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27 ゴールは遠く

 こうしてモンスターをすべて滅ぼし、帰還したエイジたちを迎えたのは、鉱山集落に住むドワーフすべての喝采だった。

 集落を救った英雄。

 エイジたちはまさにそういった存在で、根が純粋なドワーフたちは三人を賞賛するに一切手加減しなかった。


「アニキーッ!!」

「エイジのアニキ! やっぱりアンタはアニキだよ! オレたちの永遠のアニキだよ!!」

「オレたちを弟分にしてくれよーッ!!」


 坑道で一緒に働いていたドワーフたちも、最初は一番新米ということでこき使っていたエイジに掌返しが清々しい。


「セルンも……、手助けしてくれてありがとう」


 集落のお祭り騒ぎの最中で、エイジはセルンへの感謝も忘れなかった。


「いいえ……。……エイジ様の言われる通り、あれは聖剣院のけしかけた謀略だったのでしょう」


 アイアントの群れに唐突乱入した覇王級モンスター、ハルコーン。

 それを偶然と見なすのは、余りにおめでたい考えと言わざるを得なかった。


「覇王級モンスターまで使って僕を叩きのめし、反省を促したいってことなのかねえ……?」

「それでも覇王級の脅威を考えれば、このドワーフ集落を含めた辺り一帯が全滅するところでした。聖剣院の犯した間違いは、聖剣院に所属する勇者の私が正すのは当然……!」


 セルンは、彼女なりに正義の怒りを燃やしているようだった。

 しかしそんな彼女も、エイジパーティの一人として種族を越えてドワーフを助けてくれた義士の評判が鰻登り。

 ドワーフたちの間ですっかりもてはやされていた。


「い、いえ……! そんなに褒めないでください! モンスターを屠ったのはほとんどエイジ様お一人で……!!」


 開かれた宴ですっかり主役となったセルンを、エイジは温かく見守った。

 実際に勇者とはこうあるべきであろう。

 一番目立つ明るい場所で、人々の希望になるべき存在なのだ。


              *    *    *


 そんな『鉱山集落、危機を脱して祝福の宴』にも、ギャリコだけは一切顔を出さなかった。

 何故かと言うと、戦場から持ち帰ったハルコーンの角を早速武器に加工しようと、工房で鋭意作業中であったから。


 最初は彼女の専用工房にいたが、途中から集落の鉄精錬所に移動して何かしら行っているらしい。

 宴の夜から明け、エイジとセルンは精錬所の前まで来たが、ギャリコの作業を邪魔するのは遠慮されて入り口でただ立ち尽くすのみ。


「一体、彼女は中で何をしているのでしょう……?」

「というかセルンまで一緒にいなくてもいいんだよ?」


 戦いが終わってもなお、離れる気配のないセルンに、エイジはいまだ困惑気味だった。


「エイジ様が聖剣院に戻っていただくまで離れないという基本方針は変わっていませんので。エイジ様のあるところに必ず私ありです」

「まだそんなことを言っている……!」


 そうこうしているうちに精錬所の扉がギギギ……、と開いて、ギャリコが顔を出した。

 一睡もしていないことが丸わかりの酷い顔つきだった。


「うわ……!? 大丈夫ギャリコ!?」

「戻ってから寝ずに作業しているというのは本当みたいですね。そこまで根を詰めなくても……!?」


 二人とも思ったが、ギャリコ本人は自分のことなど二の次。工房の中で起こったことを真っ先に報告する。


「無理だった……!!」

「「?」」

「ハルコーンの角の加工、アタシには無理! 全然どうにもならない……!!」


 鍛冶スキル値1100。

 地上に住む全種族の中でもっとも鍛冶工芸を得意とするドワーフ。その中でさらに最高水準の鍛冶スキル値を持つギャリコですらどうにもならないという。


 覇王級モンスターは、武器の素材になってもそれだけ厄介な相手だというのか。


              *    *    *


 ギャリコの説明によると、ハルコーンの角は生物由来でありながら、多量の金属を含んでいるという。

