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12話【ドライブ】


 亞汰彦は、自分でも作風が変わったと実感していた。

 ウラヌスマンの提唱する理論に心酔しながらも、どこかで認められなかったのだろう。

 だから、表面だけ真似して、自分を騙していたのかも知れない。


 ウラさんは正しかった。

 それは、とうとう掴んだ書籍化という夢が証明している。


 もしかしたら、ずっと偉そうな事を言っているのに、書籍化した作品が無いウラヌスに対して、どこか軽蔑する心があったのかも知れない。


 素直になって、自分を見つめ直せば、なんと浅ましい事だろう。

 だが、夕姫の言葉でぶん殴られ、亞汰彦は目が覚めたのだ。


 今まで自分に言い聞かせるように、何度もウラ理論が正しいと念仏のように繰り返し、それを真似する事で満足していた自分と決別。


 本当の意味で、理論と、才能がかち合ったのだ。


 亞汰彦の”今度の転生こそまったり人生を送りたい元SSS冒険者!”のランキングは、とうとう24位まで昇ってきたのだ。


 ◆


ウラヌス:アタル凄いじゃん、めっちゃランキング上がってる。

アタル:ありがとうございます!

ウラヌス:やっぱり俺たちの理論は完璧だったな!

アタル:ウラさんの指導のおかげですよ。

ウラヌス:いや、教えても実践出来ない奴が多いから、アタルもハリセンも優秀だよ。

ハリセン:そういや、書籍化の話進んだっすか?

ウラヌス:ああ、明日、編集さんと直接会うことになった。

ハリセン:おお。

アタル:良いですね。なんだかこっちがドキドキしますよ。

ウラヌス:俺もだw


 亞汰彦が吹っ切れたからだろうか、今までどこか不信感を持っていた(自覚をしたのは最近だが)ウラヌスに対しても、非常に好意的に接することが出来ている。


アタル:僕も書籍化目指して頑張りますよ。

ウラヌス:この調子でいけば実現すると思うぞ。

ハリセン:アタルさんはコンテストに応募しないんすか?

アタル:うーん。締め切りにはまだ時間があるし、もう少し考えるよ。

ウラヌス:毎年何十作も書籍化するコンテストだからな、この作品なら受賞狙えると思うぞ。

アタル:そうなるように頑張るよ。


 現在作品募集中のコンテストがあるのだが、日本最大級のコンテストで、書籍化作品数が多いのが特徴だ。

 完結していなくても応募出来る事と、小説家になろうに掲載している作品をそのまま応募出来る手軽さが相まって、毎年凄い数の作品がエントリーされている。

 このコンテストで受賞するのは、ワナビの憧れだろう。


 応募自体は簡単だが、まだ自分の作品にそこまで自信が持てず、少し躊躇していた。

 締め切りが迫ったら改めて考えようと、亞汰彦は先送りにすることを決めていた。


 ◆


 日曜日。

 亞汰彦は珍しく午前中から喫茶店に執筆に来ていた。

 さすがに日曜のこの時間に夕姫がいるとは思わなかったのだが、当たり前のように執筆していた。


「あ、おはようございますアタルさん」

「ん、おはよう。随分早いね」

「普段からこの時間にいますよ?」

「え?」


 そういえば、この時間に来たことが無いだけで、夕姫が普段何時からいるとか考えたことがなかったと、頭を掻いた。

 夏休みなんだから、別段不思議なことも無い。

 良く考えれば、毎日1万字以上書き続けているのだから、朝からずっと書いてても全く不思議は無かった。


 学生羨ましい。


「そうだったんだ。考えてみたら、この時間に来たの初めてだ」

「そうですね。ちょっと嬉しいです」


 クスリと微笑む夕姫に、心音が跳ね上がる。

 亞汰彦はそれを気のせいだと無理矢理抑えて、いつものように席に着く。

 その瞬間だった。


ウラヌス:今日暇になったから、みんなで集まらないか?

