表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

31/287

30 旅間の修行

 こうして目的地を、モンスター目撃された場所へと変更、向かうこととなったエイジたち。


「うーん……、風向き、太陽の位置、磁場の流れ。北はあっちだな」

「「旅慣れている……!?」」


 エイジが、道を把握することにかけては超有能であったため、たとえ急遽目的地を変更しても問題なく到着できそうだった。


「そして……」


 何やら改まるエイジ。


「ギャリコが遠回りを御所望したため、僕もちょっとした道草をこの旅でしていこうと思います」

「エイジ様? いきなり何なのです?」


 旅の途上、急にエイジから呼びかけられ、向かい合うセルン。

 野営の準備をギャリコ一人に任せて、かつて勇者だったエイジと、今勇者であるセルンが向き合う。


「セルン、改めて問うが、キミがこの旅に同行するのは、僕を聖剣院に連れ戻すためだよな?」

「その通りです。これからの聖剣院を率いて、正しい方向へ引っ張っていける御方はエイジ様しかおられません! エイジ様を説得できないなら、せめて心変わりなさるまでお傍でお仕えする所存です!!」

「僕は聖剣院に戻るつもりはないけどな。そして心変わりも永遠にしない」


 ここはキッパリ断言するエイジ。


「しかし、僕とて一度は聖剣院の釜でメシを食わせてもらった身だ。元々あそこに所属したのはソードスキルを修得して強くなるためだし、その目的を達成できた以上、あの組織に世話になったことは認めざるをえない」


 本当は認めたくなんかないけど……、と言わんばかりにエイジの表情が苦々しい。


「その借りに、まったく報いることがなかったら、僕もまたヤツらを批判する資格を失うだろう。あんな連中に不義理者と呼ばれるのもムカつくしな」

「では、聖剣院への恩に報いるため、帰還を……!?」

「それはない」


 これまたきっぱりと否定するエイジ。


「僕には僕の果たさなければならない目標がある。その目標を追い求めつつ、聖剣院への借りを清算できる、上手い方法を思いついた」

「上手い方法?」


 なんだそれは、と首を傾げるセルン。


「アイツらは覇勇者を求めているんだろう? だったら作り出せばいいんだ。僕以外にもう一人の若き覇勇者を」

「えぇッ!?」

「セルン、キミをこの旅の間に覇勇者レベルまで育て上げる。この僕の手で」

「えええええええええええええぇぇぇぇッッ!?」


 その宣言に手放しで驚愕するセルンだった。


「ちょっとお待ちくださいエイジ様!! 私が覇勇者に!? 何故そうなるのですか!?」

「別にムチャクチャな話ではないだろう? キミはその年齢で青の聖剣を手にし、勇者になった。才能は充分にあるはずだ」

「そ、それは……!?」


 セルンはもどかしげに言葉を咽喉に詰まらせる。


「次なる覇勇者を僕の手で育て上げれば、それをもって聖剣院に貸し借りなしと言えるだろう。元々聖剣院時代の働きを考えただけでも借りより貸しの方が多い気がするけれども……!!」


 昔を思い出して、エイジは再び額に青筋を浮かべるのだった。


「私に、私に覇勇者になれと言うのですか……!? エイジ様は……!?」

「そうだよ、キミならなれるさ絶対。きっと、多分」

「でもさ、でもさ」


 脇で野営準備を進めながら、ギャリコが口を挟む。


「覇勇者になるための修行って、どんなことするの?」

「そりゃ、剣の覇勇者となるために必要なのはただ一つ、究極ソードスキルの修得さ」

「それは! まさか……!?」

「そう、ソードスキル『一剣倚天』を修得してもらう。セルン、キミに」


 全部で百種以上もあると言われているソードスキルその頂点に立つ究極剣技『一剣倚天』。

 その修得はすべてのソードスキルを極めた末であると言われ、まさしくソードスキルの王に相応しい立ち位置にあった。

 現在『一剣倚天』の習得は、覇勇者となることと同義。

 エイジ自身、聖剣院での『試しの儀』において、神剛石を『一剣倚天』で叩き割ることにより覇勇者と認定されたのだ。


「お待ちください! お待ちください!!」


 悲鳴のような声を上げるセルン。


「無茶です! いくらなんでも要求が無茶すぎます!!」

「なんで?」

「なんで……! と言われても……!」


 セルンは、みずからの恥を晒すかのように表情を曇らせる。


「ソードスキル『一剣倚天』は、すべてのソードスキルの上に君臨する剣技の王。その修得のためには、先立って全ソードスキルを極めておかねばならないと聞きます」


 しかし……。


「私は、まともに使えるソードスキルが『一刀両断』しかありません……!」


 セルンが、もっとも基本的なソードスキル『一刀両断』のみで勇者の座まで伸し上がったことは、以前にも語られている。

 もっとも得意な一つのことを徹底して突き詰めることは、強くなる方針の一つとして間違っていない。

 しかしセルンは、この選択のために聖剣院の仲間内からいわれない揶揄に苦しめられることが多くあった。


「『一剣倚天』を修得するには、まず他のソードスキル全部を覚えなくてはならない……」


 エイジが噛みしめるように言う。


「そんなのウソに決まっているじゃないか」

「ええッ!?」


 あっさりと衝撃事実がバラされる。


「それは聖剣院の連中が、箔付のために話を盛っただけだよ。百種以上あるソードスキルの全制覇なんて面倒くさいことこの上ない」

「そうなんですか……!?」

「現覇勇者のグランゼルド殿だって、取りこぼしで修得し損ねたソードスキルがいくつかあるって言ってたよ。バカ正直に全修得したのって、僕ぐらいのものじゃない?」

「えぇ……!?」


 とにかく。


「使えるソードスキルが『一刀両断』だけでも、そこから『一剣倚天』の習得は充分に可能だ。いやむしろ僕は、そうだからこそセルンに『一剣倚天』を修得できる見込みがあると思う」

「う、ウソです! エイジ様は、私に付きまとわれるのが嫌で、適当な繰り言で煙に巻こうとしているだけです! 私ごときに『一剣倚天』を修得できるなどと……!」


 あまりに拒否感の強いセルンに、傍から見ているギャリコですら不審がる。


「え、エイジ……? 彼女どうしたの? あまりに意固地というか、希望に対して警戒心が強いというか……!?」

「この子も聖剣院で色々あったのですよ……」


 不器用な子ほど叩かれやすい世界がある。しかもそれに有能が加われば叩き加減はさらに激しく。


「まあ落ち着いて聞きなさいセルン。ソードスキルも百種以上あれば、似たようなスキルもいくつか出てくる。どっちか一方を覚えたら、もう一方は覚えなくて問題ないんじゃねってぐらい似ているのもある」


 ソードスキルの全修得がことさら面倒な理由もここにある。


「その中で、究極ソードスキル『一剣倚天』に類似するソードスキルも無論ある」


 ただ一つだけ。

 それこそが……。


「『一刀両断』。キミがもっとも得意とするソードスキルだ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
同作者の新作です。よろしければこちらもどうぞ↓
解雇された暗黒兵士(30代)のスローなセカンドライフ

3y127vbhhlfgc96j2uve4h83ftu0_emk_160_1no

書籍版第1巻が好評発売中!
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