235 両性具有の神
取り立てて隠す理由もないため、エイジは素直に語って聞かせた。
彼がギャリコセルンと共に駆け抜けてきた冒険。
そしてこれから目指す指標についても。
* * *
「まさかそこまでデカい話を追ってるとはねえ」
モンスターをこの世界に蔓延らせた元凶、女神アテナの話を告げられてディンゴは言葉の驚きを表していたが、態度自体に少しも動揺はうかがえなかった。
「じゃあどうするってんだいエイジ? テメエは人間族だろう? みずからを生み出した創造神を倒してでも世界に平和をもたらすのかい?」
「そのつもりです」
エイジは即答した。
「創造神だろうとなんだろうと、僕たちを弄び命をオモチャにするようなヤツは邪悪です。戦うことになるかどうかはわかりませんが、そうなってでもモンスターを生み出すことを止めさせるつもりです」
「戦って勝つ自信でもあるのかい? 神を相手に」
「これがある限り僕は神をも倒せる」
エイジは腰に下げられた魔剣キリムスビを握った。
「よほどその剣を信じているってことかい? いいねえ人間族ってのは。色んな事に挑戦できる」
「アナタたちだって同じでは?」
「そう思えるのは、テメエが優しいヤツだってことさ。……いいだろう、そういう腹積もりならオレッちからも話してやれることがある」
「?」
「ゴブリン族門外不出の伝説だ。覇聖斧を持つ者にのみ伝えられる。創世の伝説だ」
そう言ってディンゴは語り出す。
ゴブリン族に伝わる世界の始まりの物語を。
「オレらゴブリン族を創り出したのは、バフォメットと呼ばれる神だ。たった一神でゴブリン族を創り出したらしい」
「一神で……?」
「他の種族は、男の神と女の神がつがいになって創り出されたんだろう?」
その指摘を受け、エイジは呼吸を止めた。
男神たちは、みずからの伴侶である女神たちに封印され隠れ神となっている。
今地上の人類種で、男神の存在を知る者はまずいないはずなのだ。
「我らの神バフォメットは、両性具有の神だったそうだ。わかるか? 男であり、同時に女でもあるんだ」
だから人類種を生み出すのに、配偶神はいらない。
バフォメットは、己一個のみでゴブリン族を生み出した、その特殊な経歴ゆえか他の神々からは距離を置かれていた。
それゆえに巻き込まれることはなかった。
良識を欠いた神々のゲームに。
「バフォメット神が気づいた時には、世界はもう今の形で固まっていたそうだ。たった一人の神が、他すべての神を封印し世界を牛耳っていた」
「そんなことまで伝わっていて……!?」
「その神が具体的に誰なのかまでは、ゴブリン族には知らされなかったがよ」
溢れるモンスターから我が子を守るため、ヴバフォメット神も何もしないわけにはいかない。
ゴブリンのために聖なる武器、覇聖斧を生み出し与えた。
「この伝説は、ゴブリン族の一握りに必ず語り継がせることになっているが、口外は固く禁じられている。他種族との軋轢を避けるためだ」
そうなるのも仕方のないことだった。
自分たちの崇める神が封印されている。そんな指摘をされたら、各種族は誇りを傷つけられ外交問題へと発展してしまうだろう。
創造神を直接崇拝している聖剣院などならなおさら。
しかし、この話を聞きエイジにとっては得るものがあった。
これまでイザナギ神やイザナミ神、カマプアアとペレ夫婦神から語られた真実の神話に裏取りができたのだから。
「やはり、この世界は女神アテナが歪めた世界だった……!」
「ウチに伝わる伝説では、犯人が誰かまではハッキリしないがよ。それを正し、世界を変えるってんなら頑張ってみろや……」
立ち上がるディンゴ。
「もうお帰りになるんですか?」
「バカ言えぇ。これから全員で畑仕事よ。耕し、畝を作って種まいて。エルフどもとの睨みあいで無駄にした時間を取り戻さなにゃあ」
特別な使命を持つ勇者ですら、本来お仕事を疎かにできない。
それがもっとも大地に根差したゴブリン族の矜持が窺えた。
人間族も是非マネするべきだとエイジは密かに思った。
「オレらにはよ。時間がねえのよ。テメエらと違ってよ」
「……」
「その時間を使って精一杯生きなきゃならねえ。一生懸命田畑を作って、嫁さん探してガキを育てて、自分のことを送ってもらわなきゃならねえ。……時おり、テメエみてな横道にそれるやつを羨ましく思う」
「オレのしていることは横道ですか?」
「生きるためのことじゃないことは全部な。でもそれが人間族を発展させてきたのかもしれねえ。まあ頑張ってみろや。お前を評価するのちの世は、オレッちが支えておいてやらあ」
* * *
折衝を終えたエルフ族とゴブリン族は、約束通りにそれぞれの土地利用作業に入った。
エルフ族は森に。
ゴブリン族は畑に。
それぞれ様相は違うものの、命が溢れる土地に代わろうとしている。
「さて、寄り道は済んだし、今度こそ先に進むか」
「ねえ、エイジ……」
ギャリコが尋ねる。
「何故ゴブリンの人たちは、あんなにも急いでいるのかしら。生きることを急ぎ過ぎているみたいに」
「彼らには時間がないからね」
答えを知るエイジは言う。
「ゴブリンは人類種でもっとも短命な種族だっていっただろ? 彼らの平均寿命は三十歳。四十まで生きられるものはまずいない」
短い人生だからこそ、脇目もふらず生きるためだけに生きていく。
それがゴブリンという一族だった。
「彼らからは大切なことを学ばせてもらえる。……行こう、僕たちも僕たちのすべきことを遂行しなきゃならない」
この命があるうちに。
世界を歪め、モンスター蔓延る大地を作り出した元凶。
女神アテナへと繋がる聖剣院本部へ。
本章ここまでとなります。
これからクライマックスへと雪崩れ込んでいく予定で、その分構想などに長い時間を頂いて次章開始の更新は十月中旬を予定しておりますので、しばらくお待ちください。





