257 封じられた聖剣
「僕は見た……! 覇聖剣がひとりでに動いてグランゼルド殿の胸を貫いた。女神アテナの仕業だ!!」
ハッキリとした憎悪を持ってエイジは言う。
「聖剣はアテナが生み出したものだ。ならばアイツの思い通りに動かせて当然のはず……! 人間族に与えたと言っておきながら、根っこはしっかりアイツが抑えてやがったんだ!!」
「そんな、まさか……!?」
「それ以外説明がつかないだろう! それにセルンギャリコ、思い出してみろ! ドワーフの都で行われた武術大会を!!」
大会のクライマックス。
セルンvsスラーシャという勇者対決において、セルンが勝利した。
しかしそのあと粉々に砕け散った赤の聖剣が、ひとりでに再生し、怨嗟の言葉を投げかけた。
今回の異変は、あの現象を濃厚に思い出させるのであった。
「あの時、赤の聖剣を通して出ていた声もアテナのものだったに違いない。ヤツはハッキリ言った。ヤツにとって人間族はオモチャだと。どういう意味かは知らんがろくなものでないことは間違いない!!」
「じゃあ、今ここで起きてる異変って……!?」
「楽しくないオモチャを叩き壊す。その程度の気分だろうよ」
重傷を負ったグランゼルドに看護師が治療に当たるが、芳しくない空気だった。
だが事態は、彼一人の安否だけを気遣ってはいられないほど最悪に突き進んでいる。
「二手に分けよう、ここで要人たちを護衛する分と、打って出てバケモノたちを全滅させる分だ」
「待てい勇者よ」
そう口を挟んだのは、聖鎚院長だった。
「見かけによらず慌てん坊じゃのう。もう少し落ち着いて作戦を立てたらどうじゃ?」
「何です? 急いでるから用件は手短に……!」
「こちら側の戦力をしっかり確認することなく行動を決めるなど愚の骨頂よ。見よ」
聖鎚院長もみずからの護衛のために、数人のドワーフ戦士を連れていた。
自族防衛のため、さすがに勇者を伴ってくることはなかったが、そのドワーフ戦士が持っている武器は……。
「魔鎚か!?」
モンスター素材から作ったハンマー。
聖なる武器以外で唯一モンスターに対抗できる武器。
「これがあれば最悪でも一方的に皆殺しという目には遭うまい。それだけじゃないぞ」
聖鎚院長が合図すると、付き人と思しきドワーフが何やら包みを持ち出してきた。
その包みを解くと、中から出てきたのは……!
「これはッ!?」
槍や弓や戦斧、それに剣。
「この質感……! モンスター素材か!?」
「人類種会議を売り込みの場にしようと思ってな。サンプル品として持参した魔槍、魔弓、魔斧、そして魔剣よ。数は少ないがないよりマシじゃろう?」
「アンタ今回ファインプレー多くないか!?」
すぐさま、各種族の護衛として同行した戦士たちがそれぞれに合った武器を取る。
全員に行き渡るには到底足りない数だったが、それでも重大な戦力アップだった。
「よし、ここの警護はそれこそ護衛さんに任せて。僕とサンニガは打って出るぞ!」
「よし来た!」
「二手に分かれる。部屋から出たら逆方向に進んでバケモノを片っ端からから潰していく。全滅させるまでそれを続ける!」
「承知した!」
エイジとサンニガはすぐさま飛び出し、、壁に空いた穴の向こうへ消えていった。
「おおおーッ!! オニ族サンニガ様の力を思い知れーッ!」
不思議とエイジは、セルンには何の声も掛けなかった。
聖剣が使えないセルンを戦力外と見放したのか。
「おい、人間族の勇者よ!」
そこへ聖鎚院長がデリカシーなく話しかける。
「聖剣が使えんならコレをやるぞ。サンプル用の魔剣、使える者がおらんで余っとる。お前も勇者なら何が何でも働くべきじゃろうが」
「だまんなさい!!」
そんな聖鎚院長をギャリコが抑えた。
「な、なんじゃ……!? ワシはよかれと思って……!?」
「エイジが何故あの子を残したかわからないの!? セルンには、ここに残らなきゃいけない理由があるのよ!」
ギャリコは、セルンの手を取って歩く。
そして辿り着いたのは、溢れる血が止まらない修羅場であった。
「ダメです、血が止まりません……!」
治療に当たる看護師が半泣きで言う。
「ここじゃまともな治療器具もないし、そもそも私の仕事は医師の先生のサポートで、本格的な治療行為は……」
「セルン……!」
ギャリコが、セルンに呼びかける。
「この人、アナタのお父さんなんでしょう?」
「……!」
ドワーフの都で判明した事実。
赤の勇者スラーシャ半狂乱で暴露した真相。
聖剣の覇勇者グランゼルドと、青の聖剣セルンの親子関係。
「アナタたちはそれに極力触れないようにしているのは傍から見ててわかる。でもこの人の状態は、とても楽観できるものじゃない。エイジもそれがわかっててアナタを残したんじゃないの?」
聖剣を使えなくなったからではない。
エイジは、二人の関係を知る数少ない一人として、これが最後かもしれない親子の時間を守ろうとしたのではないか。
「セルン、何か言ってあげて。もう二度とないかもしれないのよ……」
ギャリコが促してもセルンは何も言わなかった。
ただ拳を握りしめたまま、唇を震わせるばかり。
「……あまり、その子を追い詰めないでくれ」
「あッ!?」
掠れる声を上げたのは他ならぬグランゼルドだった。
既に出血量は甚大で、体内圧の低下によっていつ意識を失ってもおかしくない。
「ダメです! 喋ってはいけません! 傷は肺まで達しているんですよ!!」
看護師の呼びかけにも、グランゼルドは応じなかった。
元来、親子揃って頑迷であった。
「頼む。彼女が言うとおりこれが最後かもしれないのだ。懺悔なしでは死んでも死にきれん……」
「懺悔……?」
グランゼルドは、セルンに語りかけているようでもあるがただの独白のようでもあった。
「私の人生は後悔ばかりだった。しかも間違いを悔いるのではない。何もしなかったことを後悔することばかりだ。……セルン」
「はい」
「どうやらお前は私に似すぎてしまったようだ。このままでは私と同じ後悔を繰り返すだろう。そうならないためにも聞いてほしい」
彼の、後悔ばかりの人生を。
「私の人生は、無意味ばかりだった。どうしてあの時行動しなかったのだろう。失敗でもいい。誰かのために行動したという過去が残れば、失敗したとしてもここまで大きな後悔にはならなかったはずだ……!」
「……ッ?」
「止めるべきだった。殴ってでも、戦ってでも、足を斬り落としてでもアイツを留め、彼女の傍にいさせるべきだった。しかし私は、ヤツを止められなかった。何もせず見送るだけだった」
それが彼の最初の後悔だった。
「アナタが止めようとした人って……」
「そう、レイジ。エイジの父親だ」





