12.新たな場所で
「一一本日よりこの隊に加わることになった、アルフ・クレイグだ。皆、彼に色々と教えてやるように。ちなみにこの後の訓練は10分後に行う。各自準備をしておけ、以上だ」
「「「「はっ!!!」」」」
ルイスの言葉に他の騎士たちは勢いよく返事をし、それぞれが訓練に向けて動き出した。
アイリスはその様子を見ながら、緊張しながらもこれから行われる訓練のことなどを考え、わくわくしていた。
(拒否権のなかった異動だけれど、単純にこの隊の訓練とか任務とか気になっていたからすごく楽しみ…!!)
「アルフ」
「あっ、エルヴィス先輩!」
するとエルヴィスが、アイリスの方にやってくるのが見えた。
「エルヴィス先輩は今日はこちらの訓練に参加するのですね!」
「あぁ、そういうことだ。なんせお前一人だと心細いと思ったからな」
揶揄う様な口調で言うエルヴィスに相変わらずな人だと思いながら、アイリスはこの後のことを尋ねることにした。
「そういえばエルヴィス先輩、この後の訓練は一体何をするんですか?」
「お前が喜びそうなものだが……、もしかしたらそうでないかもしれないものだ」
「?」
ぐっと少し眉間に皺を寄せてエルヴィスが話すが、アイリスは訓練の内容が全く想像つかなかった。不安になりながらもまぁ大丈夫だろうと考えていた。
一一しかし、この時の考えをアイリスは後悔することになる。
***
(一一こ、これは、楽しいけれど、なかなかキツいわね……!!!)
アイリスは、はぁと大きく息を吐く。そんなアイリスと同様に、横にいる一人の騎士も息を吐きだす。
すると目の前にいる人物は木剣の切っ先を二人に向け、面白がるように言う。
「どうした二人とも。まだまだ時間は残っているんだ、どんどん来い」
「くっ……!」
今アイリスたちは、二対一で行う実戦に近い形の訓練をしていた。その訓練はかなり神経を使うもので、二人のタイミングを合わせて打ち込みに行かないと上手く一撃を入れられないのだ。
アイリスは大抵どんどん攻撃を仕掛けていくのだが、自分よりペアの方が強いということを考慮し、あまり自分から攻めに行くことをしていなかった。
しかしそのことを見抜いたらしい目の前の人物一一、ルイスは淡々と言う。
「アルフとセシル、お前ら二人一見すれば呼吸があっているようだが、それだけではダメだ。お互いの長所が活かされていない」
「「!!!」」
「特にアルフ、お前は遠慮しすぎだ。いつもの身軽さをもっと活用しろ。そして、この隊で一番の順応能力を持つセシルを信用して攻め込んでこい」
そう言われ二人は互いに目配せし合うと、再びルイスに向かって走り出す。
「ふっ!!」
先程とは違い、アイリスは次々に剣を打ち込んでいく。その途中トンっと前ではなく後ろに一歩下がる。
するとその横からセシルが飛び出し、ルイスへ一度、二度と木剣を振るう。
「一一へぇ」
それを容易く受け止めたルイスが、ふっと口の端をあげた。
そしてセシルが再び剣を振り上げた瞬間、ルイスがセシルの木剣を薙ぎ払い、弾き飛ばす。
「なっ……!!」
「まぁまぁ良くなったぞ。しかし少し慌てすぎだ、お前の悪いとこだな」
そう言い終わるのと同時に、ルイスの背後へ回り込んでいたアイリスが攻撃を仕掛ける。
(今ならいけるっ!!)
ルイスの首を目掛けて一撃を入れる。しかしギリギリのところでルイスに止められてしまった。
「一一あぁ本当に惜しいな、君は」
その声に、一一ぞくりと何かが背中を駆け抜けた。何かを感じ、急いでルイスから離れようとすると、ばっと後ろに身を翻したルイスがこちらに向かってくる。
そして距離を詰められたかと思うと、木剣がアイリス目掛けて薙ぎ払われてくるのが見える。
「……あっ」
アイリスはもう数歩下がろうとするが、こんな近距離では間に合わないと判断する。
(どうにかして、防がないと一一!!)
そう思い、咄嗟に重心を低くし木剣を横へ持ってくる。すると次の瞬間、カァンと木剣同士がぶつかり合う音が響き、ビリビリと手に強い振動が伝わる。それと同時に、訓練場に設置してある小さな鐘の音も響き渡る。
「そこまでっ!!全グループの訓練を終了とします!」
「はぁ、はぁ……。終わった…?」
アイリスは息を整えながら地面へと座り込む。そんなアイリスを見て、立ったままのルイスが声を掛けてきた。
「大丈夫か?」
「は、はい!この通り元気です!」
ルイスを見上げ、ばっと両手を広げて答える。するとふっとルイスが目を細める。
「なら良い」
そう言われ、何故かふわふわとした感覚になる。
(…?何かしら、この感覚は。)
疑問に思うものの、訓練での高揚感ということにしておく。
暫くすると、三人分の水を抱えたセシルがバタバタとやってきた。
「一一副団長!アルフ!大丈夫ですか……!?」
「ん?あぁ、俺は大丈夫だ」
「よ、よかったぁ。アルフは!?アルフはどこか具合悪いとかある!?はっ…!痛みは!?」
「ぼ、僕も大丈夫です…。すみませんセシル先輩、水を持ってきてもらって……」
「そんなこと気にしなくていいよ!俺はすぐ飛ばされちゃったし、後は任せっきりになっちゃったから…!!」
セシルのあまりの勢いにアイリスは驚くが、普段から彼はこんな感じなのだろう、ルイスは全く気にせず水を飲んでいる。
そして一通り水を飲み終わったらしいルイスが、セシルへと言う。
「セシル、この後は自主練とする。だから、その旨をエルヴィスに皆に伝えろと言っておけ」
「はっ!!」
ビシッと礼をしたセシルが、エルヴィスの元へ走って行く。
「…とても元気な方ですね」
「あいつはいつも、あんな感じだ。…明るくて、面倒見が良い」
その声色は少し、優しく感じる。厳しく接していても、根は騎士たちのことが大事なのだろう。
アイリスは、ふふっと笑みが溢れた。それを見たルイスは大体のことが分かったらしく、少し不服そうに言う。
「俺たちも行こうか、アルフ」
「一一はい」
そっと立ち上がったアイリスはそよそよとした風に身を任せながら、ルイスの隣を歩き出したのだった。




