を追体験し、力を引き継ぐ~  作者: 朧丸
第三章 我が騎士団

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334 オズの手下共

先週はインフルでした、失礼しました。

皆様もお気をつけくださいませ。

 城門手前の馬屋の前に、騎士が九人、(たむろ)しているのが見えてきた。

 セーロがコソリと尋ねる。


「どの方ですか?」

「金庫番か? あの体格のいい、金短髪の人だ」

「おお、若い! でも、たしかによさそうな方ですねえ」

「ほんとはりせちーのとこの副長さんが欲しかったんだがねえ」

「ん~、見れば見るほどよさそうだ。まさに人品骨柄卑しからぬ騎士。その辺、親分はからっきしですからね」

「何だと?」

「ああっ、ほらもう皆さん気づきましたよ? 笑顔、笑顔!」

「セーロ、覚えてろよ?」


 オズは突如として胡散臭いほどの笑みを浮かべ、騎士たちの下へ向かった。


「あ、どーも、ミンツパイセン! 受けてくださって嬉しいっす!」


 するとセーロが〝人品骨柄卑しからぬ騎士〟と評した金髪の若者が、にっこりと手を挙げて応えた。

 彼の名はミンツ=ヘイズルーン。

 オズがヒラ階級の年上を全員パイセン呼びする中で、ミンツはガチのパイセンである。

 俗に黄金世代と呼ばれるオズたちの学年の一つ上で、オズも在学中からよく知る人物なのだ。


 ミンツは優秀で人柄がよく、ヘイズルーン家は高位に名を連ねる貴族。

 さらに腰に下げるはリル=リディル英雄剣――つまりは首席卒業者でもある。

 オズが一番嫌いそうな属性の男だが、オズはむしろ彼を好んでいた。

 その理由は彼の在学中のあだ名にある。

〝世話焼きミンツ〟。

 アローズ家の当主ローレンに向かってオズが自称したあだ名の由来が彼である。

 優秀さも家格の良さも丸っきり無視されてこんなあだ名がついたのは、その世話焼きが度を越していたからだ。

 ミンツは困ってる仲間を放っておけない性分。

 そしてそのたびに貧乏くじを引いてしまうのがお決まりだった。

 同級生がバイト先で誤って仕入れた商品を全て買い取って、そのせいで課外授業の旅装を買えなくなったり。

 試験に落ちかけた仲間と一緒に徹夜して、一緒に寝坊して落第しかけたり。

 問題児だったオズもたびたび世話になっていて、そのときもよく一緒に教官に叱られたものだ。

 オズが吊るし人(ハングドマン)に編入されることになったとき、最初に声をかけてくれたのもミンツだった。


「オズ。まさかお前の部下になる日が来るなんて思わなかったぞ!」

「マジで来てくれて嬉しいっす!」


 ミンツと握手を交わし、身体をぶつけ合う。


「で、ですね。パイセンに副長をお願いしたいんですが……」

「おう。俺でいいなら世話焼いてやる」

「敵の世話までは焼かないでくださいよ?」

「はっは。それは約束できないな」

「え~、頼みますよ」

「わかった、わかった」


 そしてオズは次の吊るし人(ハングドマン)に顔を向けた。


「ライリ~。約束通り呼んでやったぞ?」


 雪かき仲間のライリー=ガラスは、不満げな顔をしてオズと握手を交わした。


「なんだ、その顔。筆頭になったら呼べって言ったよな?」

「言ったよ、言ったけど! なんか思ってた状況と違う!」

「そう?」

「小隊だし、ハンギングツリー離れるっていうし……」

「そっか。ミンツパイセンも嫌でした?」

「いいや? かわいい後輩の頼みだし、やりがいがありそうだと思っているよ。ライリーもオズの友人なら付き合うよな?」

「ええ~……」

「さすがはミンツパイセン!」


 三人目の吊るし人(ハングドマン)は、オズも初めて会う女騎士だった。


「あんたがアリス?」


