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254 次世代の視界

 抜刀の鞘走り。その力を借りてより速い剣速を得る。


 それだけでなく刀身を含めた身体全組織に意識を結び、解き放つ。


 天の理と一体になった『一剣倚天』のその先に達した、エイジの身が使える究極の先。


 ソードスキル『(すさまじ)』。


 その斬閃が、波紋のごとく拡がっていった。


「うぬッ!?」


 グランゼルドは違和感にすぐ気づいた。


 天のように澄み渡っていながら、水のように何処までも染み込んでいく。

 そして大地をすべて詰め込んだかのように重い。


 そんな風に感じさせる斬閃が、するりと彼の体の中を過ぎ去っていった。

 気付けばすべてが終わっていた。


 速すぎて反応できなかったという風ではない。


 あまりにも自然すぎて。

 その刃が自分を潜り抜けていくのが当たり前のことと思えて何の反応もできなかった。


 自分が斬られたと気づくことが、花鳥風月を愛する感覚に酷く似ていた。


    *    *    *


「ぐはああッ!?」


 現実に引き戻された時、グランゼルドの胸部と両腕から血飛沫が上がっていた。

 覇聖剣は当然のようにへし折られて、地面に落ちる。


 二度目の激突は、推し量るまでもなくエイジの圧勝だった。

 勝負自体の趨勢を決定するほどに。


「なんだ……!? 今のソードスキルは……!? 知らん、知らんぞ……!?」


『一刀両断』に心魂を込め尽したとはいえ、覇勇者にまで登り詰めたからには全ソードスキルを相応に網羅しているグランゼルドである。

 その彼ですら初見のソードスキルなどありえるわけがなかった。


「……当然です。僕が新たに編み出した新スキルです」


 エイジが歩み寄りながら言う。

 魔剣キリムスビを手に下げたまま、充分に残心がこもっていた。


「『一剣倚天』を土台とし、聖剣にはない鞘走りの勢を組み合わせ、天をもって神を斬り裂く剣技に仕上げました」

「神を……、斬り裂く……!?」

「実際このソードスキルは、神を相手にしか使ったことがありませんでした。人に使うのはアナタが初めてです」


 それだけグランゼルドが神に匹敵する強者だったと言うことでもある。

 グランゼルドは、乱れる息を整えることができなかった。

 深手が体に響いている。


「究極の先を超える剣技を創造していたとは……! やはりお前は天才だな。私の才覚では足元にも及ばん……!」

「僕一人で生み出したものではありません」


 先と同じ主張を繰り返すエイジ。


「グランゼルド殿、思えば剣士とは、弱い生き物だと思いませんか?」

「何……?」

「どれだけ技を修め、強くなろうと、剣がなければ何もできない。こんな棒切れ一振りに全存在を保証されている。これほど哀れな生き物も他にいない」


 エイジはそれを、この旅で学んだ。

 自分の力を最大限発揮させる剣を、たった一振りの剣を得るためにどれほどの苦難を乗り越えただろう。


 旅の道連れ、行く先々で出会った人々と助け合い、争い合いながら。

 道を進むたび、エイジはそのことを実感させられた。


「剣とは、剣士にとって不完全であることの証拠なんです。どれだけ強くなろうと完全にはなれない。だからこそ欠けているものを埋めてくれる何かが必要になる」


 それが剣士にとって一番大事なこと。


「それを知った時、僕は『一剣倚天』の先にある剣を修めることができた。不完全で欠けているからこそ、その欠けた部分に無限を取り入れることができる」

「……変わったなエイジ。自分一人だけで生きていると言わんばかりの子どもだったのに」

「成長したんでしょう。未熟だったんですよ、僕も」


 グランゼルドの傷は深かったが、それでも命に関わるほどではなかった。

 天と人を繋ぐ剣は、命まで取りたくない使い手の気持ちを汲んだのか。


