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15話【カオスの始まり】


「アタルさん! おめでとうございます!」


 その日、喫茶店に入ると、夕姫がとても良い笑顔で待っていた。


「えっと、何の事?」

「ランキングです! さっき見たら10位になってましたよ!」

「ああ、うん。自分でもびっくりしたけど、上がってたよ」


 迷いを吹っ切って、ウラヌス理論を取り入れつつ自分が書いて楽しいものと割り切ってから、書きやすくなった分、執筆ペースも上がっていた。


 このところ、1日2話更新を続けていたので、その辺もランキング上昇に寄与したのかも知れない。


「私も嬉しいです!」

「はは、ありがとう。夕姫には全然追いつけないけどね」

「え?」


 えって……。


「もしかして、自分のランキング確認してない?」

「あ、はい。お姉ちゃんに検索の仕方は教わったんですけど、アタルさんの作品しか……」

「どんな検索してるのやら。紫の庭は相変わらず1位を突っ走ってるよ」

「そうなんですね。最近は感想読むのも大変で」

「そうだなろうなぁ」


 作品の人気があるだけでなく、夕姫の執筆ペースが速いこともあるのか、とにかく感想の数が凄い。昔は沢山の感想を羨ましいと思っていたが、最近、亞汰彦の感想数もかなり増えていた。

 最初の頃は全ての感想に返信をしていたが、最近はなかなか難しい。

 紫の庭に関しては、全部に返信していたら、それだけで日が暮れるレベルだ。


「経験してみないと、わからないことが多いね」

「そうですね」

「さて、とりあえず頑張ろうか」

「はい!」


 亞汰彦は、とうとうランキング上位という、大きな夢を一つ叶えたことになる。

 一桁に入れるかは微妙なところだが、自分でも驚くほど、やる気が満ちあふれていた。

 最近では、SNSでフォローされることも増えてきた。


「現金なもんだよな」


 誰に聞かせるつもりもなく、小さく呟いた。

 人気が出てきたと実感できたら、執筆ペースも早くなる。亞汰彦は自分のやる気に、苦笑してしまった。

 だが、やる気が溢れるのは良いことだ。

 亞汰彦は、気合いを入れて、執筆を始めるのだった。


 ◆


 コンテストの締め切りが近づいてきた。

 亞汰彦は、思い切って応募することを決意する。


 震える指で、規定のタグを書き込み、応募完了。

 前作”デュリアデス戦記”で応募した時は、ここまで緊張しなかった。

 むしろ、無邪気にコンテストで受賞できるかもしれないと、脳天気に考えていた前回よりも緊張していた。


 コンテストはランキングで振るわない作品でも、内容が面白ければ受賞する事も多い。

 だが、やはり面白い作品はランキングに入りやすいという現実を知った今、亞汰彦は前回よりも強く「もしかしたら」という思いがあった。

 それと同時に、紫の庭と比べてしまえば、自分の作品が劣っているという自覚もあり、一次選考も通過できないだろうという気持ちが、行ったり来たりしている。


「なに。自分を信じる。決めたことだろ?」


 もう既に応募してしまったのだ。

 やるべき事は、ここからさらに面白く書いていくことだけだ。


「絶対受賞しますよ! とっても面白いですもの!」


 夕姫の言葉は、亞汰彦に勇気を与えてくれた。


「あ」


 その日、執筆が終わり、少し雑談。

 夕姫が最新話をアップするため、小説家になろうへログインした時だった。


「なにかあった?」

「ブーケさんから返信がありました」

「オフ会のかな?」

「そうみたいです。……えっと、私と他にも人がいるなら、参加しても良いって」

「え」


 その返信にはちょっと驚いた。

 ウラヌスが出禁になっているのは確実なので、てっきりクレッセントブーケがオフ会に参加するとは思ってなかったのだ。


「ヨルツキさんも一緒にだそうです」

「ヨルツキ先生も!?」


 それは!

 嬉しい!