 アリスは髪の右側は長く伸ばし、左側は刈り上げている左右非対称(アシンメトリー)な髪型で、鼻や口元にピアスを付けた女性だった。

 オズが手を差し伸べたが、彼女は応じない。

 そっぽを向いてそれから言った。


「なんであたし?」

「いやなに、問題児って聞いたから」

「ハァ?」

「あんた強いらしいじゃん? でも問題児だから仲間に信用されてない。そのせいで筆頭と動く小隊――一軍っていうのかね? そこに入れないんだろ?」


 悪童アリス=チェーンソーは片眉を上げてオズを睨んだ。


「うざ……だから何?」

「うちならいきなり一軍だ。この人数しかいねえから。よかったな?」

「……うっざ。帰るわ」


 踵を返したアリスに、オズが言う。


「アリ~ス。お前、帰るとこないだろ?」

「!」

「俺が引き抜いていいか打診したら、お前の上司は喜んで差し出したぜ? お前は厄介者だ、それはお前自身もわかってる」

「……だから? 別にあたしは吊るし人(ハングドマン)辞めて別の騎士団行ってもいいし」

「嘘だね。アリスは吊るし人(ハングドマン)を続けたいと思ってる」

「は? あんたに何がわかんの?」

「今ここにいるのが証拠だよ。本気で辞めてもいいんなら転属命令出た時点で辞めてる。こんな面倒くさそうな顔合わせになんてそもそも来ない。だろ?」

「……」

「そんなに睨むなって。とりあえずお試し期間ってことでついてくりゃいいじゃん? 俺としちゃあ、いてほしいから呼んでるわけでさ。一人くらい女がいねえと得る情報も偏るんだが、お堅い女騎士に来られると逆に困るのよ」

「……得る情報?」

「そう、情報。この部隊の任務は――スパイ狩りだ」

「「!!」」


 一同の顔が強張る。

 オズはそんな彼らの顔を愉快そうに見回しながら続けた。


「あるいは裏切り者狩り。我らが獅子王国に害をなそうっていうゴミ虫を見つけ出し、駆除するのが任務だ。そしてそれが、あんたら(・・・・)を入れる理由でもある」


 そう言ってオズは外道上がりの従騎士六人に目を向けた。

 従騎士とは、騎士でありながら何らかの事情で正当な騎士として扱われない騎士のことである。

 たいていは犯罪者である外道上がりか、国を捨ててきた出奔騎士で、ここにいる六人はすべて外道上がりである。

 吊るし人(ハングドマン)として任務に従事している者たちなので身だしなみを整え、アリスのような奇抜な格好をしている者はいない。

 しかし制服の陰から見える入れ墨や傷痕、何より暗い世界を見てきた目つきが、彼らが外道上がりであることを如実に示していた。


「任務の性質上、裏社会から得られる情報が重要になってくる。そういう場面で頼れるのは経験者だ。かく言う俺も経験者ではあるが、にわか(・・・)に近い。だからあんたらを頼りたい。……とはいえ、だ」


 こちらの話に何の反応も示さない従騎士たちに、オズが茶化すような声で言う。


「俺がボスです、よろしくねー♪ つったって、怖い世界を生きてきたあんたらからすればハァ? って感じだよな? 俺って若いし、チョロそうだし。そうなんだよ、俺ってチョロいんだよ、チョロオズさんなんだよ」


 ニタニタ笑いながらそう言い、次の瞬間オズはこの場で初めて真面目な顔を見せて、続けた。


「……逃げていいんだぜ?」


 従騎士たちが顔を見合わせる。

 そんな彼らにオズがさらに続ける。


「お前らはもう外道じゃない。たしかに正当な騎士ではないが、お尋ね者でもないんだ。いつだって俺の下を離れていいし、ちゃんと辞めるって言ってくれれば、それを俺が首吊り公に伝えてやる。これからどう生きていくつもりかなんて聞かないし、また外道に堕ちてもそれはそのときのこと。公だってきちんと辞めると伝えられたら、それを追っかけて吊るそうなんて思わないさ。だから――それでも俺についていくって奴だけ残ってくれ」


