308 団長殿はお忙しい―2
PM 0:30 黄金城、玉座の間。
引き続きロロです。
さて、会議が始まって二時間が経ちました。
お昼を回り、さあそろそろお開きか……そんな空気が円卓に流れます。
と、そんなとき。
あの外事官殿が口を開きました。
お名前なんでしたっけ?
……そうそうロッテン卿!
お顔もお名前も地味なので忘れていました!
「私から一つ、重大な議案を会議にかけたい」
皆さん予想していたのか、無言でロッテン卿の次の言葉を待ちます。
「今回、私が出席していることを不思議に思っておられる方もおられよう。実は西方争乱直後より、皇国側と休戦協定が現在も有効であることを確認をすべく調整を行っているのだが――」
ほうら、やっぱり。
予想が的中して鼻高々だった私を、ふいにロザリーさんが振り返ります。
よく見ると円卓の下で私に拍手してる!
よしっ!
よくやったぞロクサーヌ!
「休戦協定会議については皇都のほうからも強く求められている。なのでこちら次第でいつでも開催できる状況ではあるのだが――」
おや?
どうやら会議の日取りが問題ではないようです。
となると会議の内容……そうか、求める賠償か。
「諸卿らにおかれては〝剣王〟ロデリック=ファルコナーの行動が〝共闘〟であったという話も聞いておられよう。それについて――間違いありませんな、ロザリー卿?」
話を向けられたロザリーさんが頷きます。
「まことです。〝剣王〟及びその配下が王国騎士を傷つけたのは、こちらが攻め立てた状況でのみ。蛮族ガーガリアンの王との戦闘では〝剣王〟と共闘いたしました」
「フ。ロザリー卿、正直であることは美徳だが――」
聖堂騎士団総長ギオネス卿が口を開きました。
「――何も敵国騎士の行いについてそこまで正直でなくてもよいのではないのかね? 外事官殿は〝侵犯〟ではなく〝共闘〟だと賠償金を吹っ掛けられないと言いたいのだよ」
なるほど、そういう……!
しかし、そんなことのためにロザリーさんに嘘をつけとは。
あなた私の敵ですか?
エネミー総長ですか?
「お言葉はわかりますが――」
ロザリーさんが反論します。
いけっ!
やっておしまい!
「――私と〝首吊り公〟ヴラド卿、そして〝剣王〟ロデリックが共闘したのです。一般論として、大魔導が参戦した戦では大きなことが起こります。言ってしまえば、大魔導の戦とはとても派手なのです。今回の大魔導は一所に三人。それを万を超す人々が見ている。誤魔化すことは不可能なのです」
ギオネス卿は頷きながら聞いていて、ロザリーさんが言い終わると「わかった」というふうに手のひらをこちらに向けました。
ロザリーさんの完勝だ!
……と言いたいところですが、もっと血まみれになるくらいケンカ腰に論破しちゃってよかったのでは?
ま、お優しいロザリーさんも素敵ですけどね。
「共闘だから賠償金が取りづらい。それでもどうにか取りたい、その方法はないか……というのが議案なのですか?」
そうおっしゃったのはジーナママこと王宮審問官筆頭ジュリア卿です。
たしかに……結局、外事官殿が何を議題にしたいのかイマイチよくわかりません。
外事官殿は下を向いて円卓をペンでコツコツと叩き、それから答えました。
「……陛下は謝罪を求めておられる」
「謝罪?」
「無論、そこらの文官に頭を下げられても困る。それなりの価値がある、皇都としてはできれば頭を下げさせたくない人間の謝罪だ。そういった者が謝罪するなら溜飲は下がるし、もし断るようなら――」
そこで魔導院のシャハルミド院長が口を挟みました。
「――フフ。断れば改めて賠償請求か。陛下も面白いことをお考えになられる……!」
どうやらシャハルミド院長はロザリーさんのレポートを読み終えたようです。
読んでるときはずっと無言でしたからね。
台詞を横取りされた外事官殿は少しだけ不服そうにしています。
「……院長殿の仰る通り。つまり、誰を指名し謝罪させるかを諸卿らに話し合っていただきたい」
円卓に座る方々から、同時に戸惑いの声が上がりました。
それはそうです、皇国との敵対関係は建国より五百年続く関係性。
休戦状態にある現在でも、人の行き来はほとんどありません。
つまり、誰も皇国の重臣に知り合いなんていないのです。
知っている情報も、誰でも知っているような表向きの評判くらいのもの。
話し合いがまったく進まないのを見て、コクトー宮中伯が口を開きました。
「まずは当事者たる〝剣王〟ロデリック=ファルコナーが候補に挙げられる。が、私は彼は適さないと思う」
すると近衛騎士団のエスメラルダ団長が問います。
「やらかした本人に謝らせるのが筋ではないか? 価値にも問題ないように思うが」
「子供のやらかしではないのだよ、エスメラルダ卿。〝剣王〟のやらかしは協定破り。皇都にとっても犯罪的な行いであるはずだ。少なくとも建前上は。なのに休戦協定会議に〝剣王〟が出席するとなれば、おそらく彼が最も地位のある人間となる」
宮中伯の意見を聞いてエスメラルダ団長が考え込みます。
「混乱を招いた〝剣王〟があちら側の代表となる、か……。たしかにそれは会議の正当性が疑わしくなるな」
すると今度はシャハルミド院長が言います。
「――溜飲が下がる。そう陛下はおっしゃられたのだな、外事官殿?」
問われた外事官殿が頷きます。
「ならば皇帝だ。陛下は魔導皇帝オプト=ゲ=アルテリクス三世の謝罪を求めておられる」
円卓がどよめきに包まれます。
魔導皇帝……どんな方なのでしょう?
