191 クリエイターの本懐
「というわけで……!」
スミスアカデミー特別工房で、総員を代表するようにガブルが言った。
壇上から。
「現在まで作っている魔武具はすべて破棄することになりました。一からやり直しですわ」
「「「「納得できるかああああッッ!?」」」」
工房にいるすべての生徒ドワーフが絶叫。
その数は三十人前後と言ったところだろうか。いずれもスミスアカデミーで鍛冶技術を学ぶ前途有望なエリートたち。
「納得できるかよ! なんで!? なんでやり直しになるの!? 今までのじゃいけないの!?」
「そうよ! アタシたちはアタシたちなりに、試行錯誤で仕事を進めてきたのよ!」
「そりゃ、すべてが初めての作業だから不満はいくつか残ったけれど、それでも一定の成果は挙げたつもりだよ! これで充分でしょう!?」
「第一、今からすべてをやり直してたんじゃ、とても時間が足りないよ! 大会当日までに揃えなきゃいけないんでしょう!?」
「間に合わない! とにかく絶対間に合わない!!」
と轟々の抗議である。
予想された通りのリアクションに、ガブルは壇上で酸っぱくなった。
「落ち着いて。落ち着いてくださいまし。提案したのはワタクシではありませんわ」
「じゃ誰? 聖鎚院長!? あのクソオヤジ余計なことしか言わない!!」
さりげなくトップへの率直な評価が示された。
「ウチのお父様でもありません。この方ですわ」
「おいすー」
促されて壇上に上がるギャリコ。
彼女の面は過去いくつかの騒ぎで既に知れ渡っていたので、登場の瞬間すぐさま空気が変わった。
「マイスター・ギャリコ……!?」
「伝説の職人……!!」
彼らの目標とすべき大家の一人。
その登場に全員が、抗議の言葉を失う。
「あまり注目されると恥ずかしいんだけど……!」
しかしギャリコは、言うべきことを躊躇ったりしなかった。
「えー、アナタたちが作り上げたものを昨日見させていただきました。ハッキリ言うけれど、売り物のレベルにまったく達していないわ」
「「「「!?」」」」
ドワーフ生徒たちの表情が一瞬のうちに変わるのがわかる。
「うひぃ~……!」
「ギャリコは武器作りとなると、なんでこんなに妥協がないんですか……!?」
それを傍らで、戦慄をもって見守るエイジとセルン。
心配だったので着いてきた。
「アナタたちも鍛冶で報酬を貰うつもりなら覚えておきなさい。アナタたち自身の満足なんて関係ないのよ。お客が満足するかどうかが問題なのよ」
「ギャリコさんもうやめてください! せめてオブラートに包んでください!!」
エイジが泣いて縋るもギャリコの職人魂は加減を知らない。
「おっ、オレたちの作品が、お客を満足させられないっていうんですか!?」
「納得いきません! アタシたちはマニュアルに沿って、もっとも扱いやすい剣や槍やハンマーを作りました! それじゃダメなんですか!?」
やはり一流の鍛冶学校スミスアカデミーだけあって、剣や槍などの武器を作る際、もっとも具合のいい刃渡りや重量などをデータ化し、資料にしてあるらしい。
「ダメよ」
しかしギャリコがバッサリと斬り捨てた。
「何故です!? 何故ダメなんです!?」
「魂がこもっていないからよ」
「また抽象的なことを!?」
こういう難癖の付けられ方がもっとも困る。
「いい!? マニュアル通りに作ることもけっこう! でも問題は自分たちがどんなものを作りたいかでしょう! 自分たちが作りたいものを作るという欲求! それが魂なのよ!!」
「自分たちが作りたいという欲求を込めるんですか……?」
「でもさっきは自分の満足より客の満足だって言ってたのに……?」
ぐうの音も出ない指摘である。
「自分が作りたいものを作るからこそ最高のモチベーションが出せるんでしょう!? そのモチベーションなくしてお客の満足するクオリティに達せるものですか!」
「「「「なるほど!」」」」
実績を持つ者ならテキトー言ってても利が通っているように感じられる不思議。
「参考までに、アタシの最高傑作を見せてあげるわ。エイジ!!」
「はいはい」
呼ばれてエイジも壇上に上がる。
「あれが……!?」
「ギャリコさんのパートナー……!?」
「人間族最強の勇者……!?」
エイジのこともそれなりに名が通っているらしく、場が騒めく。
「えー、では。んぎぎぎぎぎぎぎぎ……」
未完成の鞘から力を込めて抜き出し、魔剣キリムスビの刀身が晒される。
「「「「!?」」」」
やはりその道のプロを目指している者たち、ドワーフ生徒たちの表情が一気に変わった。
「あれが……、剣……!?」
「片刃しかないし、刀身が直線じゃなく微妙に反っている……?」
「何て奇妙な形なの? それなのに美しい……!」
スミスアカデミーの生徒たちが感じたように、魔剣キリムスビは一般的な剣とはかけ離れた奇妙な形状をしていたが、それなのに生徒たちの視線は釘付けになってしまう。
「ちなみに、この魔剣の原料となったのは覇王級モンスターよ」
「「「「覇王級ッ!?」」」」
その発表にますます場が騒めく。
「覇王級の素材を剣に……、本当にできたのか……!?」
「アタシたち、兵士級の素材ですら四苦八苦だったのに……!?」
「覇王級素材を加工するなんて不可能だと思ってた……!」
「いや、マイスター・ギャリコだから可能なんだ! あの人の超人的な鍛冶スキルなら……!」
「でも美しい……。究極の鍛冶師が、究極の素材を使って、究極の勇者のために作った剣……!」
多くの鍛冶師の視線が、その刀身に吸い寄せられる。
魅惑の妖気に憑りつかれるかのように。
「あの……、気恥ずかしいのでそろそろ片付けてもいいでしょうか……?」
本気で気恥ずかしかったので、エイジは答えを待たずに納刀した。
しかしそれで興奮が収まることはなかった。
「凄いですマイスター・ギャリコ!! あれがアナタの最高のモチベーションを注ぎ込んだ剣なのですね!?」
「あんなのオレたちにはとても真似できません! オレたちの技術では……!」
「やっぱり魔武具作りは……、マイスター・ギャリコだけのオリジナル技術なのでしょうか……!」
意気消沈する若人たちへ、力強い励まし。
「そんなことはないわ!」
ギャリコの言葉だった。
「忘れないで、今のアナタたちは学生。できないことを、これからできるようになっていく人たちなのよ! 大丈夫、アナタたちは成長できるわ! 何故ならば!」
武闘大会へ向けて、リセットして一から行う魔武具作り。
「その指導を、このアタシが行うからよ!!」
「「「「おおおおおおおおおおおおおおッッ!?」」」」
狂騰した。
「あのマイスター・ギャリコが直々に指導を!?」
「そんな! どんだけ恵まれた環境なんですか!?」
「成長できる! アタシ確実に成長できるわ!!」
「あのッ! 前に魔剣打った時に思いついた技巧があるんですが、新しいのに試してみていいですか!?」
魔武具製造用の特別工房、これまでにない活気に包まれ始めた。
マイスター・ギャリコを中心に。
「ギャリコは何やかんや言って魔剣作りが活発化するのにノリノリですね。……いや、魔武具でしたか?」
「僕は疲れた……。宿舎に戻ろうか」
退室するエイジ、セルンの背に、ギャリコと鍛冶生徒たちの心一つにした唱和が浴びせかけられた。
「さあ、作り出すわよ! 皆が一人一人魂を注いで作る魔の傑作たちを!!」