 従騎士たちは再び顔を見合わせた。

 何やらぼそぼそと相談している。

 やがて、一番年かさの総白髪の従騎士が口を開いた。


「逃げたい奴ならもう逃げたぜ」

「……えっ。どういうこと? 二、三……ちゃんと六人いるよな?」

「逃げた奴が二人いて、枠があるなら行きたいって奴を代わりに連れてきた」

「あ、そうなんだ。名簿どうしよ、修正しないとヤバいかな……」

「俺らは逃げない。あんたについてくぜ」


 腰に巻いた革ポーチを漁って名簿を探していたオズは、総白髪の言葉を聞いてピタリと動きを止めた。

 そして目を細めて尋ねる。


「俺はあんたらにそんなふうに言われる覚えがない。なぜだ?」

「フン、あんた人は見るのに自分は見えないんだな?」

「勿体ぶるな。理由を言え」

「あんたの経歴さ。ソーサリエ出た一年目でミストを殺して逃亡。次に皇国の大魔導(アーチ・ソーサリア)を手引きしたと思えば、そいつと一緒になって埒外同然の大巨人と大立ち回り。そしてなぜか吊るし人(ハングドマン)に入ることになり、リセ筆頭の記録を上回る十六才での筆頭昇格ときた」

「うわ~、言われてみると俺の人生って波乱万丈……」

「こんな人間、そうはいねえのさ。あんたは大物だ、この好機は逃せねえ」


 総白髪の目に宿った輝きは、外道のギラつきとは違うものだった。

 それを見てとったオズは右手を差し出した。


「見返りは期待するなよ?」

「あんたといりゃ確実に楽しめる。それが見返りさ」


 総白髪がオズの手を握り、二人は身体をぶつけ合った。

 それから従騎士一人一人とも握手を交わし、オズは一同を見回した。


「よーし! 顔合わせが済んだところで出発するか! おー!」

「ちょっと待って」


 元気よく腕を挙げていたオズは、ガクッと項垂れた。


「何だよ、アリス。せっかく勢いつけたのに腰を折るなよ」

「そいつは何?」


 アリスはオズの横にいたセーロを指差した。

 皆の目が彼に集まる。

 セーロはオズの声に合わせて腕を天に突き上げていて、その腕をゆっくり下ろして自分を指差した。


「あっしですかい? オズ親分第一の子分、セーロでございまさあ!」


 セーロは口上よろしくそう言ったのだが、第六指の面々の見る目は冷たかった。

 アリスが冷めた顔で言う。


「こいつ、魔導なくね?」


 ライリーが頷き、総白髪も同意する。


「そう見えるね」

「ないな」


 ミンツが顔を顰めてオズに言う。


「オズ、これは副長として賛同できないな。なぜ魔導のない者を連れていく? 足手まといになるのは明白だ」

「お、親分~~!」


 皆に責められてアワアワするセーロ。

 しかしオズは特に慌てることなく、皆に言った。


「みんな抜け目なくて結構なことだ。たしかにそうだ、セーロには魔導がない。でも……悪いな、俺はこの十人の中で一番役に立つのはセーロだと確信してる」


 面々の目つきが変わる。

 セーロはますます怯えるが、オズは淡々と続けた。


「従騎士たちは俺の経歴でついてくの決めたと言ったな。ならセーロの経歴も知ってもらおう。ではセーロさん、まずは奥さんに浮気されたところから……」

「嫌ですよ! 何が悲しくて初対面の方々にそんな話しなきゃいけねえんです!」

「ククッ。そう? じゃあ王国に来た経緯からでいいや」

「王国に、来た……?」


 不穏なフレーズに面々の見る目が変わる。

 セーロは緊張気味にコホンと咳をして、それから語り出した。


「え~、あっしはアトルシャン公国生まれの皇国人でございやす」

「「!!」」

「皆さんはアトルシャン事件、ご存じですかね? あっしはあのとき、アトルシャンの騎士様に無理やりに供回りとして連れられて獅子王国に来やした。何でか生き残ってしまい、王都ミストラルの獄に繋がれやして。それから数年後、これまた何でか釈放されて。しかし皇国人のあっしが王都で真っ当に生きられるわけもなく。ゴロツキ稼業に身をやつし、案の定また捕らえられ。もはやここまでかと覚悟したときに、このオズの親分に救われたんでさあ。それからは親分と同じですね、西方に逃げ、剣王の旦那の手引きをして、このハンギングツリーに……って流れでさ」


