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鬼と歩む追憶の道。  作者: テテココ
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第85話 拙速。



 その日の私の表情は、最初から冒険者時代の冷たさを纏った鋭利な物であったと思う。

 言わば戦いに行く前の顔であった。



「尋ねたい」


「ひっ……あ、す、すみません。えっと、見た所冒険者の方みたいですが、ご用件はいったい何でしょう」



 私とエアは今、一緒に『魔術師ギルド』へと足を運んでいる。

 冒険者ギルドにも似た構造の建物内を進み、受付の女性に向かって私は声をかけた。

 向こうは私の表情を見ると少し驚き悲鳴をあげかけたが、私の首元の『白石』を見ると幾分か落ち着いたようで、ぎこちない笑顔を見せて応えてくれる。


 私は遠回しに尋ねるのは得意ではないので、訪問の目的をさっさと告げて、向こうの出方と反応を見ようと考えた。



「魔法ついてだ。こちらのギルドでは重要な情報の共有は行っているのかを先ず尋ねたい。如何に」


「重要な情報の共有、ですか?それは……あっ、もしかして、今話題のアレの事でしょうか?」



 私が受付嬢へ早速尋ねると、彼女はしばし考え、その次何か思い当たる事があったのか、ぱっと花が開くような笑顔で私へと『魔法の指定先についての新情報の事ですよね?』と言ってきた。



 それはまさに今から私が尋ねようとしていた本題の分野の話ではあるのだが、新情報と言うのはどういう事なのだろう。今までその情報はなかったと言う事なのか。それともまだ誰も聞いたことがない新たな魔法指定の方法が見つかった、というそんな話なのだろうか。




「実はですね──」



 そうして、よくよく確認してみた所、彼女の話は前者であり、この街でもトップに近い冒険者グループの、とある『金石』の女性魔法使いから『魔法を使う際の、他の指定方法とその習得方法』という情報がダンジョンへと突入する前にレポートとして齎されたのだという話であった。



 そして、その新情報によって、今この街の全ての魔術師ギルド内では新技術の習得に向けてみんなが悪戦苦闘の真っ最中なのだという。



 私はその話が出た時点で、すぐにその『金石』の女性魔法使いがドライアドの店主だと言う事が分かった。そもそも、彼女から既に『仲間や周りの者達にこの事を伝えても良いのー?』という質問を事前にされたので、私は誰もが知っていて当たり前の情報だろうからと『好きなだけ広めて欲しい』と受け答えをした覚えがあったのである。


 だが、それがまさか"新"情報……と言う扱いになって、『魔術師ギルド』で波及しているとは夢にも思わなかった。



「……それではつまり、今まで使える者はいなかった、と言う事なのか?」


「はいっ!もちろんですよ!こんな魔法使いにとって秘奥義とも呼べる方法!誰もが使える筈がありませんッ!」


「……そ、そうなのか」


「はいっ!もしかしたら一部の人達は知っていたかもしれませんけれど、それをまさか無償でギルドに報告してくださるなんて……やはり『金石』の冒険者ともなると素晴らしい方なのだと私は深く感動致しておりました!私も今日の業務が終わり次第!早速習得に励むつもりです!」



 目の前で受付嬢が喜びに目を輝かせ始める頃、私の気持ちも幾分落ち着きを取り戻し始めていた。

 それに店主の評価が上がるのは大変に良い事ではある。

 なのだが、冷静になるとそれはそれで、『待て待て』と疑問が浮かぶ。


 ……それではつまり、なにか?これは全て私の考え過ぎだったとでもいうのだろうか。

 何者かの陰謀なのではないのか?と疑ってここまで乗り込んで来た私は、もしかして大部場違いな勘違いをしている?……いやいや、そうとまだ決まったわけではない。まだ話は終わっていないのだ。



