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14話【コンテスト】


 出版優先権やコンテストの事を全く理解していない夕姫に、偉そうに説明を始めるウラヌスマン。

 手柄を横取りされたようで、憮然とする亞汰彦と、それを生暖かく見守るセンボンハリセン。


 ハリセンは空気の読める、リア充なのだ。


「まず、コンテストに応募したとしよう。仮にNコン。なろうのコンテストだと、特定のワードをタグ付けすることで、応募完了になる」

「ふんふん」


 熱心に聞き入る夕姫。

 やはり、出版に興味があるのだろうか?


 亞汰彦はなんとなく違うなと感じた。たぶん単純に、話が面白いのだろう。

 実際こういう話は、何度しても面白いのだ。

 書き手の性かもしれない。


「そうだな……タクハタの紫の庭に、Nコンのタグを今付けたとしよう。この時点で応募完了となる」

「えっと、それだけなんですか?」

「ああ。それだけだ。来年には全ての作品がコンテストの運営に読まれ、選考が開始される」

「え? 全部読むんですか?」

「当たり前だろ?」

「大変ですね……」

「だろうな……」


 何百作という有象無象の作品。いや、何千の小説だ。それに全て目を通すだけでも莫大な労力だろう。

 こちらは気軽にタグ付けするだけだが、運営の方には敬意を表するしか無い。


「話が逸れたな。さて、今日紫の庭はNコンに応募完了しました。さて三日後に、A出版から書籍化打診が来ました」

「えっ!? 来ませんよ!」

「例えだよ、例え。……アタル、タクハタって天然……いや。なんでもねぇ」


 視線を逸らすウラヌス。

 それ以上言わないであげて。


「さて、タクハタ。この場合、どうなると思う?」

「え? えっと……どうなるんでしょう??」


 この時点で察することも出来ないのか。

 亞汰彦は先ほどの「天然」という単語が脳内でリフレインしていた。


「コンテストの規約上は、A出版から出版出来ない」

「ダメなんですか?」

「それが出版優先権だな。コンテストに応募した時点で、この内容を受け入れてる事になる」

「あれ? でもこの時点で、コンテストってどうなるか発表してないんですよね?」

「お、良く気づいたな」

「じゃあ、折角、本に出来そうなのに、コンテストに落ちちゃったら……」

「少なくとも、コンテスト期間中は本にならないな」

「えっと?」

「コンテストによるとおもうが、ほとんどの場合、コンテストで落選が決まった時点で、出版優先権は無くなる。この辺は応募規定を良く読んでくれ」

「うう……」


 あらから様に苦手だという態度をとる夕姫。

 まぁ、もし夕姫が応募したくなったら、僕が良く読んでおこうと心に決める亞汰彦だった。


「じゃあ、コンテストに落選したらA出版さんで本になって、受賞したらNコンさんから本が出るんですか?」

「恐らくな」


 大きく頷くウラヌス。


「さて、ここからは、かなりネットの情報やら、知り合いの又聞き情報が入り交じるのを前提に聞いて欲しいんだが。実際には、コンテスト運営に相談すれば、解決する事が多いらしい」

「それはどういう?」


 亞汰彦も初耳の話だったので、思わず身を乗り出しそうになった。


「例題だとNコン運営に、A出版から打診が来ましたと連絡する。するとA出版から本を出すなら、コンテストを降りても良いと連絡が来るそうだ」

「あ、今思ったんですけど」

「なんだ?」

「そもそも、A出版さんから打診が来た時点で、タグを消しちゃえば良いんじゃ意ですか? まだ選考って始まってないんですよね?」

「それは応募規定違反になる可能性が高いな。ほとんどの場合、一度タグ付けした時点で応募は完了扱いだし、その時点で出版優先権は発生してる。つまり、タグを消してもコンテストに応募した状態って事だな」

「なるほどー。難しいんですね……」

「興味があるなら、細かい話はアタルに聞けばいいさ。それより続きな」

「はい」


 氷が溶けきったアイスコーヒーを口に付け、眉を顰めるウラヌス。

 そこで全員が一度、交代で新しい飲み物を取りに行く。


 亞汰彦と夕姫がドリンクコーナーに移動すると、夕姫が小声で話し掛けてきた。


「あの、実はさっきのお話なんですけど」

「うん」


 コンテストの話だろう。

 興味が出てきたに違いない。


「ウラヌスマンさん、もしかしたら、ブーケさんが出入禁止にしてる方かもしれません」

「……ん?」


 想定外のセリフに、亞汰彦の脳が一瞬固まる。

 あれ? 出禁? 何の話?


「いえ、この間のお茶会で、ブーケさんが要注意人物を何人か教えてくれたんです。ただ、男性と会うことは無いと思って、うろ覚えだったんですけど……たしかその中にウラヌスさんの名前が……」

「おう……」


 出禁?

