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幕間.ニコラスの好きなもの

一一これは、アイリスがイアンから話を聞いている時の、ニコラスとエルヴィスの話である。





「アルフ、大丈夫かなぁ」

「大丈夫ですよ、彼なら。なんやかんや上手くやるでしょう」


二人は街中から少し離れた騎士団の詰所への用を済ませたところだった。


ふと、エルヴィスは前々から気になっていたことを聞いてみることにした。


「あの、ニコラス先輩、先輩ってかなりアルフのこと気に入ってますが、理由を伺っても?」

「ん〜?」


ニコラスはエルヴィスの問に少し考える素振りを見せると、のんびりとした口調で言う。


「理由は、とくにはないよ〜。でも、強いて言うなら〜アルフのことを、ほっとけないって思ってるからかなぁ」

「まぁ、それは確かに分かりますが」


今年度新たに入ってきたアルフ・クレイグは、どこか不思議な少年だった。


新人の中で一番小柄だったため、騎士団の訓練についていけなくなると思っていたが、その小柄さを活かしどんどん強くなっていくのだ。おまけに戦闘においての判断力、適応力に秀ている。


そして騎士としてだけでなく、人としても彼は周りを惹き寄せる力を持っていた。それに加え持ち前の人懐っこさで、容易く人の懐に入ってくる。

そんな彼にニコラスだけでなく、他の騎士たちもつい世話を焼いてしまうのだろう。


(アルフ自身は、幼子みたいに扱われるのが不服そうだがな)


エルヴィスがふっと内心笑っていると、少し離れた所から珍しく嬉々としたニコラスの声が聞こえてくる。


「エルヴィス〜!ちょっと来て〜!!」


声のする方を見ると、とある店のショーケースに夢中になっているニコラスがいた。

エルヴィスは不思議に思いながらも、ニコラスの方へ向かう。


「先輩?」

「ほら、これみてよ〜。絶対、扱いやすいとおもうんだぁ」


そう言うニコラスに促されるままエルヴィスが視線を向けると、そこには多様な短剣がずらりと並べられていた。


「!!」


(しまった。一番ここに来ては行けない人が来てしまった)


「ねぇ〜、エルヴィス」

「……なんでしょう」


エルヴィスはニコラスにバレないよう、静かにため息を吐く。

ニコラスは目の前の物のことしか考えてていないのだろう。キラキラとした目でエルヴィスを見て言うのだ。


「僕、ちょっと中を見てくるね〜」

「………はい」


エルヴィスが重々しく返事をした瞬間、ニコラスはものすごい速さで店へ入って行く。

その様子を見ながら、エルヴィスは再びため息を吐く。


(くそ、すっかり失念していた。ああなったニコラス先輩は、きっと暫くは止まらないのだろう)


実はこの街へ来る前、ニコラスという人物を熟知したパトリックからある忠告をしてもらっていたのだ。



***



『エルヴィス、少しいいか』

『パトリック先輩。どうしましたか?』


ウォーラムへニコラスも行くことが決まった日の夜、エルヴィスはパトリックに呼び止められた。


そしてなんの前置きもなくパトリックは話し始める。


『いいか、エルヴィス。これだけは覚えておけ』

『?』


するといきなり、がっと、肩を押さえ込まれる。

いきなりのことにエルヴィスは驚きながらも前をを見ると、そこには鬼気迫る顔をしたパトリックがいた。


『せ、せんぱい?』

『いいか、ニコラスには、あいつには、ぜっったいに武器屋を見せるな』

『は?』

『お前は知らないだろうがな、あいつはああ見えて短剣好きなんだよ!!しかもかなり重度のな!!』


パトリック曰く、ニコラスは幼少の頃から騎士に憧れていたという。それを聞いたパトリックは、騎士がかっこいいからだと思っていたらしい。


しかし騎士団へ入団した頃、その予想は外れた。

ふと昔のことを思い出したパトリックが、ニコラスへどうして騎士になりたかったのか再び聞いたのだ。

するとニコラスは、きょとんっと不思議なものを見るような目でこう言ったそうだ。


『だってぇ、騎士になったら長剣だけじゃなくて、短剣も使えるでしょ〜?僕、短剣をいっぱい使ってみたかったんだぁ。あ、もちろん普段の生活じゃあ使わないよ〜』


それを聞いた瞬間、パトリックは決意したそうだ。

絶対ニコラスには必要最低限の短剣しか与えない、と。



『それを、なぜ俺に言うのですか』

『仕方ないだろ!アルフはふわふわしてるから危ないし!ブレットとかいう奴はよく分からんし!こうなるとお前しか頼るやつがいないんだよ!!』

『しかし、ウォーラムには武器屋などなかった気がしますが...』

『......いや、それがあるんだよ。しかもそこは短剣しか売っていない』

『それは......』

『おかしいと思ったんだ!あいつがいきなり別の任務へ行くなんて言うから、どこへ行くのか聞いてみたら!ウォーラムなんて言うんだぞ!絶対にあいつは短剣が欲しいだけだ!』


そこまで聞いたエルヴィスは、度重なる問題に頭が痛くなるのを感じた。


『パトリック先輩。ダメもとでアルフにも話しておきます』

『......ああ、頼んだ』




***



しかし、結果としてパトリックの忠告は無駄になってしまった。


(帰ったら、パトリック先輩に謝らないとな......)


「あ、エルヴィス〜!待たせてごめんねぇ」


エルヴィスはそう決意し、満面の笑顔で戻ってきたニコラスの腰に巻かれた短剣を見て苦笑いするのだった。


もちろん王都へ帰り、顔面蒼白なパトリックから『俺の忠告はなんだったんだ!』とお説教されたのは、言うまでもない。



ニコラスとパトリックは幼馴染です。

いつものんびり屋ニコラスの、ちょっとした一面を書いてみました!



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