番外編.ずるい人
キャロルとエルヴィスのお話です!
キャロル・ルークラフトもとい、キャロル・アースキンは現在、胸の高鳴りが最高潮であった。
なぜなら一一。
「キャロル殿、手を。一一つまづくと危ないので、ゆっくりでいいですよ」
「…っありがとう、ございます」
「いえ、お礼を言われる程のことではありません。むしろ、今日私に付き合ってくれていることの方が有難いのですから」
そう言い口元に少し笑みを浮かべるエルヴィスは、今日も今日とてキャロルの鼓動を速くさせる。
(まさか、エルヴィス様とこうしてお出掛けできるだなんて…!!)
そのことに、つい頬が緩みそうになってしまうが、それを堪えながらキャロルは今日までずっと気になっていたことを口にした。
「それにしても、エルヴィス様は本当に私が一緒でよかったのですか?」
「?」
「ほ、ほら、公爵様への贈物なら騎士団の方と選ぶものだと思っていましたから…」
「あぁ、そのことでしたら大丈夫ですよ。一応、騎士全員からの贈物は決めてあるんです」
「そうなのですね」
「えぇ、なので今日は私個人からの贈物を探しに来たんです。騎士団に入る前から、ルイス様にはお世話になってますし。それに、折角なら同じ目的を持つ者同士、一緒に行けたらと思いまして」
「たしかに、私も誰かと一緒の方が1人で悶々と選ぶより楽しく選べそうですわ!」
そう、実はキャロルはエルヴィスと共に、アイリスとルイスへの贈り物を探しに街まで来ていたのだ。
一一ことの発端は、1週間程前に送られてきた、とある招待状だった。
アイリスの名で来ていたその招待状を、キャロルはいつも通り、お茶会のものだと思っていたが、実際はそうではなかった。
なんとそこには、アイリスとルイスが結婚することと、結婚式をするので是非参列して欲しいという旨が書かれていたのだ。
あまりにも嬉しかったキャロルは、そのことを手紙に書いてエルヴィスへ送った。
すると、エルヴィスからは「招待状が自分にも来た」こと、「ルイスたちへ祝いの品を贈りたいので、キャロルさえ良ければ選ぶのに付き合って欲しい」との返事が来たのだ。
もちろん、キャロルの答えは「イエス」以外なかった。
そこから、とんとん拍子に日程が決まり、今に至ると言う訳である。
そんなことを思い出しながら、キャロルはつい笑みを零す。
「どうかしましたか?」
「いえ、たいしたことではないのですけどね。公爵様は、アイリス関連になると行動力が凄まじいなと」
「確かに…。普段仕事も早い方ですが、バーレイ嬢が絡むと異常に早くなりますからね」
「ふふふっ…!その姿が想像できますわ。けど、大切な親友をそんなにも愛してくれて、私としては嬉しいのです」
実際、ルイスと婚約してからというもの、アイリスはかなり溺愛されているようであった。
アイリスに会う度にルイスとのことを問うと、恥ずかしがりながらも「優しくて、私のことを尊重してくれる素敵な人だ」と教えてくれていた。
そこから段々、「たくさん甘やかしてくれる」、「ルイス様のことをもっと知りたい」、「大切な人」とアイリスの気持ちが変化していったことに、キャロルは単純に嬉しかった。
(一一優しい親友には、幸せになって欲しいもの)
「エルヴィス様!今日は二人で、素敵なものを見つけますわよ!」
「はい、頑張りましょう」
そう返事をするエルヴィスに、キャロルは思わず頬を膨らませる。
「エルヴィス様、堅すぎですわ…!」
「堅い、ですか」
「えぇ!私としては、もっと楽に接して欲しいのですけれど」
「すみません。騎士団でもほとんど敬語なうえに、家族以外の女性とこうして出掛けたことがないもので…」
「あはは…」と頬をかくエルヴィスに、キャロルはあることを閃く。
「では、今日はお互いに敬語は禁止です!」
「きゃ、キャロル殿?」
「それと、エルヴィス様は私を『キャシー』と呼んでくださいませ。私は貴方様を『エル』と呼びます」
キャロル自身、かなり思い切ったことをしている自覚はあるが、折角想い人と街へ来たのだ。思う存分この時間を楽しみたかった。
そんな思いを込めながら、じぃっとエルヴィスを見つめていると、彼は躊躇いながらも言葉を紡いだ。
「一一……キャシー」
「ふふっ!」
エルヴィスにそう呼ばれるだけで嬉しくて、キャロルの鼓動は簡単に早くなる。
しかし、それがエルヴィスへ伝わらないように、キャロルは口早に話す。
「こういうのも新鮮で面白くない?エル」
「たまには、悪くないと思う」
「ならよかったわ!」
キャロルがそう言うとエルヴィスは軽く咳払いし、少し照れくさそうな顔をして言う。
「……それじゃあ、行こう。キャシー」
(その顔は、反則だわ…!!!)
エルヴィスの照れくさそうな表情を向けられたキャロルは、頬に熱が集まるのを感じた。
(私から言い出したことなのに、エルヴィス様の破壊力がすごすぎて、耐えられる気がしないわ…)
キャロルは差し出された手に自身の手を重ねながら、つい恨めしそうな瞳をエルヴィスへと向けてしまう。
「一一ほんとうに、ずるい人…」
小さく零したその言葉はエルヴィスには聞こえなかったようで、不思議そうな顔をされる。
「キャシー?」
「なんでもないわ!さあ、行きましょう!」
ぱっと口元に笑みを浮かべ、キャロルはエルヴィスと共にアイリスたちへの贈物を選びに向かったのだった。
***
一一気が付けば、街が紅い夕焼けに照らされていた。
買い物を終えた二人は御者に家名を伝え、それぞれ侯爵家まで荷物を届けてもらうように手配をしたところだった。
「何とか今日の目的は達成ね!ふふっ、エルのお陰で、満足のいく物を見つけられたわ。ありがとう」
「俺も、キャシーのおかげで良い物が見つかったから良かった。ありがとう」
「…っ!!べ、べつに、お礼を言われる程ではないわ。お互い様よ…!」
今日一日、お互い敬語禁止で過ごしていたのにも関わらず、キャロルは敬語なしのエルヴィスの破壊力に慣れることができなかった。
(それもこれも、エルヴィス様がかっこよすぎるせいよ…)
心の中でそう考えていると、ふいに足を止めたエルヴィスが何処か緊張した面持ちで口を開いた。
「キャシーは、このあと何か予定はあるだろうか?」
「私?いえ、この後は特に何もないわ」
突然そんなことを問われ、キャロルは少し不思議に感じてしまう。
(どうしたのかしら?一一っもしかして、まだ何か見たりなかった…!?)
もし仮にそうだとしたら、早急に店まで戻ってエルヴィスが満足する品を選びなおさなければならない。
そう感じたキャロルが慌てて口を開こうとするよりも先に、エルヴィスが言葉を発する方が早かった。
「一一もし宜しければですが、もう少し俺に付き合ってくれませんか」
「……え」
「『エル』としてではなく、エルヴィス・マーシュとして、貴方と話をしたいのです」
予想外の言葉にキャロルは一瞬固まってしまうものの、返事をするためにゆっくりと言葉を紡いでいく。
「わ、わたくしも、貴方ともっとお話がしたいです…。エルヴィス様」