 亞汰彦は一気に盛り上がる。

 なぜかそんな亞汰彦の様子を、つまらなそうに眺める夕姫であった。


「あれ? なにか問題があるの?」

「いえ、なんでもないです」

「そう? じゃあウラさんに連絡入れとくよ」


 亞汰彦がSNS経由で知らせると、間髪を容れずにウラヌスから返信が来た。


ウラヌス:うおおおおおおお! やったぜ!

アタル:日付と時間は予定通りで良いですか?

ウラヌス:もちろん!

ハリセン:こっちもオーケーっす。

アタル:わかった。じゃあ話を進めとくね。

ウラヌス:任せた!


 大はしゃぎである。


「じゃあ夕姫は詳細をブーケさんに伝えてくれる?」

「わかりました」


 その後数回、メッセージ機能でやり取りして、場所や時間を伝えた。

 こうして、波乱のオフ会の開催が決定したのである。


 ◆


「初めまして、私がクレッセントブーケですわ。よろしくお願いしますね」

「お久しぶりですね、ブーケさん!」


 童貞が死にそうな服装でやってきたブーケに、ウラヌスが早速喰い気味に立ち上がった。


「ウラさん、落ち着いて……取りあえず席にどうぞ」


 場所は都内の居酒屋。

 亞汰彦の運転で、夕姫、ウラヌス、ハリセンも一緒にやって来た。

 予定時間より少し遅れて、ブーケとヨルツキの二人が到着したのだ。


「ありがとう。こちらがヨルツキさんよ」

「よろしくね〜。あ、タクハタちゃんはこっちー」

「あ、は、はい」


 六人用のテーブルに、ちょうど男女が三人ずつ別れて座る。

 席に着いたヨルツキが、挨拶もそこそこに、夕姫を抱きかかえて頭をなで始めたのには、流石にびっくりした。


「初めまして、僕はアルイタルと申します。アタルって呼んでくれればと思います」

「はい」

「君がアタル君かー」


 ヨルツキの口から、自分の名前が出て、ドキリとした。

 一体夕姫はどんな事を言ったのだろう?


「ウラヌスマンです。ウラって呼んでください。ヨルツキ先生にも会えて嬉しいです」

「はい〜」

「センボンハリセンっす。ハリセンでよろっす」

「はいはい〜」


 夕姫の頭をなでるのに夢中で、話を聞いているのかいまいちわからないが、とりあえず、ブーケの方は頷いていたので、最低限の自己紹介は出来ただろう。


「お知らせしたとおり、飲み放題で、料理はコースです。あとで集金お願いします」

「わかりました」

「とりあえず、飲み物を頼みましょう」


 全員、最初の飲み物を注文して、料理も出してもらうように頼む。

 もちろん運転する亞汰彦と、未成年の夕姫はノンアルコールだ。


「じゃあウラさんお願いします」

「おう。では、この素晴らしい出会いに乾杯!」

「「「かんぱーい」」」


 女性が混じっている飲み会など、亞汰彦は初めてだったので、実はかなり緊張していた。

 少しは飲みたいとも思ったが、夕姫の事もあるので運転することにしたのだ。

 これなら仮に電車が止まってもちゃんと家まで送り届ける事ができる。


「ブーケさん! 聞いてください! 実は俺、出版が決まりました!」

「あら、そうなんですか? おめでとうございます!」

「はい!!!!!!」


 ブーケにお祝いをいただき、一気にテンションの上がるウラヌス。

 まだビール一杯だろうに……。


 亞汰彦は、苦笑しつつウーロン茶を喉に流し込んだ。


「わーい、タクハタちゃんタクハタちゃん〜」

「あの、ヨルツキさん、ちょっと苦しいです……」

「大丈夫大丈夫〜」

「え、あの……はうぅ……」


 何が大丈夫なのかさっぱりわからないけれど、ヨルツキは夕姫を抱きしめて離さなかった。

 まだ始まったばかりだと言うのに、すでにカオス状態に突入していた。


「これは……俺がしっかりしないと」

「お姉さんー、焼酎よろー」

「ハリセン、ピッチ考えろよ?」


 急激に不安を覚え始めた亞汰彦であった。



リア充\(^o^)/

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