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鬼と歩む追憶の道。  作者: テテココ
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第771話 無抵抗。

注意・この作品はフィクションです。実在の人物や団体、事象などとは関係ありません。

また作中の登場人物達の価値観なども同様ですのでご了承ください。



「ばうっ!」



 白い糸目の、流麗かつ力強さを感じさせる青年のドラゴン──『バウ』の腕に私は抱かれていた。


 そして、私を抱えたバウは『──なっ!?ま、待ってっ!バウっ!!』という、そんなエアの声も置き去りにして……一息で『第五の大樹の森』よりも更に高空へと飛び上がっていったのだ。



「…………」


 

 その『天翼』は、一切の衝撃を私達に与える事もなかった。

 ……たったそれだけで、『バウ』にはこれまで目にしてきた他のどんなドラゴン達よりも素晴らしい『才能』が具わっているのだと私は直感する。



 間違いなくそれは『聖竜()』のポンコツ気味な『翼』とは異なり、正真正銘の『羽搏き』なのだと、そう感じさせる『力』があったのだ……。



 大きな身体を完全に支え、魔力を通じて十全に周囲へと己の意思を『表現』する姿──。


 『ぱたぱた』と羽を動かす度に、上下左右にぶれる事も無く、余計な埃を舞わせることもなく、常に滑らかに空を渡っていく光景……。


 その静と動、動作の一つ一つが洗練された美しさがあって……。


 ただただ見事としか言いようがなかった。



「ばう……」



 ……だが、そうして私を腕に抱えながら見事に飛び続けるバウは、少しだけ気弱な一面も垣間見えており──飛び続けていたら頭も冷えてきたのか、先ほどまで力強く『白銀のエア』と言い合いをしていた姿はすっかりと鳴りを潜めていたのである。



 寧ろ、己の『理想』を押し通し続ける事の傲慢さや、それに伴う衝動的な行動を反省し後悔し始めていたのだろうか……。


 それとも、大好きな『エア』から『ロム』を奪い去って、今後どんな顔をすればいいのかと迷っている様な心境なのだろうか……。



 少なくとも、バウからは『思わず飛び出してきてしまったけど、この後どうしようかなぁ……』と、そんな思いが雰囲気からひしひしと伝わってきたのだった。



「……ぱう」


「ばう?」


「……ぱう、ぱう」


「ばうばうっ」



 ……なので、私はそんなバウに『……大丈夫だよ』と一声かけてみたのである。


 もしかしたら、今頃はエアの方も『少し熱くなり過ぎたかなぁ……』と、反省しているかもしれないと、そう思ったから……。



 すると、意外とそんな私の言葉は直ぐに届いたようで──バウも頭を切り替えたのか、そんな返事を返してきたのである。


 ……寧ろ、『ロム()と二人だけの状況は珍しいから』と思ったのか、今だからできる事を優先して考える事にしたらしい。



 まあ、とは言っても。現状、私達はとんでもない速度で飛行している最中なので、出来る事と言っても限られている訳なのだが──。



「……ば、ばうっ?」



 『こっちは最近こんな事があったんだよ。そっちはその間、どんな旅をしてきたの?』と。



 ──そんな状態でも関わらずに、バウはなんとも言えない不器用さで『世間話』を話しかけてきたのである。



「……ぱう」



 無論、それを一言で『表現』するならば、近況を報告し合うだけの他愛もない話に思えただろう。


 ……だがしかし、『既視感』が私にそうさせたのだろうか──不思議とその時間は、私の胸を熱くさせるものだったのだ。



 そして『聖竜()』の声を聴いているだけでそうなってしまうのか、次第にバウの方も『ニコニコ』と、嬉しそうに微笑むものだから……これまた何とも言えない気持ちになってしまうのである。



「…………」



 ……うむ。その気持ちを、なんと言ったらいいのだろう。


 一言で『表現』するのだとしたら、『父性』とも言える感覚に近しいのだろうか?


