19.同期の苦手
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「ほ、本当にどうしたの?ブレット」
あまりにも迫力のあるブレットの声に、アイリスは動揺を隠せなくなる。
(出会ってから一度もこんなブレット見たことがないわ…。いったいこの先に何があるというのかしら)
気になったアイリスは、目の前にいるニコラスの影からどうにかして前を見ようと左右から顔を出そうとする。
しかしブレットに手首強くを掴まれているため、思うように動くことができず全く持って前を見れなかった。
そんなブレットに痺れを切らしたらしいエルヴィスが、もう一度ブレットへと言う。
「ブレット、この街を知るのはお前しかいない。だからこの先に一体何があるのか早く言うんだ」
そう言われたブレットはまだ少し険しい顔をしたままだったが、ゆっくりと口を開いた。
「ここから少し進んだ所に、この街ではある意味有名なお店があるんです」
「店?」
「あぁ、イアンさんっていう男の人がやってる店なんだけど一一」
ブレットがそう話していると、くるっと突然ニコラスが後ろを振り返った。
かと思うと、アイリスたちの後ろの方をじっと見つめる。
「ニコラス先輩?後ろに何か一一、」
「ねぇー、ブレット」
後ろを振り返ろうとした瞬間、それはニコラスが呼び止めたことによって阻まれてしまう。
「そのイアン?って人は、いっつもニコニコしてる人〜?」
「?は、はい、そうですけど」
ブレットは困惑した顔をしながらもニコラスへと答える。
「じゃあ〜、その人はこの街ではどんな人?」
「えーっと、婦人方やあとは漁師のおっちゃん、酒場のマスターたちから結構人気なんですけど…、俺と歳の近い人からしたら、ちょっと、抵抗があるというか……」
「へ〜。そうなんだぁ」
突如始まった質問攻めに、アイリスもエルヴィスも何事かと呆然としていた。
するとニコラスがアイリスの方を見たかと思うと、ちょいちょいと手招きをする。
「?」
(こっちに来いってことかしら……?)
不思議に思うもののブレットの手を離し、招かれるままにニコラスの方へ近づく。
「アルフだけじゃなくて、エルヴィスもこっち〜」
どうやらアイリスだけでなくエルヴィスも呼ばれていたらしく、エルヴィスもこちらへとやって来る。
その様子を見ていると、アイリスはあることに気が付いた。
(まさか、ニコラス先輩が私たちをこちらに呼んだのは一一)
こちらへ来たエルヴィスが一人取り残されたブレットの後ろに目を配り、ブレットへと言う。
「ブレット、お前はそこから一歩も動くんじゃないぞ」
「なっ!ど、どうしてですか!?」
「それがこの場において一番安全だからだ」
「一一……!!」
エルヴィスがそう言うと、何かに気づいたらしいブレットの顔がサッと青ざめる。そしてブレットが唇を手で抑え、言葉を紡ごうとした時だった。
「全くもう、ブレットったら酷いじゃない、あんた達がガキんちょの頃から散々面倒を見てきてあげたって言うのに、そんな言い方はないんじゃない?」
「ひっ!!」
そう声が聞こえたと同時に、ブレットの背後から腕が伸びてくる。ブレットは逃げようとしたものの、そのままその腕に捕まってしまった。
「うわぁぁ!!なんでいつもいつも俺ばっか捕まえんだよ!!」
「そう言われてもねぇ。誰よりも逃げ遅れるあんたが悪いでしょう」
黒く長い髪を後ろで一つに束ねたとても体躯の良い男が笑顔でそう言いながら、暴れるブレットの四肢を全身で固め続けている。
そんな二人を傍らに、アイリスはそっとニコラスへと声を掛ける。
「ニコラス先輩、いつからあの方が後ろにいたと気付いたのですか?」
「んー?そんなの、この市場に来たときから気が付いてたよ〜」
「!!」
「もちろんエルヴィスも気付いてたみたいだよー。ね?エルヴィスー」
「それは、まぁ気付いていましたが。何も言わなかったのは向こうに敵意がなかったからです」
さも当たり前という風に二人は話す。しかし最初からいた気配に気付かなかったという事実に、アイリスは静かに落胆する。
(〜〜〜っいくら敵意がなくてもずっと後ろにいたならほんの一瞬でも気付かなきゃいけないのに!!これが敵地だった場合、とっても危険だわ)
アイリスがぐるぐると一人で反省をしていると、正面の方からどさっという音が聞こえてくる。
ふと音のした方を見るとようやく離して貰えたらしいブレットが、地面に両手をついて肩で息をしていた。
そしてその横で長髪の男が頬に手をあて、どこかうっそりと笑いながら言う。
「それにしても、ブレットったら数ヶ月でこんなに逞しくなっちゃって、アタシはとーっても嬉しいわぁ」
「………」
複雑そうな表情をしたブレットが大きく息を吸い吐き出すと、男の言葉を無視しゆっくりと立ち上がった。
それを見たエルヴィスは一悶着ついたと判断したのだろう。二人の方へ歩を進めると、長髪の男へと声を掛ける。
「突然すまない、貴方が先程話に出てきていたイアンで間違いないだろうか」
「えぇ、アタシがイアンよ。あなた達はブレットと同じで騎士さんね、ようこそウォーラムの街へ。何か聞きたいことがあるんでしょう?ならアタシの店へいらっしゃい」
アイリスたちは、ニコリと人好きのする笑みを浮かべそう言うイアンに、少し強引ながらも彼の店へと連れられて行ったのだった。




