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【書籍化】骨姫ロザリー ~死者の最期を追体験し、力を引き継ぐ~  作者: 朧丸
騎士編 第一章 重力の軛

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204 ついてない男

 その日の禁書庫での本探しはオズにしては手こずり、三時間もかかった。

 やっと見つけ出したオズは、昼食時に書庫管理室へ戻った。

 扉を開くと、中にいた同僚たちの目が、一斉にオズへと集まった。


「ん? 何すか?」


 オズが同僚たちを見回すが、誰もが目を逸らすだけ。

 ただ一人だけ、オズを見据え、近づいてくる同僚がいた。

 義兄のテオである。


「オズ。これな?」


 彼がオズの前でひらひらと振って見せたのは、オズが書いた転属願いだった。


「っ!」

「残念だったなぁ?」


 兄はニヤニヤと笑いながらオズの目の前まで来て、封筒をビリビリに破いた。

 そしてオズの肩を叩き、


「俺は帰るから。お前のデスクに置いた仕事、全部終わらせてから帰ってこい。待ってるぜ?」


 そう耳元で囁いて、兄は部屋を出ていった。


「オズ君」


 兄が出て言った後、オズに声をかけたのは室長だった。

 オズは思わず、強い口調で言った。


「室長! なんで転属願いを兄貴に見せたんですか! 俺はもう終わりだ!」

「オズっ!」


 咎めたのはいつもの先輩職員だった。


「室長は緊急の会議があって先ほど帰られたんだ。ちょうど、お前の兄貴が封筒開けて読んでるときにな」

「……っ」


 室長が苦渋に満ちた顔でオズに語りかける。


「キミの家の事情は、ある程度は理解している。だがね。君が書庫管理室に配属になった理由はわかっているかい? お父上が――君にとっての継父殿がそれを望んだからだ」

「……はい」

「騎士社会、貴族社会において家のことは当主が決める。君が思っている以上に、当主の意向は強いんだ」

「家のことで頼られても困る、ってことですか」

「……いいや。こっそりと、慎重に頼ってほしかった。こうなると、君のお父上が先んじて『転属させるな』と言ってくるだろう。そうなると私の権限では厳しい」


 続いて先輩職員が言う。


「俺が封筒の中身が転属願いだと気づけばよかった。見ていたのにな……すまない、オズ」

「……いえ」


 オズの頭の中で後悔の念がぐるぐると回る。


(置きっぱなしにするんじゃなかった。何で置きっぱなしにした!)

(バカなのか、俺は!)

(ロザリーと会って気が大きくなってたからか……?)

(……違う。ロザリーのせいでも、室長のせいでも、先輩のせいでもない)

(たまたま室長が遅くなる日で。それがたまたま兄貴が昼前に職場に来る日で)

(たまたま禁書庫で手こずって。そんな日にたまたま俺はやる気出しちゃって)

(熱くなって、今日やるんだって思い込んじゃって)

(……だから無防備に封筒を置いた)

(俺はついてねえんだよ、知ってたじゃないか)

(だからこそ慎重じゃなきゃいけなかったんだ……)


