表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

34/63

32.平穏な話し合い?



家族と再会を果たした次の日の午後、暖かな日差しを受けながら、アイリスたちはオルコット公爵家へ向かっていた。



「そういえばお兄様。お兄様は学園にいた頃、ルイス様と仲がよろしかったのですよね?」

「ん?そうだなぁ、ルイスとはそれなりに仲が良いとは思うけど…。どうしてそんなことを聞くんだ?」



 馬車に身を揺られながら、隣に座っているグレンが不思議そうな顔をして首を傾げる。

 そんなグレンを見て、アイリスは以前ルイスから聞いたことを話そうと、少し不適な笑みを浮かべた。



「実は、私の話をするお兄様の様子は、さすがのルイス様でも引いた、と以前教えてもらったのですよ」

「なっ!?」

「ですからお兄様?いったいどのようにお話しすればそのようになるのか、お教えいただけます?」

「ひっ!」



 グレンはびくっと体を震わせ、アイリスから離れるように隅の方へ寄ってしまう。

 だが、ここは馬車の中だ。公爵家へ着くまでの間、グレンに逃げ場などないに等しい。



(お兄様のことだもの、聞かなくてもどのように話したかなんて大体予想はつくけれど…)



 それでも、ルイスが言う『面白いこと』にアイリスは興味があった。



(ルイス様があそこまで言うのだもの。私の予想を、お兄様が遥かに上回っているのは確実よね)



 アイリスは内心楽しんでいたが、それを表に出さないように、グレンへじりじりと詰め寄っていく。



「辞めなさい、アイリス」



しかしその最中(さなか)、ジュリアに止められたため、アイリスは渋々元の位置へと戻る。

 それを眺めながら、ジュリアは持っていた扇子を広げ、口元を隠して言う。

 


「確かにあの公爵様が引かれるのは珍しいですが、グレンのことです。そうなるのも無理はないと思いますよ」

「は、母上、俺を庇ってくれるのではないのですかっ!?」

「当たり前でしょう。それに私は散々言ったはずですよ、『アイリスのことを話すのは、ほどほどにしなさい』と」

「それは、そう、ですが…」



 確かにグレンが学園へ入る前、ジュリアがほぼ毎日ように言っていたということを、アイリスはふと思い出す。

 けれど、グレンの様子やルイスの話から察するに、ジュリアからの念押しは意味をなさなかったのだろう。



(まあ、お兄様らしいと言えばそうなのかしらね)



 すると、今まで静かに三人の会話を聞いていたギルバートが、穏やかながら少し堅い声色でこう告げる。



「ジュリア、グレン、アイリス、もうじき公爵家へ着く。そろそろ気を引き締めておきなさい」



 その声と言葉で、雰囲気が一瞬でぴりっと張り詰めたものへと変わり、三人は反射的に姿勢を正す。



「ありがとう、貴方。私としたことが、すっかり話に集中してしまったわ」

「いや、構わないよ。本当はお前たちの話をもう少し聞いていたいんだが、この道を暫く進むと公爵家があるからね。気持ちを入れ替えておかないと、と思って」



 アイリスはその会話を聞きながら、そっと窓の外に目を向けてみる。

 見るとギルバートの言う通り、遠目だが大きな邸が見えた。



(今日お父様は婚約の話と、ルイス様と個人的な話をしたいと仰っていたわね…)



 ルイスと何を話すのかまでは分からないが、二人の話が平穏に終わることを祈るばかりだ。




***




「ようこそお待ちしておりました、バーレイ辺境伯。既にご存じでしょうが、ルイス・オルコットと申します」

「ええ、もちろん存じていますよ。改めて、ギルバート・バーレイです。こちらは妻のジュリアと息子のグレン、そして娘のアイリスです」



 ギルバートに名を告げられたアイリスは、ドレスの裾を持ち綺麗なカーテシーをしてみせる。

 


「では堅苦しいのはここまでとして、せっかくですからゆっくりお話ししましょう。さあ、席に着いてください」



 ルイスはにこにこと、騎士団ではあまり見せない表向きの顔をしてそう話す。

アイリスはそれを見て不思議と、むずむずとした感覚を覚えていた。



(もしかして、私の家族の前だから表向きの顔でもしているのかしら…?でも、お兄様はルイス様の本来の顔を知っているはずよね)



 ちらっとグレンの方を見てみると、やはり表向きの顔に違和感を感じているのか、思いっきり顔を顰めていた。やはりグレンから見ても、今のルイスには慣れないのだろう。

 そう考えていると、こちらを見ていたルイスと目が合ってしまう。



「ーー」

「……!!」



 目が合うやいなや、ふっとルイスが口元に不適な笑みを浮かべる。



(あの笑みは、ぜっったい何か企んでるわっ!!)



 アイリスが身構えるのと同時に、「ごほんっ」と何処かわざとらしい咳払いをギルバートがする。



「では公爵様、いえ、アイリスと結婚するのであればルイス殿と、そう呼んだ方がいいですかな?」

「ええ、そう呼んで下さるなら私としても嬉しいですね。そうしたら私もお義父様とーー」

「いえ、それは本当に結婚してからにしてくだされ。今はまだ、ギルバートと」

「残念ですが、仕方がありませんね。ーーでは、本題に入りましょうか」



 ギルバートもルイスもお互い笑顔を貼り付けたまま、話が進められていく。



「まずルイス殿、この度はアイリスとの婚約おめでとう。貴殿となら、我が家としてもとても心強い」

「私としても、バーレイ辺境伯家と繋がりを持てるのは嬉しい限りです」

「ルイス殿、私もジュリアもこの婚約に反対はしていない。だが一つだけ、アイリスの父として言わせてもらいたい」



 ギルバートはアイリスを一度横目で見ると、ルイスに向けて言う。



「娘を泣かすようなことがあれば、即刻我が家に帰ってきてもらいますので、そのつもりで」



 その言葉を聞いたルイスが、表向きとは違う柔らかな笑みを、その美しい顔に浮かべる。



「私としても、アイリス嬢を心から大切に思っていますから、ギルバート殿が危惧するようなことは起こさせませんよ」



(どうして今、そのような表情で勘違いしそうなことを言うのかしら!)


 

 今まで直接的に「大切だ」とルイスに言われたことがなかったアイリスは、じわじわと赤くなる頬を抑えることができなかった。



 そのため、だめだと分かっていながらも隠すように両手で頬を覆い、思わずじとっとした目でルイスを睨んでしまう。

 しかしルイスはそれを見ても、そんなものは効かないと言わんばかりに微笑んでいる。



「〜〜っ!!」



 やるせない気持ちになっていると、ジュリアの凛とした声が部屋に響く。



「ねぇ貴方、グレン。この二人の様子を見て、まだ何か言うことがあるかしら?」

 


 ジュリアから発せられたその言葉を受け、ギルバートとグレンはほんの少し体を強張らせる。

 そんな二人を他所に、ジュリアはルイスへ視線を向け、口を開く。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