 そもそもだ、おかしいではないか。

 こんな情報は昔なら当たり前の情報だったはず。それをなんで今更みなで新情報だと言って喜ぶのだ。

 それはつまり、誰かしらが今までは情報統制をかけていたと言う事ではないのか?とそんな思惑が私の心に沸き立つのである。


 ギルド、いや協会に私はちゃんと情報を伝え、それはしっかりと保管されていた筈なのだ。

 『ギルドは本当に知らなかったのか?もしかしたら隠していただけでは?』と私は、昔を思い出しながらそう受付嬢に尋ねた。……ここの部分だけを聞けば、私は酷く嫌な奴である。



 だが、私の勘が告げている。これにはおそらく何某かの陰謀があるはずで──



「──あー、これは私も聞いた話なのですが、十数年おきに起こる異常気象の際に、大規模な魔物の大群がこの街のダンジョンの至る所から沸きだすというかなりの大事件が遥か昔にあったそうです。それでその際に仕方なく敵を倒す為に大規模な魔法を使い、なくなく当時のギルドもろとも街ごと敵を焼き尽くして倒したのだと聞いております。……ですので、その際に重要な資料の大部分も失ってしまったと。もう百年以上は昔の話だとは思いますが……」



 そんな受付嬢さんの話を聞いて、私は膝から崩れ落ちるかと思った。

 街中で【火魔法】を使うなと、そんな一般常識を知らない者が居るわけ……いや、いた。それを知らないドライアドが、つい最近まで私の傍にも……。



「そう、だったのか……」



 最後の最後まで抵抗していた心の一部が、その言葉と共に諦めたかのように納得を得た。

 ……そうか。この街では百年以上前に情報が一度途切れてしまっていたのか、と。

 それでは、冒険者ギルドの方もおそらくは、と言う疑問が浮かぶが。



「──はい。ご想像の通りかと。その時に冒険者ギルドも消失したと聞いております。ですので、それからこの街は四つのエリアに分かれて再建し、それぞれで情報を共有して保管するようになったのだそうです。もし一つが失われても、今度は残りの三つでそれをフォローし、二度と情報を途切れさせない様にと考えられているのだとか」



 恥ずかしながら、全ては私の早とちりだったらしい。

 『……いざ!これからギルドに殴り込みにいくぞ!』ばりに気合を入れて来たのだが、もう謎は全て解けてしまった。


 今は、振り上げた拳の行き場がないとまでは言わないが、この複雑な気持ちをどうすればいいのだろうかと、この気持ちの置き場に凄く困ってしまっている。



「ロムっ。はい浄化っ!元気だして!」



 だが、そんな私に隣からエアが浄化をかけてくれた。

 すると、私の頭はスーッと空気の入れ替えが出来たかのようにスッキリとなる。

 これはしょうがない事だったのだと思う事にしよう。

 過去の事を残念にこそ思いはするが、それを今を生きる彼らに(なじ)ったりするのはみっともない事である。

 そんな事はしたくない。してはいけない。大事なのはこれからどうするのかである。


 ……ありがとうエア。私は大部冷静を取り戻せたらしい。



 そうだとしたら、冒険者の方にも未だ私の把握しきれていない、失くしてしまったままの貴重な情報は数多いのだろう。

 この後ギルドに戻ったら、私は足りなくなってしまった部分の情報を、ギルドへと伝えにいこうと思った。それをしなければと。それをしたいと強く思ったのだ。



 お散歩以外の仕事としても、これほどの適任な仕事もそうはないだろう。

 私にしか出来ない事である。

 『後はお前に任せる』とそう言い残して消えて行った者達に、私は自分の役目をちゃんと果たしたぞと今度こそ胸を張って言う為にも、私は私の出来る事をやっていこう。





「──ややっ!?そちらに見えますのはエルフの方ですかな!!」 



 話も終わりかけ、受付嬢さんに感謝を告げ、早速ギルドへと戻ろうかと考えていると、その受付嬢のいるカウンタ―側の更に奥から、一見して魔法使いだと分かる風貌をした人物──黒ローブにとんがり帽子を被ったご老人──が私達の方へと嬉しそうにやってきたのであった。



