第776話 無秩序。
今回は『第三者視点』になります。
注意・この作品はフィクションです。実在の人物や団体、事象などとは関係ありません。
また作中の登場人物達の価値観なども同様ですのでご了承ください。
『精霊達』は忘れない。……して貰った事を。その言葉を。その恩を。その愛を──。
『誰か』にして貰って嬉しいと感じた事を、『誰か』に返してあげるのは嬉しい事なのだと。
「…………」
『その涙を止める為ならば、なんだってしよう』
『立ち上がれないならば、いつだってその支えとなろう』
『歩き出すために背を押して欲しいのならば、全力で押すし、一緒に手だって繋いであげるぞ……』
『抱っこしてもいい、背負いあってもいい』
『そして、愛するだけではなく……時には、君達の失敗を怒れる存在にもなりたい』
『晴ればかりではなく、君達の雨にもなりたいのだ』
『陽で照らすばかりではなく、月として見守りながら……、時に火で猛り、水で癒し、土と共に育み、風と共に舞いたい』
『──だから私は皆に、この『ブレス』(祝福)を贈りたいと思う。どうか受け取って欲しい……』
「…………」
『旦那……』
『わたしたちも、ようやく返せるようになったよっ!』
『……にっ』
『エアちゃん達だけが成長した訳じゃないんです。わたしたちも変わりました。気付いてくれましたか?』
──『与えられた祝福』は、その吐息は、ありとあらゆる存在に『力』を分け与える。
そして、その『力』は数多の変化を遂げて、再び本来の存在の元へと帰還しようとし始めていた。
……『旅』はいずれ終わるのだ。『家』へと帰るのである。
あらゆる存在を通じて繋がり、変化し、蓄えた『力』は、欠けたものを次第に埋めていく──。
失くしたものを、その手へと戻す為の一途な『道』となる……。
強い願いは叶う……いや、それを叶える為に、歩き続けた結果がそこには在るのだと。
「…………」
『探し物』は、意外と傍にある事も多い。
……『力』を与えられたその日から、ずっと返せる日々を彼らは待ち望んでいたのだ。
愛する存在が愛される事を……その恩を恩人へと返す日を。
彼の失くしたものをその手に──元の場所へと届けたいと。
それを『表現』し続けてきたのだ。
共に歩きながら、彼が落としたものを代わりに、その全部を拾ってきたのだ……。
──『捨てる神あれば拾う神あり』。
……『精霊達』も、言わば『ロムの子』だとも言えるだろう。
彼らの多くは『世界の仕組み』の一つとして、生と死を何度も何度も繰り返すだけの存在だった。
それこそ『エフロム』と出会うまでは──『精霊達』は皆ほぼ『綿毛』状態でしかなかったほどに、弱く儚い存在ばかりだったのだ……。
『エフロム』以上に長生きできた『精霊』など当然の様に一人もいなくて……。
誰にも気づかれずにただただ消費され、消え去るしかなかった彼らに──生きる『力』と『表現』を──生まれた意味と楽しむ『心』を、与えてくれたのは『エフロム』だけだった。
『旦那には、どれだけ感謝したか……』
『大樹の森』にて、最初に出会った『四精霊』は、それを強く『心』に想う……。
今では『大精霊』や『精霊王』とも呼ばれる事すらある彼らは、ずっと『ロム』の傍にいた。
……それこそ、『エア』や『バウ』よりもずっと長い時間──。
『わたし達はこの時が来るのを、ずっと待ってたんだっ』
──『力』を得てからはもう、自分達の事よりもずっと『ロム』の事ばかりを考え続けた……。
「…………」
……ただ、共に『世界の仕組み』の一つであったが故に、なのだろうか。
過剰な反発などが起きないようにと、まるで『調整』でもされているかのように──
無意識的に『深い干渉』は出来なかったので……色々と出来ない事も多かっただろう。
『役割』を超えた行為や無理をすれば、自分達の存在が消えてしまう恐れもあったから──
返したくてもそれを成し得るだけの『力』を具えるまでは、我慢する以外に『道』はなかった……。
『ロム』と親しくなっても、当然の様に彼からは『名』なども与えては貰えなかったが……それも仕方がないと。
目的を叶えられるのならば、それでも全然構わないと──。
「…………」
──しかし、同様の『世界の仕組み』でありながらも、最初にその『役割』を超え、『精霊達』に過剰に干渉し、『力』を与えてくれたのが『エフロム』だった。
無論、その代わりに『ロム』が最初に大きな被害を受けたのも道理ではあっただろう。
無理をしたせいで色々なものを──『表現する力』をも失ったのは今更言うまでもない。
『精霊達』の声なき慟哭に気づき、それを救おうと手に入れた『力』を用いて、彼らに『笑う』事を最初に教えてくれたのだ。
──その『教え』を受けたことは、果たして良かったのだろうか。それとも良くなかったのだろうか。
無知なままで居れば、それこそ『悲しみ』を知る事も無かったのかもしれない……。
