132 魔法職工
「鞘作りの手伝い……?」
「魔法で……?」
エメゾの唐突な提案に、エイジたちは戸惑う。
「このままヨモツヒラサカに住む闇人を頼ってアナタたちを送り出すのは、私たち天人のプライドが傷つけられるわ。元々アナタたちは、私たちなら何とかなると思って訪ねて来てくれたんだから!」
「いや、あまり気負わなくてもいいかと……?」
「それに、私たち天人族の悲願は、我らを生み出してくれたイザナギ様。そのイザナギ様の同族たる男神たちの名誉を回復すること。そのために女神たちにとって最高の邪魔者となる魔剣の完成を手伝うのは、本望だわ」
と力を込めるエメゾ。
エイジは困った視線を連れに向けるが、ギャリコもセルンも処置なしとかぶりを振る。
「元々、新しい鞘を作り直さなきゃいけないのはたしかなんだし。そのための作業場や材料を提供してくれるって言うなら、たしかに助かるわ」
「天人族の使う魔法というものにも興味があります。勇者として、見聞を広めることは欠かせぬ自分磨きです」
セルンまで、実に真面目なことを言う。
「しかし手伝いっていると、どうやって? 俺はてっきり、これまでと同じ工程で作った鞘に、イザナミさんとかいう神様の祝福をもらえたら万事解決と思っていたんだが?」
「そこにもう一方からアプローチをかけて行こうと思う。魔法の奥深さを肌身に感じなさい!」
具体的にどうするつもりなのか。
「さっき言ってたけれど、この剣はハルコーンの角を材料にしてあるのよね?」
「ああ」
「あの、覇王級モンスター、ハルコーンの、もっとも強力な武器……」
エメゾが繰り返し確認するのも仕方ないことだった。
ハルコーンは、モンスターの中でも最強ランクである覇王級の中でさらに最強格。
同じランクでもピンからキリまで幅広い覇王級においてもトップクラスに君臨するハルコーンは、まさに最強の中の最凶というべき存在だった。
「この剣も、ただウォルカヌス神の祝福を受けただけだったら、ここまでじゃじゃ馬にはならなかったでしょうね。ハルコーンという最凶最悪モンスターの、もっとも凶悪な部位を素材にしたからこそ、あらゆる拘束を受け付けない我がまま剣になったんだわ」
それにウォルカヌスの祝福が加わり、さらに手に負えなくなり……。
「このままじゃ、単純にイザナミ様の祝福を貰えても万全じゃないかもしれない。だからこそ、ウォルカヌス神の祝福に対応するのとは別筋で、ハルコーンの荒魂を抑える処置も必要だと、私は思うわ!」
「そ、そうですか……!」
エイジはよくわからなかったが、勢いで頷かされてしまった。
「それを行うのが、魔法……?」
「そういえば……」
セルンが何かに思い当たる。
「そもそもハルコーンの角は、グランゼルド様が叩き折ったものを宝物の一つとして聖剣院が保管していたといいます。その間、ハルコーン本体は角を取り戻さんと世界中を探し求めていたと言いますが、長く見つけることはできなかった」
そしてついにハルコーンはみずからの失った角を見つけ出した。
その時エイジたちと鉢合わせしたことで、死闘が繰り広げられたという過去。
では何故、ハルコーンはエイジたちと鉢合わせするそのタイミングまで角を見つけられなかったのか。
それは、その直前まで特殊な製法で編んだ布が角を包み、その気配を遮断していたからだという。
「そのことを思い出して、私たちは天人の下を訪ねる意思を固めたのでしょう? 特殊な布を作り出したのが天人である可能性が高いと」
「いかにも封印の衣を織り上げたのは、我ら天人族じゃ」
天人族の大長老が言い添える。
「グランゼルド殿に報いるためにの。あの方には昔、種族の存亡にかかわる危機を救ってもらった恩があった」
「あの人どんだけ危機を救っているんだ……?」
しかし、この証言で裏がとれた。
つまり天人族の魔法ならば、ハルコーンの暴気を抑え込むことができる。
「封印の衣を作り出した時と同じ術式で、その魔剣を収める鞘を作りましょう。それにイザナミ様の祝福を授かれば、万が一にも魔剣がくびきを脱することはないわ」
「おお!」
二重の処置で完璧を得るという方式に、そこにいる者たちは皆色めき立った。
「おじい様、ハルコーンに有効な封印術式は……?」
「うむ、采女の護符魔術じゃの」
何やら専門用語が飛び出して、その瞬間エイジたちの理解力は消え去った。
「やはりそうですか……。以前文献を読んだことがあったので、『そうかな』とは思いましたが」
「封印の衣を作る際には、五十人近くの選りすぐり触媒が必要となったが、お前の腕なら数に頼らずとも充分な術式を組めよう。必要なものがあれば何でも言うがいい。ワシもお前と同じ思いじゃ」
「ありがとうございます。ですが、おじいさまたちに負担を掛けることはないかと。今回は、立派な協力者がいます」
エメゾの視線が、セルンギャリコを捉える。
「アナタたちに術式の手伝ってほしいの。当然鞘そのものの作成にはプロの手が必要になるけれど。術式の遂行自体にもアナタたちの助けがいるわ」
「ま、まあお願いしているのはこちらですし。エイジ様のお役に立てるならば、このセルン微力を尽くします!」
「鞘作りそのものはアタシに任せてほしいと思ってたからいいけど。他に何をすればいいの? アタシたち魔力なんて全然使えないけど」
セルンもギャリコも不安ながら前向きだった。
「大して難しいことは要求しないわ。ただ、アナタたちに資格があればの話だけど」
「「?」」
意味ありげな物言いに、二人は戸惑う。
「資格……、とはどういう意味でしょう? アナタを手伝うのに選別があるとでも?」
「アタシ、セルンやアナタみたいに強いわけじゃないから自信ないわよ? まさか魔導士になるために魔法を勉強しろとか……!?」
不安がるギャリコとセルンを宥めるように、エメゾは言った。
「そういうことじゃないわ。モンスターにも好みがあってね。問題のハルコーンにも嫌いなものもあれば大好きなものもあるわ」
「「?」」
「ハルコーンが好むのは、人類種の女よ」
「「!?」」
「それも、異性と交わったことのない生娘。二人がそうなら是非とも協力を頼みたいの。私も処女だけど、私一人だけじゃ組める術式に限りがあるから……」
「「ッッ!?」」
場の空気が妙な方向へ流れ出した。