 何やったのウラさん!?


「その、一度大規模オフ会があったそうなんです」

「ああ、たぶんウラさんがブーケさんと会ったって自慢してたオフ会だと思う」


 細かくは覚えてないが、クレッセントブーケのSNSで、彼女を持ち上げる一団を中心としたオフ会だった気がする。

 どっちかというと、信者たちがブーケをご招待して接待する会だったような……。

 ブーケの大ファンであるウラヌスが参加できたのも不思議では無い。


 ……ん?


 そこで亞汰彦は思い出す。

 そういえば、そのオフ会以降、ウラヌスがクレッセントブーケの集まりに呼ばれた記憶が無かった。

 別に報告する義務は無いので、知らないだけで参加している可能性もあるのだが、あの(・・)ウラヌスが会話のネタにしないとは思えなかった。

 ブーケを交えないファン同士の集まりも、めっきり行った様子が無かった。


「あの、それで、ブーケさんが言うには、オフ会で一人自己主張が激しい人がいて、まるで同じ作家仲間だからと、自分を特別に思っているらしいとか、本人はばれていないつもりで、微妙に距離を詰めてきたりとか、遠回しに二人っきりで会おうと誘って来たとかで……」

「おうのう……」


 それは……ダメだろう。

 女性と付き合った事は無いが、それは、たぶん、おそらく、ダメだ。

 特に、ファンの集まりでそれやったら……。


「それ以降も、定期的に二人で会いたいと誘われるらしいんですが、全部お断りしているそうです」

「そりゃなぁ」


 ウラさん……どうしてその状況で、ブーケさんもまんざらじゃ無いって言えるんだ……。

 亞汰彦は頭を抱えそうになる。


「それで、ブーケ知り合いの女性作家さんや、なろうで書いている女性の方に、会わないように回状を回しているそうです」

「ウラさん……」


 亞汰彦はそっと、ウラヌスに向かって手を合わせた。

 合掌。


「じゃあオフ会は無理そうだね」

「連絡だけはしておきますけど、たぶん……」

「わかった。教えてくれてありがとう。戻ろう」

「はい」


 ウラヌスマンは、戻ってきた二人の、生暖かい視線に首を傾げた。


「? 続きだ。Nコンに応募してる状態で、A出版から打診が来たらだったな」

「はい」

「本来、一度応募した時点で、結果が出るまでコンテストに応募した状態になるわけだが、Nコン運営、A出版、作者で話あって、最良の方法を決める。らしい」

「この辺は推測の域を出ませんよね」

「ああ。ただ、ちゃんと相談すれば、悪いようにはされないようだな」

「書籍化の打診が来たからって、必ずコンテストを受賞するわけじゃないでしょうしね」

「コンテストの発表を待ってからだと、A出版は随分待たされることになるしな」

「ですよね」


 思ったより、優しさで運営されているのだなぁと納得する亞汰彦。


「ただ、絶対手放したくない作品もあるだろうから、その時は出版優先権を主張するだろうな」

「そんな作品を書きたいですよ」

「俺もだ」

「一次は通ったんすけどねー」

「ハリセンは才能あるよ」

「うぃー」


 見た目のなりと反して、割と堅実ななろう作品を書くんだよなぁ。亞汰彦は苦笑しながら頭を掻いた。


「べ、勉強になりました」

「おうよ」


 そんな会話を、夕方まで続けていた。

 いつもより、随分と楽しかった気がした。


「そろそろ帰るよ」

「早くねっすか?」

「高校生がいるからね」

「そうだな。じゃあまた。オフ会の件、連絡頼むぜタクハタ」

「は、はい。わかりました」

「ふへへ。楽しみだぜ……」

「その色は……」

「ん?」

「あっ! なんでも無いです! それでは今日はありがとうございました! 楽しかったです!」

「おう。いつでも来てくれ。金は……そいつにたかれば良いからな」

「そんな!」

「はは。このくらいならいつでも奢るよ」

「ええ!?」


 亞汰彦は真っ当な社会人なのだ。

 会社はブラックから一転、超ホワイト企業に大変貌を遂げたおかげで、給料はほぼ変わらないまま、休みをしっかりとれるようになったのだから、一人暮らしの彼からしたら、このくらいの出費痛くも痒くも無い。


 むしろJKに奢る名誉を得ているのだから、燃やされても文句は言えまいと、ウラヌスとハリセンに思われていたとは全く気付いていなかったろう。


 割り勘ではなく、個別会計で、夕姫の分をきちんと亞汰彦に払わせた辺りでわかろうものだ。

 だが、その行為はきっと裏目だったのだろう。


 自分の分を出そうとする夕姫を片手で押さえ、さっと二人分会計する亞汰彦の背中を、JKが熱い眼差しで見つめていたのだから。



出禁\(^o^)/

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