 セーロの説明をうんうんと聞いていたオズが、話を引き継ぐ。


「こいつってさ、運が太いんだよ。数々の窮地を運良く生き延びてる。まずアトルシャン騎士団を討伐したのは、あの〝骨姫〟ロザリーだ。こいつはロザリーと出くわしてるくせに生き残った。獄で生き残ったのも、そこから出られたのもそう。俺が結果的に救うことになったのだって、たまたまだ。剣王一味として首吊り公に追われたときも、死んでたっておかしくなかった」


 ミンツが言う。


「運が太いから、お守り代わりに連れていくのか?」

「違うっす、パイセン。こいつは運が太く、目端が利く。アトルシャン騎士が供回りにしたのも、俺がずっとつるんでいたのもそれが理由なんす。抜け目のなさ、気の利かせ方。こういうのって魔導関係ないんです」

「それは、そうかもしれないが……」

「そして極めつけは皇国人であること。スパイって重要なスパイほど皇国人である可能性が高いと俺は思うんですよね。だって母国を裏切ってスパイする奴なんて、皇国人からしても信用ならないでしょう?」

「まあ、それはそうだろう」

「じゃあその重要なスパイをどうやって炙り出すか。スパイが皇国人丸出しで潜んでるわけなくて、必ず王国に馴染んでる。でもどこかに、ほんの少しだけかもしれないけどかすかに、皇国人の臭いが残ってると俺は思うんです。そんなとき、王国人の俺たちは気づけますかね?」


 総白髪が言う。


「文化的差異からくる行動の違いというのはたしかにある。王国に馴染んでいてもつい、ぽろっと出てしまうこともあるでしょうな」

「そう! だから俺はセーロが切り札だと思ってる」

「ふむ……」


 オズは力強くそう言い切ったが、ミンツはまだ納得いっていない様子だった。


「セーロ! ミンツパイセンに何か皇国騎士特有の行動をお聞かせしろ!」

「ええ? 急に言われやしても……」

「何かあるだろう、パッと思いつく奴でいいから」


 セーロは腕組みしてうんうんと考え、やっと口を開いた。


「ええと……皇国騎士の方は卵料理を見るとすごく嫌な顔をされやすね」


 もっと所作的な話が出てくると思っていたオズは、首を捻ってセーロを見つめた。


「卵? なんだそりゃ?」

「えっ。特有の行動をと親分が言ったから……」

「いやだって、皇国騎士がみんな卵嫌いだっていうのか?」

「そうじゃなくて。鳥を崇めるから卵料理は禁忌なんでさ」

「おお! そうなの!?」

「騎士様の全部が全部ってわけでもなくて、でも皇都バビロンにいる騎士様のほとんどがそうでやす。アトルシャンのような地方では普通に食べられてて、だから中央から来た騎士様にうっかり卵料理を出そうもんなら……」


 セーロは嫌そうな顔をしながら、自分の首を掻っ切る仕草をした。


「へええ。予想してたようなやつじゃなかったけど、面白い話だ。みんな、どうだった?」


 するとミンツもライリーも感心したように何度も頷き、アリスに至っては「全然知らなかった」と素直に感想を漏らした。

 セーロの入隊に異論がなくなったのをみて、オズは再度、腕を突き上げた。


「よーし、今度こそ出発だ! 行くぜ、手下ども!」

「部下って言えよ、馬鹿オズ」

「まあまあ、アリスの姉御。……親分、まずはどちらに?」

「王都でしょ?」

「アリス、違ーう。まずランガルダン方面に出て、そこから東だ」

「ハァ? 何それ?」

「親分、いったいどこに?」

「俺たちが長くいた町さ、セーロ」


 そう言ってオズは悪そうに笑った。

【ややこしい騎士用語まとめ】

外道騎士→重犯罪者。

野良騎士→所属のない騎士。フリーランス。

自由騎士→自分の意志で野良やってる騎士。

従騎士→何らかの理由で見習い扱いの騎士。

モグリ→騎士章がないのに騎士のフリをしている者。


【ミンツパイセンについて】

ミンツパイセンはソーサリエ編で登場予定だったのに出番のなかったかわいそうな方です。

名前だけ、チラッと出てますね。

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― 新着の感想 ―
作者さん、インフルからの復帰、お疲れ様です。 強烈な寒波も来るそうなので引き続き、養生なさってください。 いやぁ、にしても濃い面子が集まったなぁ。 少数だとは言え名前持ちがここまで出てくるとは。第…
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