「無理だ、来るわけがない」
とはエスメラルダ団長。
「然り。そもそも童のような年齢だ、皇都から出すまい」
とはギオネス卿。
そうなんだ。まだ子どもなんですね、魔導皇帝。
「高望みしぃすぎては謝罪も賠償も流れるぞい? 院長らしぃくない……」
とは魔導具技師連のポンメドックナハラック総代。
この会議で初めて発言されましたが、格好とお名前だけじゃなく話し方まで奇妙!
異国の方なので国際感覚が王国人より優れているのかもしれません。
シャハルミド院長はたくさんの反論を受けても、何だか余裕綽々。
この反応は織り込み済みと言った様子で、次にこんなことを言いました。
「たしかに卿らの言う通りか。……ではウィズベリアはどうじゃ?」
ウィズベリア……たしか不世出の女傑だとか、希代の悪女だとか評される皇国宰相です。
何だかヤバそうな臭いがプンプンします……!
円卓が再びざわざわしています。
それだけの重要人物ということでしょう。
「コクトー宮中伯。そなたはアトルシャン事件の際にウィズベリアとやり合ったのであろう? 奴は来るか? どう思う?」
アトルシャン事件!
そうか、あの事件も皇国との外交問題となったはずですよね。
コクトー宮中伯に皆さんの目が集まります。
宮中伯は言葉を選びつつ、話し始めました。
「……良い案である、とは思う」
「ほう! ウィズベリアは来るか!」
「いや、来ない。彼女単身でも来ないが、今は皇帝とべったりだと聞く。万に一つもないでしょうな」
「ふむ。なのに良い案だと?」
「……先ほど自ら話していて確信したのです。やはり〝剣王〟はよろしくない。彼に謝罪させるならば、その上の者が代表として来ること。でなければ来てほしくない」
「八翼第二席の〝剣王〟の上となると……皇帝、宰相ウィズベリア。あとは八翼第一席〝風〟のミルザか」
「ミルザは皇帝以上に来る可能性がない。皇都にもコントロールできていないようですからな。となると……」
「来ないにせよ、ウィズベリアが適当か。皇国が断ってきたなら、謝罪もしないのかと賠償請求……これでも無理筋か、ポンメドック?」
ポンメドックナハラック総代が口をにゅっと尖らせて宙を見上げます。
考え込んでるのでしょうか?
そのお姿がまた奇妙!
「……皇帝を要求するよりぃはまぁ賠償はとりやすぃか。五分五分じゃぁなぁ……」
「五分五分! 十分では? どうじゃ外事官殿?」
外事官ロッテン卿はこの話し合いでまったく存在感がなく、ほとんどシャハルミド院長がリードしていました。
しかし結論は彼にとっても受け入れるべき価値のあるもののようで、外事官殿は渋い顔で頷きました。
難しい議案でしたがよかった、とりあえず落着したようです。
となると会議も終わり。
お昼はどこで取ろうかな、帰ってミスト本部の食堂というより、帰りがけにどこか外で、って気分ですねぇ。
……なんて考えてたら、何だか円卓が静かです。
ふと見ると、視線が全部私に――私なんかしちゃいました!?
「何か意見があるのか、ロザリー卿?」
コクトー宮中伯に尋ねられ、ロザリーさんがこくんと頷きました。
私じゃなかった!
ロザリーさんが小さく手を挙げていました!
何を意見するつもりだろう、聞いていませんが……
「皇国との会議において、一緒に取り上げてほしいことがございます」
「ん? 皇国との議題を提案したい、ということか?」
「はい。獅子侵攻における敗残兵についてです。特に、魔導を持たない兵卒の行方について」
あっ。
ケイミ山の賊討伐のとき、訪れた村で起きていたことだ。
ロザリーさんはあれからずっと考え続けてたんだ……!
円卓は今日一番のざわつきですが、それでもロザリーさんは続けます。
「魔導騎士については終戦直後から皇国側と頻繁にやり取りが行われ、捕虜交換も数回ですが行われています。捕虜となって戻らないにせよ、互いに生存確認は行われ、リスト化されていると聞いております。そうですね、宮中伯?」
「すべてではないが」
コクトー宮中伯が頷きながらそう言います。
「一方で、兵卒についてはやり取りが一切ない。戦死報告は生き残った兵が帰って伝えたものだけ。獅子侵攻に従軍した兵卒のほとんどは生死不明のままです」
すると、聖堂騎士団総長のギオネス卿が口を挟みました。
「治安維持が任務の卿が外交に意見を? 出過ぎではないかね?」
む、やはりコイツは敵だ!
エネミー総長ギオネスだ!
すると続いて外事官殿が円卓を叩いて立ち上がりました。
「まさしく! 卿の行いは越権行為だ! 外交は陛下と外事局の専権事項! 関係ない者が差し出がましい真似をするなッ!」
う、たしかにそうです。
外事局から他組織にヒアリングすることはあっても、その逆はない。
側近のコクトー宮中伯あたりは意見を言ってそうですが、それも陛下に求められてのことで今のロザリーさんとは違います。
ロザリーさん、どう弁解するのでしょうか……?
するとロザリーさんは慌てる様子もなく、静かに言いました。
「……私は王国に囚われて帰ることができなかった、皇国騎士の娘です」
「「!!」」
……そうでした。
ロザリーさん自身が獅子侵攻に運命を翻弄された存在なんです。
ギオネス卿と外事官殿も思い出したのでしょう、揃って顔が強張ってます。
お二人のお顔に「そういやそうだった!」って焦燥がありありと浮かびます。
「差し出がましい? 関係ない? そんなはずがありましょうか。私は獅子侵攻の落とし子。当事者の一人であり、これは私の領分なのです」
会議が長引いております。
話を跨ぎます。





