13話【ワナビ達の集い】
「は?」
亞汰彦が、夕姫を連れて、いつものファミレスに到着した時の、ウラヌスマンの反応は、そんな間抜けなものであった。
「おー」
ウラヌスとは真逆にセンボンハリセンは、今にも口笛を吹きそうである。
「お待たせしました」
「お、おう……その方が、知り合い? 妹?」
「いえ、そういうわけでは……」
はたと亞汰彦がここで気付く。
よくよく考えたら、一体なんて紹介したら良いんだ?
友達? 知り合い? 執筆仲間??
どれでもあるようであり、どれでも無い気がする。
言葉に詰まる亞汰彦を横目に、若干おどおどとした態度で、ぺこりと頭を下げる夕姫。
おやと亞汰彦は夕姫を見た。
自分に対する態度と、彼らに向ける態度に妙に差があるように感じたからだ。
「こ、こんにちは。高星夕姫といい……あっ」
そこでピタリと動きを止める夕姫。
「た……タクハタチヂメです」
「タクハ……タクハタチヂメ!?」
名前に思い至ったのか、思わず声を上げるウラヌス。
「知ってるんすか?」
「アホ! あの紫の庭の作者だよ!」
「え?」
どうやらハリセンは作品名しか覚えていなかったらしい。
「え? なんすか? アタルさん、ネットでナンパしたんすか?」
「ちっ違うよ!」
間違っても自分からアプローチした覚えはないと、必至で言い訳する亞汰彦であった。
◆
「つまり、偶然たまたま、タクハタがアタルの作品を知っていて、それを隣で執筆していたと」
「なんすかそれ、どこのドラマっすか。今時下手な小説でもそんな出会い無いっすよー」
「事実は小説より奇なり。僕だって驚いてるよ」
二人はテーブルに並んで座った。
なぜかウラヌスの対面に座っていたハリセンが、無言で移動したのでこうなった。
「僕はドリンクバーと、チーズケーキでも頼もうかな」
「うう……私はドリンクバーだけで……」
夕姫がテーブルの下で、財布を開き小銭を数えていた。
「いやいや。奢るって」
「ええ!? でも、ここまで乗せてきてもらってますし!」
「これでも社会人だから遠慮しないで」
「あう……じゃあ、その、アタルさんと同じ物を……」
「? もっと別のを頼んでもいいんだよ? この白桃パフェとか美味しそうじゃ無い?」
「いえ! 同じのが良いです!」
「そう? じゃあ頼むね」
二人のやり取りを、ウラヌスとハリセンが、もの凄い生ぬるい視線で見つめていたことに、どちらも気付いていなかった。
ハリセンが小声で「バカップル」と呟いたが。ウラヌスは静かに首を横に振るだけだった。
「ん? しかしタクハタって事は、もしかして、クレッセントブーケさんの知り合い?」
「え?」
驚いたのは亞汰彦だ。
もちろんその事は誰にも話していなかったから。そもそもタクハタチヂメの事を誰にも話してないのだ。
「ほら、クレッセントブーケのSNSに書いてあるだろ?」
ウラヌスがスマホで、クレッセントブーケのページを開いて見せてきた。
「えっと……今日は親友のヨルツキさんと、タクハタチヂメさんとお茶会をしました。……色々と彼女に指導してきました?」
亞汰彦が要約してザックリ読むと、眉を顰めて夕姫に顔を向けた。
「そうそう! いいなぁ! 俺、ブーケさんと一度だけあったことあるんだよ。すげぇ美人なんだよ」
「何度も自慢してましたもんね。ブーケさんとオフ会したって」
「おお。ほんと、理想の女性だよなぁ……」
どこを見ているかわからないウラヌスの表情は、恋する漢女そのものだった。
「もしかして、ウラさんブーケさんの事……」
「ブーケさんもまんざらじゃないと思うんだけどな、あれ以来、どうもタイミング合わなくて会えてないんだけどさ」
「……あっ」
何かを思いだしたように、顔を上げる夕姫。
そのままウラヌスの表情をマジマジと見つめていた。
「どうしたの?」
「え? あ、あの、なんでもないです」
なんでも無いって感じではなかったよなと、首を捻りつつも、特に問い詰めることはしない。
「ああそうだ、タクハタに頼みがあるんだけど、ブーケさんもこの集まりに呼んでくれよ」
「え」
「うん。オフ会ってことにすれば、誘いやすいだろ?」
「その……」
「みんな、来週の土曜は空いてるか?」
微妙に夕姫を無視して話を進めていくウラヌス。
こういうところ、押しが強い。
行動力があるともいえる。
実際ウラヌスは、他にもたくさんの友達がいるのだが、おそらくその企画力を買われて、音頭を取っているのだろう。
亞汰彦達のグループでも、まとめ役はウラヌスだ。
少し、嫌われやすい性格でも、友達が多いのはこの行動力が故だろう。
(断っても良いんだよ?)