 聞けば彼はこの魔術師ギルドの長であり、街で運営している魔法使いの為の学校の校長もしているのだという。

 長年魔法の技術に目がないただの研究オタクだったと自らで言っているが、同時に若年層の魔法力の低下を嘆き、学校を開いて教育を施し、魔法使い達の成長を助ける手助けを行ってきたのだという。そんな立派な御仁だった。



 ただ、彼自身はそこまで優秀な魔法使いという訳ではなく、教えられることはかなり限りがあり、それをいつも残念に思っていたのだとか。それでも常に精一杯を、己が知っている事を全力で伝え続けて来たのだそうだ。



 私はその話を聞いた時に、この街にいたドライアドの彼女の知識の偏りも、もしかしたらここにあったのではと察した。彼はこの国の魔法使い達を支える大事な柱の一人なのだろう。凄く尊い人物なのだと私も思った。



 そして、彼は長年隣国にいる魔法の優秀なエルフ達の噂を聞き、一度は彼らを招いて学校の生徒達に更に高い教育を施したいと常々考えていたのだが、そのお二人はどうやら国の要人らしく、何度も断られ続けていて、残念に思っているのだとか。



 ……その二人とは、恐らくは私の友二人の事だろうと私は話を聞きながら思った。

 確かに、王都で要職に就いていると言うのは聞いたことがある。

 なんの要職かまでは興味が全くわかず寝てしまって、聞きそびれてはしまったけれど……。




「今回の『対象指定』以外の指定方法の存在とその習得の為の資料……もしやとは思いますが、まさかあなた方のお計らいなのでは?」



 私達へと話をする彼はとても嬉しそうで、その最後には恐らくは核心に近い言葉も尋ねられたのだが、私とエアは肩をすくめて『さあ?』と、とぼけておくだけにとどめた。

 私とエアはこの街の魔法使い達の現状を、ドライアドの店主と会うまでは知りもしなかった。

 その事をちゃんと伝えようと思ったのは、間違いなく彼女の功績である。それが、それだけが揺ぎ無い事実だ。




「──そうですかそうですか」



 そんな私達の仕草に、ご老人は理解を得たのかこれまた嬉しそうに笑った。

 ただ、その笑みはいつしか私にのみ強く向けられており、その薄く細められた瞳の奥では、なにやら『この獲物をどうしたら確保出来るのだろうか?』という、エルフの教育者を一人確保したいと言う欲が、垣間見えてしまっているのだが、私はいったいどうしたらいいのだろうか。



 当然、その思惑は周囲にも筒抜けで、私だけではなくエアや傍に居る受付嬢にも伝わっていて、急に周囲には微妙な空気が流れた。


 ……さっ、さてと、それでは疑問も晴れたので、そろそろここらで私達はお暇しようかと思い席を立つと、『おっと!そう言えば!美味しいお茶菓子を最近手に入れましてな!良かったらこれも何かの縁。どうですかなご一緒に?』と、案の定誘われはしたのだが、生憎と私は『この後ギルドでやっておかなければいけない事が有るので』と断り、そそくさと逃げて帰って来たのであった。





 私はギルドに戻ると、情報補完部屋にて足りないと思われる部分の補填を早速行なった。

 『あの時はこんな事があった』『この時はこうだったな』と、話しながら思い出そうとその都度私が喋る補填内容の昔話に、隣でエアは楽しそうに聞き入っている。

 作業は結局一日では終わらなかったが、今後も少しずつ続けていこうと思う。



 ただ、翌日の事、『ダンジョン散歩』の方の仕事も疎かにするわけにはいかないので、いつもの場所へと集合すると、そこには見慣れたお母さん方と子供達の傍に、見慣れない黒とんがり帽子を被ったご老人の姿があった事は、もはや言うまでもないだろう……。





またのお越しをお待ちしております。

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