「グランゼルド殿、傷の手当てをしましょう。そして落ち着いたら教えてくれますね?」


 勝ったのはエイジ。

 そして勝負の前に約束されたことがある。


「僕の父が、何処に行ったかを……」

「…………」


 グランゼルドは黙したまま、口元をフッと歪めた。

 口の端から、人私事の血流が流れ落ちる。


「そうか……、変わったのだな時代が」


 満足のこもった声で言う。


「一代では突き破れぬ壁も、二代三代と繰り返しぶつかっていけば、いつか破れる時が来る。そう言うことだなレイジ。お前はあとに続く者のために最初の鏃となったのだな……?」

「レイジ……」


 それは、つい今日明らかになったエイジの実父の名。


「やはりアナタは……知ってるんですね?」


 エイジの父がどこに消えたのか。

 その先に剣神アテナの謎があるのか。


「よかろうエイジ、心して聞くがいい。お前の父親が挑んだ先はネキュイアの……、ぐッ!?」

「ッ!?」


 瞬間だった。

 達人であるエイジやグランゼルドすら気づけなかった光速。

 矢のように走る刃が、グランゼルドの胸に深々と突き刺さった。


「ぐはぁ……ッ!?」

「グランゼルド殿!?」


 突き刺さる刃。

 それは黄金色に輝いていた。


「覇聖剣だと!?」


 エイジのソードスキルによってへし折られた覇聖剣。

 そのうちの上半分が切っ先を向けてグランゼルドの胸部に飛び込んできたのだ。


「この野郎ッ!?」


 エイジはすぐさま、突き刺さる覇聖剣を魔剣で叩き落とす。

 続き、うなじにチリチリと感じたエイジは、本能のままに背後を斬り払った。


 硬いものが刀身に当たり、カランと叩き落とされた。


「これは……!? 覇聖剣の下半分……!?」


 斬り分けられて二つとなった覇聖剣が、グランゼルドとエイジをそれぞれ狙ったというのか。

 エイジはからくも反応することができたが、傷を負ったグランゼルドはどんなに鋭く反応してもケガで体が追い付かない。


 それよりもなお、聖剣に穿たれた傷は重傷だった。

 間違いなく生命の危険に関わる。


「くそッ、グランゼルド殿! 医務室に運びます! 気をしっかりもって……!」

『待て……!!』


 呼び止める不気味な声。

 エイジはもうそれに驚きはしなかった。


 たった一度の経験ではなかったから。


「やはりお前か……!!」


 獣の眼光で睨みつけるは、黄金色に輝く刀身。

 いつの間にか覇聖剣が、二つにへし折られていたのも繋がって、完全に復元されながら空中に浮いている。


『どうしてお前たちは、こうも役に立たない……!? クソにも劣る低劣種ども……!!』

「もう驚かないぞ……! ドワーフの都で同じものを見たからな……!」


 あの時は、赤の聖剣から響き渡る声だった。

 聖剣を通して喚き散らす者。


 心当たりは一つだけ。


「お前がアテナだな……! 聖剣を操り、聖剣を通して喋る。そんなことをできるのが、聖剣を作りだしたというお前以外にあるわけがない!」

『低劣種が偉そうにほざくなあ!! なんだその口の利き方は!? 全知全能の神に向かって無礼な!!』


 黄金剣を通して神の怒りが渦巻く。

 これが神。

 聖剣を通して満ち溢れる、禍々しき神気。


「……やはり女神ペレの言ったことは本当だった。お前が邪悪だったんだ! この世の禍の根源にある、最悪の悪」

『黙れ! せっかくこの剣の使い手に選んでやったのに、我がままで拒む低能が! 私のオモチャにもなれない役立たずのゴミ! もう許さない! もう許さない!!』


 女神アテナが吠える。


『この神が決めた! お前はズタズタに引き裂いて殺してやる! 神に逆らった罪深さを後悔しろ! 思い知れ! 罪の重さを感じ取りながら死んでいけ!!』

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