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18.同期と先輩

まだ暑さは残るもののだいぶ涼しくなってきた頃、茶髪の鬘を被り騎士団の制服に身を包んだアイリスは、とある街の市場を訪れていた。


かなり珍しい顔ぶれで。



「おいアルフ知ってるか?あそこの屋台の飯、めっちゃ美味いんだぜ」

「あの食べ物なら知ってるよ。結構癖になる味だよね」

「なっ!?お前食ったことあったのかよ!くっそー、絶対ないと思ったのに」

「おいお前たち、私語はなるべく慎め。遊びで来ている訳ではないぞ」

「まぁまぁエルヴィス、そう怒らない〜。少しくらいなら許すことも、大事だよー」

「ですが一一」


そんな会話をしながら、面々は街並みを進んでいく。


足を進めながらもアイリスは改めて彼らを見る。


(エルヴィス先輩だけじゃなくてブレットも来ると聞いた時は驚いたけれど、まさかニコラス先輩まで来るとは思わなかったわ……)


そう、今日アイリスはブレットとエルヴィス、ニコラスと行動を共にしていた。


なぜこの四人で来ることになったのか、事の発端は数日前に遡る。



***



『一一アルフとエルヴィス、お前たちにやってもらいたいことがある』


ある日突如として呼び出されたエルヴィスとアイリスは、執務室に入ってすぐルイスからそう告げられた。

ついこの間、ルイスとあんな話をしたばかりのアイリスは少し身構えてしまう。


すると、ルイスがふっと何か企むような笑みを浮かべる。

その笑みを見て何かを察したらしいエルヴィスが、渋々といった様子でルイスへと言う。


『…今度は何をさせるおつもりですか?』

『話が早くて助かるな、エルヴィス』

『いつものことですから』

『では単刀直入に言う。街へ行き、例の事件のことを調べてこい』


ルイスのその言葉にふと疑問を覚えたアイリスは、そっと手を挙げ口を開いた。


『失礼ですが副団長、街へは既にエルヴィス先輩たちが聞き込みに行ったはずですが……』


ちらっと隣にいるエルヴィスを見ると、彼もどこか不思議そうな眼差しをしていた。


そんな二人を見て、どこか面白がるような口調でルイスが言う。


『アルフの言う通りだ。王都の街での調査は既に終わっている』


するとエルヴィスが何かに気が付いたように、はっとした表情になる。


『一一まさか、また新たに攫われた者がいるのですか』

『あぁ、そのまさかだ』

『!!』


ルイスから聞かされた事実に、アイリスは後ろで組んでいた手にぎゅうっと力を入れる。


(早急に首謀者を見つけないといけないわね。そして一日も早く、少女たちを家族の元へ帰さなければ)


アイリスは二人に気付かれない程度に浅く息を吐き、思考を切り替える。


『ところで副団長、それは何処で起こったのですか?』

『ウォーラ厶、という王都から少し離れた所にある街だ』

『ウォーラム……』


アイリスはそのウォーラムという名を、ここ数ヶ月の間で聞いたことがあるような気がしていた。


(誰かから聞いた気がしたのだけど…。いったい誰だったかしら)


アイリスは必死に思い出そうとする。そんなアイリスを他所に、ルイスが机に肘をつき手を絡めて言う。


『その街に行ってもらうにあたって、見知らぬ騎士らが行ったとこで怪しまれるだけだ。そこで一一』


ルイスが何かを言おうとした瞬間、コンコンコンっと扉が叩かれる。

ルイス自身が呼んだのだろう。誰かを確かめることなくルイスが入室を許可する。


そして恐る恐るといった様子で入ってきた人物を見て、アイリスは「えっ」っと声を出してしまう。


『……失礼します』


なんとそこにはふわふわとした焦茶色の髪に、鍛錬によって入団後より体つきが良くなったブレットがいたのだ。


(あっ!もしかして一一)


このブレットの登場によって、アイリスはあることを思い出していた。

それと同時にルイスがエルヴィスとアイリスに向けて言う。


(ウォーラムはブレットの出身地だわ!!)


『そこにいるウォーラム出身のブレットという騎士と共に、ウォーラムの街へ行ってこい』



***



その後、困惑したままのブレットをそのままに、なんとか当日までの調整を行った。


そしてその途中で偶然会ったニコラスに、二日程度騎士団を留守にすることを簡単に説明した。すると『俺も一緒に行くー』とニコラスが言い出したかと思うと、とんとん拍子で一緒に行くことが決まってしまった。


本人曰く、「ここで仕事してるより楽しそう〜」とのことだった。


(これは、パトリック先輩が荒れ狂うわね...)


その数刻後アイリスが想像した通り、話を聞いたパトリックが鬼の形相でニコラスを追い掛けていた。


そんな調子で終始ドタバタしながらも、王都を出発したのが今日の早朝ということだ。



(一一あの時のパトリック先輩の顔、下手したら副団長より怖かったわ)


あの様子を見たアイリスはこれから先、パトリックを怒らせないようにしようと心に決めた。


そんなことを考えていると隣を歩いていたブレットが突然立ち止まり、アイリスとエルヴィスの腕を掴んだ。


「ブレット?」


突然の行動にアイリスは心配になり、ブレットへ声をかける。

アイリスと同じように腕を掴まれたエルヴィスも、後ろを振り向き怪訝そうな表情をしながら口を開く。


「おいブレット、いったい何の一一」



「……そっちに、行かない方がいい」

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