だが、無知なままで居れば、その『楽しみ』を知る事も無かったのだ……。
何とも判断に惑う話ではある。
「…………」
……ただ、少なくとも『エフロム』はそれを素晴らしいものだと、美しいものだと、『精霊達』にも知って欲しいと思ったのだろう。
無論、そのせいで自分がどうなるかだなんて、全くお構いなしだ。
『君達にそれを伝えたくて、笑ってほしくて、歩き出したから……』と。
ただただ『喜び』を分け合いたかっただけなのかもしれないが……。
『ロム』としては『大したことではない』と──『人』であれば、普通に手にできるものを、彼らにも『表現して欲しかっただけ』なのだと、そう言いながら彼らに『力』を分け与えたのである。
『……でも、わたしたちは、『人』じゃない』
しかし、その『力』と『心』を知るまで──『精霊達』は困惑もしただろう。
『ロム』の考えは、『精霊達』にとっては受け入れにくい『視点』であったことは否めない。
寧ろ、『余計な事をしてくれるな』と、そんな反発も内心あったのかもしれない。
『人』と同じに考えるなと、我々は『精霊』なんだぞと。
──だがしかし、そんな『考え方』も、『ロム』の一言で真っ新に──『白銀』へと染まったのだ。
『……?『人』と言うのは、ただただ『支え合う者』の意味だと思っていたが……違うのか?』と。
彼は『不器用』だった……。でも、だからこそ、その純粋さはより『心』にも響いたのだろう。
そこにどんな『教え』があり、どんな『視点』があるのかはそれぞれの見方によって異なるもの。
……だが、そのたった一言で、『精霊達』の『心』は『人』へと染まってしまった。
彼を愛してしまったのだ。
認識が『変化』し、『人』への捉え方も変わった。見え方がすっかりと改まったとも言えるだろう。
そして、沢山のものを与えてくれたその『人』に……『自分達も返せるようになりたい』と、『支え合いたい』とそう願ったのだ。
『……あなたが見てきたものはほぼ全て、わたし達も一緒に見てきました。だから、いつかあなたがそれを欲した時に、それを『受け取るに足るだけの器』が揃った時に、直ぐにお返しができるようになりたいと、わたし達はこれまで歩んできたんです──この愛を、この恩を、この『力』を、あなたと分け合う為に……ずっと待ち続けてきたんです──』と。
──もしかしたら、戻ろうと思えばいつだって、『ロム』は元の姿には戻れたかもしれない。
……だがしかし、『精霊達』は安易にそれを望むことはしなかった。
『表現』とは、その『道』を理解するだけの具えが無ければ、完全に伝わらないものでもあるから──
『エア』の知る『ロム』の最初の姿と、『精霊達』の知る『ロム』の原初の姿にも異なりがあるのだ。
だからこそ、『精霊達』はこれまで辛抱強くも待ち続けてきたのだろう。
『自然が在るべき姿』を、『原初の姿』を、取り戻せるように──そうなるまで『成長を促そう』と。
「…………」
それはまるで『木を育む』様な感覚だったと言えるのかもしれない……。
ただ、当然の様にそれを成すなら『精霊達』の右に出る者はおらず──
もっと言えば、ここだけの話……『ロム』を元に戻すのだとしたら『それはわたし達が『最初の存在』になりたい』という強い自負も密かに持っていたのだろう……。
──だからこそ『四精霊』は、培った『力』を用いて密かに行動を開始した。
『綿毛』を抱き締めている『エア』にも気づかれないように、少しずつ『力』を分け与え、原初の『ロム』へと戻れるようにと私を助け、支え続けてくれたのである……。
無論それは、それを成し得るだけの『道』を歩いてきたと言う事の証明でもあった。
ただ、数十年とかかる筈だったのその『再調整』は、彼らのおかげで思ったよりも早くに目処が立ち──結果として私は、とある日の朝焼けと共に、さも自然な装いで『ロム』の姿へと戻る事が出来たのである……。
「…………」
「…………」
当然その際には、精一杯の『表現』という訳でもなかったのだが……。
ほんの一瞬だけ『まやかし』を用いると、それで『エア』を少しだけ眠りの状態へと落とし──
彼女の瞼が次に開く時には、まるで夢から醒めたかのように、私は『綿毛』から『大人のロムの姿』へと戻っていたのである。
そして、目と目が合った彼女に向けて、未だちょっとだけ不器用ではあるものの……私は『にこり』と自然な笑みを浮かべると、初めて彼女に向かって『普通の笑顔』を『表現』する事が出来たのだった──。
「……エア、私は──んっ!?」
ただ、そうして彼女を喜ばせようと思い、色々と『表現』を考えていた訳なのだが──
どうやら私の『表現』は、彼女の『表現』には遠く及ばなかったらしく……。
その後はずっと『白銀のエア』の気が済むまで、私は『がうがう』され続ける事になるのであった──。
またのお越しをお待ちしております。




