表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

22/63

21.思いがけなかったこと



「ふわぁ…」



ウォーラムから戻ってきた日の午後、アイリスは襲い来る眠気と闘いながら、昨日の報告のためにルイスの執務室へと向かっていた。



本来であれば報告は明日の予定だったのだが、昨日の内にエルヴィスが『早めに話しておきたいことがある』とルイスへ手紙を送ったそうだ。

そして手紙を受け取ったルイスもそのことを了承したため、急遽集まるように指示されたのだ。



(たしか、エルヴィス先輩とニコラス先輩は既に副団長のもとにいるのよね。やはり、先輩方も昨日何か気になることがあった、ということかしら……)



そんなことを考えている内にいつの間にか執務室の手前まで来ていたらしい。この短期間で見慣れた豪勢な扉が目に入る。



しかし、何度来ても部屋に入る前の緊張感は慣れず、アイリスはふぅっと息を吐きだす。

そしてノックを二回し、名を告げると「入れ」とルイスの声が聞こえてくる。



アイリスが部屋に入ると、珍しくニコニコと微笑んでいるルイスと、何処か不憫そうな視線を向けてくるエルヴィスとニコラスがいた。



「あの、なにか……?」

「早速で悪いがアルフ、お前に頼みがある」

「頼み、ですか」



絶対、ルイスはこちらにとって不利なことを企んでいる。しかも、かなりろくでもないことだと、エルヴィスとニコラスの反応を見て察する。



アイリスは警戒しながらルイスへと聞く。



「一一何をさせるおつもりですか」

「話が早くて助かるな」



相変わらずルイスは微笑みを絶やさない。



その反面、エルヴィスは額に手を当てため息を吐き、ニコラスに至ってはルイスの前だというのに何かブツブツと言いながらしゃがみこんでしまっている。



アイリスはそんな状況を見て、警戒心がどんどん膨らんでいく。



(先輩たちがこうなってしまう程のことを、この方はさせようとしているの!?)



そんな中、ルイスが口を開いた。



「アルフ、街娘に紛れてこい」

「は?」



(一体、なにを仰っているのかしら、この人は)



そんなアイリスの心中をルイスはきっと察しているのだろう。しかし、そんなことはお構い無しに話を続ける。



「正確に言うと、女に変装してある程度の時間、街で過ごす、それを週に一回、決まった時間行う。お前のことだ、すぐ街中に美人がいると噂が流れるだろう。そこを首謀者共に狙わせるんだ」



(副団長が、私にさせようとしていること、それはつまり一一)


アイリスはゆっくりと、ルイスが求めているであろう言葉をつむぐ。



「つまり副団長は、僕を"女"として誘拐させ、首謀者たちの本拠地を暴き、捕縛したいということですか」



それを聞いたルイスが、ふっと意地の悪い顔をする。



「正解だ」



(やはりそうなのね、でも一一、婚約発表間近で婚約者を誘拐させようだなんて思うかしら!!??)



アイリス自身、最初から夜会で囮になることは決まっていたため、囮云々に否やはない。

しかし、タイミングというものがあるのではないだろうか。



(しかも私の場合、この姿がもう変装なのだけれど......)



「……アルフー」



アイリスが一人悶々としていると、しゃがみこんでいるニコラスが申し訳なさそうにこちらを見ていた。



「ニコラス先輩?」

「ごめんねぇ、アルフに危険なことさせて。ほんとーは僕達がやろうと思ったんだけど、むりだったぁ......」

「先輩方が、女装を......。あっ!」



ここに来てすぐに衝撃的ことがあって忘れていたが、アイリスは報告をしにここに来たことを思い出した。



「あの、副団長!」

「なんだ?」

「昨日の報告は一一」

「あぁ、大まかなことは二人から聞いた。そしたらな、面白いことが分かったんだ」

「面白いこと?」



アイリスが聞き返すと、ルイスはさらに笑みを深める。

その笑みを見たアイリスは瞬時に理解した。



(きっと、その『面白いこと』がさっきのことに繋がっているのね)



そう思っているとルイスが、だが、と口を開く。



「アルフ、お前からも昨日得られたことを聞いておきたい」

「は、はい!」

「エルヴィス、ニコラス、お前たちも異論ないな?」

「はい」

「同じくないでーす。僕も、アルフの話聞きたいし」



ルイスの言葉に賛同を示した二人は、アイリスに向け話し始めるよう視線を促してくる。


そんな視線を受けたアイリスは、一呼吸おいてから昨日のことを話し始める。



「既にご存知だと思いますが、昨日は先輩方と途中で別れ、イアンという男性の店で彼から話を聞きました」

「そのことはエルヴィスからも聞いている。それで?」

「はい、今回攫われた少女について聞いたところ、彼の職業柄その少女とも何度か話をしていたようです。そして、その少女も親しげなイアンさんにかなり懐いていたとか」



そのためイアンに聞いたところすぐに彼も少女のことだと分かったようで、知り得る限りのことを教えてくれたのだ。



「攫われる数日前にも店に訪れていたようで、その時にとある相談をされたと言っていました」




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