 その日の兄に押し付けられた仕事量はかなりのもので、オズが家に帰ったのは日を跨ぐ直前だった。


「……ん?」


 玄関に入って、オズは異常に気づいた。

 静かだ。なのに居間に明かりが点いている。


「飲んでないのに起きてる?」


 オズはすぐに結論に至った。

 自分を待っているのだ。

 オズはこれから受けるであろう激しい折檻を想像し、覚悟を決めて居間へと向かった。


「ただいま帰りまし、た……」


 継父も兄も居間にいた。

 しかし様子がおかしい。

 兄などオズの姿を見た瞬間に殴りかかってきそうなものなのに、二人ともソファに深く腰かけている。

 それどころか、うっすらと笑みまで浮かべている。


「お帰り、オズ。疲れたろう?」


 兄の言葉に、オズの目がすうっと細くなる。


「……いったい何をした?」

「何って、仕事帰りの弟を労っただけじゃないか」


 そう言って兄は笑い、継父も笑う。

 オズはハッと気づき、駆け出した。

 廊下へ出て、二階へ。

 扉を蹴破る勢いで、母の部屋へと転がり込む。


「母、さん……」


 そこにあるのはベッドだけ。

 母の姿は影も形もなかった。

 すぐさま踵を返し、居間へと駆け下りる。

 兄が気味悪い笑みで待っていたので、彼の胸ぐらを掴み上げる。


「母さんをどこへやったッ!」

「落ち着けよ~、オズ~」

「ふざけるなッ!」


 オズはこぶしを振り上げ、そのまま固まった。


「どうした? 殴らないのか?」


 兄が醜悪な顔で挑発する。


「殴れないよなぁ? そんなことしたら大事な母さんの居場所、わかんなくなっちゃうもんなぁ?」

「~~ッ!」


 継父が紫煙をふーっと吐いて、それから言った。


「母さんは病状が悪化してな。療養のために場所を移したんだよ」

「どこへ!」


 継父がギロッと睨んだ。


「末子の貴様に言う必要はない! ……知らずともよい。安心して働け。ミュジーニャ家のためにな」

「……クソッ!」


 オズは家を飛び出した。

 母を捜すためだ。

 知ってる医院や療養所を片っ端から当たり、深夜の閉ざされた扉を叩いて回る。

 継父が本当に療養に適した場所に移したとは思わない。

 だが、他にあてなどない。

 夜の王都を駆けずり回っても、オズは母を見つけられなかった。


 そして、東の空がわずかに明るくなった頃。

 オズは〝金の小枝通り〟の端のほうの石畳で膝を抱え、その膝の中に顔を埋めていた。

 どれくらいそうしていただろうか。


「オズモンド=ミュジーニャね?」


 女の声で名を呼ばれ、顔を上げた。

 そこには黒のドレスを着た女が立っていた。

 トーク帽からチュールが垂れていて、顔は口元しか見えない。


「あなたにピッタリの仕事がある」

「……ほっといてくれ」


 再び顔を埋める。


「逃げたいんでしょう? 母親と一緒に」


 オズの肩がピクンと跳ねる。


「……なぜ知ってる?」

「情報が私の稼ぐ手段だから」

「お前は誰だ」

「私はレディ。そう呼ばれているわ」

「レディ。知らないな」

「知らなくていい。大事なのは、私があなたの欲しいものを提供できるということ」

「へぇ。俺に何をしてくれるんだ?」

「母親と暮らせる安全な家を用意するわ。働かずとも十年暮らせるお金もね」


 オズはじぃっと女を見上げていたが、ふと、顔を背けた。


「情報通が聞いて呆れる」

「素っ気ないのね。十年じゃ足りなかったかしら?」

「母さんは今、どこにいるかわからない。さっきまで捜しまわっていたとこだよ」

「あら。そうなの?」


 女は少し考えて、再びオズに提案した。


「なら報酬を追加するわ。あなたの母親の居場所。これでどう?」

「……できるのか。王都にいるのかすらわからないぞ?」

「できるわ。まぁ、ほぼ間違いなく王都にいると思うけど」


 オズも継父や兄の性格を考えれば、母は王都にいると考えていた。

 オズは何度か小さく頷き、女に問うた。


「……仕事の内容は?」

「あなたに一冊の本を盗んできてほしいの。禁書庫からね」

「!」

「あなたが禁書庫に頻繁に出入りしていることは把握している。これは才能よ? こんな人が現れるのを私は待っていたの」

「……禁書庫からの盗みは大罪だ。死罪は確定として、盗んだ本人だけでなく家族にまで及ぶ可能性がある。とても釣り合わない」

「そう? お母様、あまり時間がないのではなくて?」

「ッ、そんなことはない!」

「では爵位と領地を付ける。これでどう?」

「爵位だと? お前……いったい何者だ?」

「あまり期待はしないでね? 準男爵か、せいぜい男爵ってとこ。領地もこじんまりとしたものになるわ」

「……」

「でも、あなたが家を出て爵位を得れば、あなたがミュジーニャの主家で、継父は分家となる。自分の領地に住めば、継父や義兄が手出しすることはできない。母と静かに暮らせるわね?」


 オズは黙して自問した。


(乗りたい。だが乗っていいのか?)

(領地を与えるなんてできるのは、デカい領地を持つ高位以上の貴族だけだ)

(こいつが誰かは領地をもらったときにわかる。自分の領地から分け与えるはずだからな)

(問題はフカシ(・・・)かもしれないってこと)

(だが、それでも……!)


 オズは膝に手をつき、ゆっくりと立ち上がった。

 そして喪服の女――レディに近づくと、右手を差し出す。

 レディは綺麗な唇を横に伸ばして笑い、オズと握手した。

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― 新着の感想 ―
人探しなら手紙鳥があるじゃないかと思いますが、ここまでも疑問や違和感がありながらも作中答え合わせをしてくれているので、今回もそれに期待しています。 すでに話数はだいぶ先まで公開されていますが、このまま…
もう整合性が滅茶苦茶ですね。
昔の、悪い方の「意外性の男」が戻ってきたな…。 悲しいけれど、これもオズが抱える宿痾。 災い転じて福と為せる様に祈ろう…。
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