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24.約束と贈り物



あの後しばらくして戻ってきたルイスは、何事もなかったかのように淡々とお茶の支度を進めて行く。

アイリスは、次々に並べられていく様々なお菓子を見てぱあっと目を輝かせる。



「わぁ!どれも美味しそう…!!」

「たくさんあるから、好きなだけ食べればいい」

「うぅ…!!そんなことしたら、次の訓練で動けなくなるじゃないですか!」



それを聞いたルイスがにやりと、意地の悪い顔をしたと思うと、アイリスの正面の椅子へ座りながら告げる。



「もしそうなったら、動けるまで俺が個人的に指導してやろうか?」

「!!」



個人的に指導をする、という魅力的な提案にアイリスは目を瞠る。

しかし、それはアイリスが動けなくなるほどお菓子を食べた場合の話だと言うことに気付き、アイリスは内心頭を抱えた。



(ルイス様の指導を受けたいけれど、騎士団でそれをするとなると必然と先輩たちを巻き込んでしまうわ。それだけは阻止しないと…!!)



顔面蒼白になるであろう面々を思い浮かべながらアイリスはふと、あることを思いつく。

そしてそれを言うべく、アイリスはおずおずと小さく挙手をする。



「ルイス様」

「なんだ?」

「これは、完全に私のわがままなのですが、聞いていただけますか」

「あぁ、言ってみろ」



それを聞いたアイリスは一呼吸置いたあとゆっくりと、そのわがままを口にする。



「私、騎士団の訓練以外でもルイス様の指導を受けたいです」

「一一……」

「だめですか?」



ルイスはぐっと眉を寄せる。



彼はしばらく考え込んでいたが、はぁっと息を吐くと真摯な瞳をしてアイリスに言い聞かせるように言う。



「指導してもいいが、それは婚約発表が終わってからだ。そして万が一、指導中お前に異常が見られた場合は、その時点で終わりにする」

「はい」

「あと、怪我をさせるつもりは微塵もないが、もし怪我をしたらすぐに言え。いいな?」

「はい!絶対にすぐお知らせします!」



ルイスの指導が受けられるという事実に、アイリスは自然と頬が緩むのを感じた。



辺境伯領での鍛錬もかなり楽しかったのだが、騎士団で受けるルイスからの指導は、やはり辺境伯領とは一味違うと、入ってすぐ実感したのだ。

そのため、個人的にルイスから剣術を学べるのがアイリスとって単純に嬉しかった。



(ふふっ、とーっても嬉しいわ。でも、お父様たちに言ったら卒倒されそうね……)



アイリスを過剰なまでに愛し、心配する父と兄のことを思い出したアイリスは、絶対に二人には教えまいと決めた。



「あ」

「どうした、アイリス」

「いえ、ちょうどお父様たちのことを考えていたのですが、そういえば近日中には王都に到着するとの連絡が先日ありまして」

「そのことなら俺の方にも手紙が来たぞ。王都に到着次第、我が家を訪問するとも書かれていた」



ルイスはそう言いながら、カップに注がれていた紅茶を一口飲む。

そしてカップを置くと、いま思い出したと言わんばかりにアイリスに言うのだ。



「そうだアイリス、お前は夜会でのドレスについて、どのように聞いている?」

「?ドレスは我が家で用意すると聞いていますが...…」



婚約発表をすると手紙を送った際、母から『ドレスは任せなさい』と返事がきていた。

そのことを伝えるとルイスは一瞬目を瞠ったものの、次の瞬間には何かを理解したのか、「やられた」と言わんばかりの表情をして告げる。



「実はふた月ほど前に、辺境伯夫人からお前に似合うドレスを俺が送って欲しい、と手紙で言われていてな」

「ええ!?」

「お前には我が家で用意すると言って秘密にしているから、ぜひ驚かせてやってくれと」

「一一……お母様」



(いくらなんでも遠慮しなさすぎではないかしら!?)



アイリスは、はぁっと溜息を吐く。

そんなアイリスに対し、ルイスは飄々とした様子で口にする。



「別に、元から何かしら贈るつもりだったんだ。だから何も遠慮しなくていい」

「で、でも…!!」

「むしろ辺境伯夫人が許してくださるならば、お前が身に付けるもの全てを用意するつもりだったぞ?」



そう言われ、アイリスは固まってしまう。

ついこの間も思ったが、ルイスはアイリスに甘すぎではないだろうか。



そうっとルイスを見ると、ドレスを贈ることは当然だと言わんばかりの態度だった。



(たぶん、私がなんと言おうと「贈らない」という選択肢はないわよね……)



ここは素直に甘えておこう、とアイリスは決める。

しかし、アイリスだけが貰ってしまっては理にかなわないという思いもあった。



(一一そうだわ!)



あることを思いついたアイリスは、パチンっと胸元で手を合わせ、ルイスへと告げた。



「ルイス様!夜会では、ルイス様に似合う装飾品をぜひ贈らせてくださいな」

「……」



ルイスは苦い顔をしたものの、なんとなくアイリスの考えを察したのだろう。

どことなく諦めた表情をして口を開いた。



「分かった」

「ありがとうございます、ルイス様!楽しみにしていてくださいね!」



アイリスは気持ち的にも安心したが、それよりも夜会への楽しみが一つ増え、わくわくした。

しかし、夜会まであまり時間はないため早急に決めてしまわねばならなかった。



(あぁ、どんな物にしようかしら!きっとルイス様なら何でも似合うのだろうけれど、折角選べるのだから、とびっきり素敵な物にしないと!!)



「アイリス」

「!!」



アイリスが物思いにふけっていると、柔らかな声色で名を呼ばれる。




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