ハリセン:いいっすよー。


 SNSにお誘いが入る。


「あー……」

「どうしました?」

「ん。前話した創作仲間から、集まらないかって。今日は断るか」

「どうしてです?」

「いや、夕姫と書く方が……あ」


 これじゃあナンパっぽくない!?

 亞汰彦は、顔を赤くした夕姫に気付いて、慌てて言い訳する。


「いや! そういう意味じゃ無くて! 単純に、その……」


 単純になんだよ!

 続きはよ!


 灰色の脳細胞に、必至に鞭を入れるが、所詮灰色なので続きが出てこない。


「えっと……気にしないで行ってください、ね?」

「おふぅ」


 妙に破壊力抜群の言葉に、倒れそうになる亞汰彦。

 逆に彼に決意させる。


アタル:えっと、もう一人、知り合い連れて行っても大丈夫ですか?

ウラヌス:うーん。折角だから書籍化関係の話を教えようと思ってたんだが。

アタル:実は、友達に書籍化打診が来たって話をしちゃいまして。

ウラヌス:おいおい。

アタル:もちろん名前は出してないですよ! でも、流石に引き合わせたら感づいちゃうかもしれないかなと。

ウラヌス:うーん。まあいいか。その代わり、しっかり口止めしておけよ?

アタル:すいません。ありがとうございます。ちょっと本人に確認してきます。


 亞汰彦はスマホを置いて、夕姫に顔を戻した。


「えっとね、もし夕姫が良かったらだけど、一緒に行かない?」

「え? 良いんですか?」

「うん。今確認したら良いって。例の書籍打診の人がいるんだけど、内緒にしてもらえるなら良いって」

「な! 内緒にします!」

「わかった。あ、車で移動だけど、大丈夫?」

「はい!」


 微妙に警戒心が足りない気もするが、ここで「え? じゃあ辞めます」って言われてもショックなので、突っ込まないことにする。

 下心が無ければ、ただの移動だ。


「じゃあ行こうか」

「はい!」


 ウラヌスマンとセンボンハリセンに、これから向かうことを伝え、亞汰彦と夕姫は中古車で移動を開始した。


 ◆


「そう言えば、お父さん以外の車に乗った事ってほとんどないです」

「高校生ならそんなもんだと思うよ」


 むしろ、高校生が色んな男性の車に乗ってる方が問題だろう。

 そんな女子高生は、噂の援助交際とかしてる子だけではないだろうか。


「なんかドキドキします」


 それは僕のセリフだという言葉を飲み込む。

 あれ?

 もしかして、この状況って端から見たら援助交際に見えないか?


 亞汰彦は首を振って否定する。


「やましいことは何もない。やましいことは何もない……」

「何か言いました?」

「いや! なんでも無いよ! そ、それにしても良い天気でドライブ日和だねぇ!」

「ドライブって憧れてました!」


 真夏の太陽に負けないほど輝いた笑顔を向けられて、思わずドキリとする亞汰彦。

 いやいやいや! ただの移動だから!


 己に鉄の意志を刻み込みつつ、運転に集中する。


「あの、今日会う方って、どんな方なんですか?」

「えっと、一人は書籍化打診をもらった、ペンネームがウラヌスマンって方で、仲間内だとウラさんで通ってる」

「書籍化……凄いですね」

「うん。もう一人は大学生なんだけど、コンテストで1次通過してるよ」

「それも凄いです!」

「うん。本当に凄いよね」


 今はほとんど消えたとはいえ、二人に対してずっと嫉妬していた事を思い出す。


「書籍化かぁ……僕もしたいなぁ」

「アタルさんなら出来ます! 絶対出来ます!」

「あはは。そうなると良いなぁ」

「大丈夫です! 保証します!」


 二人は楽しげに笑い声が車に満ちる。

 待ち合わせのファミレスまで、ずっとこんな感じで話していた。 


 笑えることに。

 端から見たら、完全にデートだという事に、二人とも気づいていなかった。



爆ぜろ\(^o^)/

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