 ……正直、むずかしかった。



 現状の『聖竜()』が、以前までの『ロム』とは微妙に異なる『視点』を持つからだろうか。


 今の私は幼竜の姿だけれども、『バウの視点』からすれば『ロム()』と接している感覚そのままだったと言う事も相まって……自然と私もそれに影響を受けたと思う。



 ──要は、『ドラゴンの親』に向ける純粋な『バウの想い』が、私の『心』へと真っすぐに響いてきたのだと……。




「…………」



 無論、それが『不快』だなんて気持ちに、微塵もならなかった。


 寧ろ、この『心』は少しだけくすぐったくて、それでいてあたたかくて……自然と『ホッ』としてしまうみたいな──。


 『エア』に向ける想いにもどこか似ていて、それでいて少しだけむず痒い様な感覚が私達の間では自然と形成されており、それがとても『心地良く』も感じたのである。



 ……正直、その時間は何とも言えない『楽しさ』に包まれている感覚だった。



「…………」



 『既視感』──『ロム』は……その想いに気づけただろうか?


 『空っぽ』になった『聖竜()』の『視点』では──『エア』以外にも、こんなにも『素晴らしい想い』や、こんなにも素敵な『色や響き』が潜んでいた事に気づけたのである……。



 ──いや、もっと正確に『表現』するのだとしたら、これまでもきっと『ロムの視点』でも気づけた想いは沢山あったのだろう。



 だがしかし、『エア以外』に対してはどこか希薄であった部分や、『大切な者達』という括りにはあっても、守って安心するばかりでしかなかった拙い『ロムの道』において、更にその()がある事を見つけた感覚でもあった。



 今までだったら、満足していた筈の気持ちにも行き先を見つけたとも言える。


 『大切な者達』の『視点』の中にも、こうしてまた複雑な『心模様』がある事を知ったのだ。



「…………」



 ……うむむ。また何とも小難しい話になってしまうが──


 『ロムは人の気持ちが分からなかったんだから、そんな事は知らなくても仕方がないんだ』と。


 『既視感』が告げてくるそんな想いに対して……『答え』となる『表現』を得た感覚、とでも言えばいいのだろうか。



 今までは視界に入っていたのかもしれないが、ちゃんと理解していなかった『別の視点』にも気づけるようになった。



 以前までの『ロム』であれば、それこそ『差異』を正確に『表現する』だけの『力』もなかっただろう。


 それが今『聖竜()』は、その『表現』の仕方をもっと身近に感じ始めたのだと。



「…………」



 それを思えば、改めて『ロム』の『心』が今までどれだけ酷く、吃驚するほどに(つたな)かったのかもわかるという話だが……。



 言葉で幾ら言い繕うとも……『道』を知らぬ者では、『表現』が上手く出来ないのと近しく──。


 きっと、『ロム』はエア以外の『表現』をちゃんと受け取める事──他の誰かの『理解者』になる事ができていなかったのだと思ったのだ。



 ──もっと言えば、近しい筈の『バウ』に対してすら、それが『家族』に向けている愛情なのか、『父親』個人に向けている愛情なのか、その二つの微妙な『差異』にも気づけていなかったのだと思う。



 そして、それらの『歪』の中には、向き合い方でまた『別の色合いや響き』が潜んでいる事もまた知らずにいたのだろうと……。



 だから正直『バウ』の事を、ちゃんと自らの『子』だと、認識できていたのかも怪しい部分があったのではないだろうかと。



「…………」



 ……ただ結果的に私は、そんな『想い』を今知れた事、気づけた事を『本当に良かった』と感じてもいたのだ。


 これまで生きてきて、『ロム』はどれだけのものを見過ごしてきたのだろうかとも思ったが──。


 『今が、どれだけ大切な『道』に接している状態なのか……』と。


 そんな現状に気づけた事、感じ取れた事の方を今は尊びたいと、そう思った。



 きっと、以前までの『ロム』のままだったならば、『大切な家族』にはなれても、『父』にはなれないままだっただろうから──。



 それを願う『バウの想い』に、今ならば『聖竜()』が、ちゃんと受け止めてあげる事もできるだろうと感じられたのだ……。



「…………」



 だから、その感覚に包まれた私は、自然とバウに抱かれた状態で、彼の腕を『ぎゅっ』と掴み続けていた……。




またのお越しをお待ちしております。

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