 その金属は地中から掘り出されるどの鉱物にも当てはまらず、それでいてどの鉱物よりも強靭であるらしい。

 ハルコーンの角が同モンスター最大の武器であるのも、この金属が原因であるらしく、これを原料に剣を打てばアントナイフより遥かに強力な魔剣が作れることだろう。


 と言うわけでギャリコは早速ハルコーンの角を精錬することにした。

 金属と共に角に含まれる不純物を取り除き、純粋な金属に精製しなくてはよい剣は作れないからだ。


 精錬とは、金属の含まれた鉱石などを炉の中に入れて溶かし、金属と不純物を選り分ける作業のこと。

 ギャリコはハルコーンの角を炉に投げ入れ、高熱で溶けるのを待ったが……。


「全然……、まったく溶けない……!」

「えぇ?」

「鉄鉱石を溶かすための炉じゃ、ハルコーンの角はビクともしないの。多分溶け出す温度が鉄より遥かに高いんだと思う。アタシの工房にある小型炉じゃダメかと思って、お父さんにお願いして特別に精錬所の大型炉を使わせてもらったんだけど……!」


 それでも失敗。

 集落を救ってくれた英雄に報いるためと精錬所の使用は比較的簡単に許可が出たらしいが、それでもハルコーンの角はビクともしなかった。


「で、諦めて炉から取り出したハルコーンの角がこちらです」

「……まったく変わりないように見えるんですけど?」


 エイジやセルンの素人目から見てみても、変わった様子は見受けられない。

 鉄をも溶かす高温にさらされたのだから、表面が少しドロッとしているかと思いきや、それすらもなかった。


「クソ……ッ! せっかく方法が見つかって、材料も揃ったのに……!!」


『聖剣を超える剣を作る』というエイジの目標は、あえなく頓挫してしまうのか。


「……ドワーフの都なら」


 ギャリコが絞り出すように言った。


「この集落より遥かに栄えるドワーフの都なら、もっと凄い製錬炉があるかもしれない。ここの炉より高熱を発して、ハルコーンの角も溶かせるかもしれない!!」


 そして力を込めて握り拳を振り上げる。


「エイジ! ドワーフの都に行きましょう!! そこで何とか頼み込んで高熱炉を使わせてもらうのよ! ハルコーンの角を精錬して剣にするには、多分それしか方法がない!!」

「あ、ああ……ッ!?」

「エイジ、前に言ってたわよね?」


 突然違う話を始めるギャリコ。


「アタシの直弟子になりたいって、アタシから直接剣の作り方を学んで、聖剣を超える剣が作りたいって。あの時の答え、今言わせてもらうわ」


 キッパリと言った。


「お断りします!!」

「ええぇーッ!?」

「剣作りを舐めないで! ちょっと教わった程度でいっぱしの物が作れると思っているの!?」


 いきなりギャリコは、エイジの目論見を否定しだす。


「ましてアナタは人間族。人間族がいくら頑張ろうと、本職であるドワーフ以上に鍛冶スキルを上げることはできないわ! 鍛冶に関わることならドワーフに任せておくのが一番いいのよ! だから……!」


 だから……。


「だからお願いします!」


 ギャリコが両手を付いて、エイジに向かって頭を下げた。


「アタシに作らせて! アナタが目標にしている聖剣を超える剣を、アタシの手で作らせて!!」


 過去、聖剣の勇者に救われたことで剣の美しさに魅了され、剣作りに没頭するようになったドワーフ娘ギャリコ。

 その恩人が数奇な運命から再び現れ、自分が夢見る地上最高の剣を求めた。


 ギャリコにとって、それは突如現れた夢の懸け橋だった。

 躊躇って駆け出さない手はない。


「…………ッ!?」


 一方エイジは、この申し出に大いに戸惑っていた。

 元々は彼一人の願望であった聖剣を超える剣作り、今では魔剣作りと呼び変えることのできる作業を、ここまで形にしたのはギャリコだった。

 自分一人で立ち向かうつもりだった苦難に、他人を巻き込んでよいものか。


 しかし、真摯な思いで頭を下げるギャリコの姿に、答えはもう決まっているようなものだった。


「……お願いします」


 ここに協力関係が成立した。

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