(聞くだけは聞いておきます)
(わかった)
ウラヌスに引っ張られ、あっと言う間に予定が決まる。
クレッセントブーケの予定がつかなければファミレスで、会えるなら居酒屋に行くことになった。
「よし、それじゃ書籍化の話しようか」
「待ってました」
「お願いします」
「ど、どきどきします」
「ほんと、内緒にしてくれよ。こっからは名前言わなくても無しだかんな」
「すいませんでした」
「いや、顔見知りで、同じなろう作家ならいいよ。どんな知り合いかわからなかったからな」
「内緒にします」
「あ、ブーケさんには、内緒にしてもらえるなら伝えて良いぜ。俺が直接言うより効果的かもしれんしな」
「何効果ですか」
思わず苦笑する亞汰彦。
もっとも女性と付き合ったことも無いので、もしかしたら、それが決定的な秘策なのかも知れないと、心のメモ帳に記しておいた。
「流石に条件とかは内緒な。編集さんに、まだ連載してない書き溜め部分も読んでもらって、二章まで収録、それに一万字くらいの書き下ろしすることに決まった」
「すげっす」
「おめでとうございます。じゃあ出版は確定なんですか?」
「お、おめでとうございます!」
色々馬鹿話を繰り返したおかげか、夕姫の警戒心も大分薄れたようだ。
鼻をふんふんと鳴らして興奮している。
「確定だ。なんか契約書はあとになるらしいけど、もう作業に入ってる」
「おお」
「再来週までに、WEB版に加筆修正した原稿を提出する事になってる」
「凄い」
「発売時期は未定だが、冬までには出したいって言ってた」
「早いですね!」
「気になって聞いてみたんだが、この辺は会社やレーベルによって大分幅があるらしい。俺が出すレーベルは新興だから、少しでも早く出したいみたいだな」
「なるほど」
「へぇ、俺、本って1週間くらいで出来るんかと思ってましたよ」
「流石に無理でしょ? どんなに早くても二ヶ月くらいかかるんじゃない?」
「それは俺にもわからんけど、とにかく頑張らないと。編集さんに、なろうの連載を止めないように頼まれてるしな」
「あ、そういえば、発表はいつになるんですか?」
「まだ先だな」
リアルな情報を聞くと、今までネットで聞いていた情報との差異に、思わず頷いてしまう。
「そういえば、ウラさんの作品、コンテストに出してなかったんですね」
「ちょうどタグをどのタイミングでつけるか悩んでたところだったからな。そう言えば、タグ付けてたら、協賛レーベル以外からのオファーって無くなるのか?」
「たしか、公式は禁止してなかったと思いますよ。ただ、ほとんどのコンテストは出版優先権が発生するって記載されてますけど」
「アタルさん、全然わかりません……」
わかってはいたが、あれだな。夕姫は説明書とか読まないタイプだな。
亞汰彦が答えようとしたら、ウラヌスが割り込んできた。
「そうだな、出版優先権ってのは、言葉の通り、優先して出版できる権利って事だ。これはネットなんかの噂込みの情報だから、絶対じゃない。それを前提に聞いてくれ」
「はい」
良いところをとられた亞汰彦が、無意識に腕を組んで深く座り直す。本人は自分の態度に気付いていない。
もっともそれに気付いたのはセンボンハリセンだけで、彼はニヤリと笑みを浮かべただけだったのだが。
爆発しろ\(^o^)/
爆発しろ\(^o^)/




