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鬼と歩む追憶の道。  作者: テテココ
760/790

第760話 不均衡。

注意・この作品はフィクションです。実在の人物や団体、事象などとは関係ありません。

また作中の登場人物達の価値観なども同様ですのでご了承ください。



「ロム、包んでくれてありがとっ──でも、心配はし過ぎないでね。わたしは大丈夫だから。ロムが戻ってきたら、その時いっぱい抱きしめてっ」



 『翼』の隙間からぴょこりと顔を出すと、エアは少しだけ照れながらもそう言ってきた。

 そんな彼女の様子は、なんとも微笑ましい。



「…………」



 『成長』するにつれ、エアの想いも複雑になった。

 より一層、深まったとも言えるのだろう。


 ただ勿論、相対的にその『切なさ』も、それだけ大きくなったと言う事である……。

 もう私の『翼』で包むだけでは簡単に癒せないらしい。



 だが、エアとしてはもう『大人しく待っているだけでは、望んだ未来は手に入らないから……』と、前向き切り替えて進もうとしている様も視えた。『ダンジョン都市』を訪れたことで、また新たに気合を入れ直した雰囲気である。



 ……もしかしたら『自分が何を求めていたのか』について、エアも見えなくなっていた部分があったのかもしれない。それをちゃんと再認識できた様子であった。



「…………」



 そして、『水竜ちゃん』と『風竜くん』が結果的に仲を深めた事も、ある意味では自分の素直な感情にも気づくきっかけとなっただろう……。


 単純に『切ない気持ち』が我慢できなくなっただけとも言えるが、その事を知らず知らずのうちに溜め込まず、自分で気づけたのはとても大きいのだ。



 まあ、他にも色々と思うところはあっただろうが──『風竜くんの母親』やその背後に居るであろう『黒幕』たる存在を感じた事によって、彼女はこれまでの旅で得てきた経験を呼び起こし、改めて思考を更新させるに至った。



 それはまるで、一度覚えた事柄を何度も何度も復習し直す事によって、より深く『力』を認識し、記憶に定着させていく……そんな場面だった様にも思える。



 これまでずっと『ロム』の後を追い、その隣を歩き続けてきた彼女だったが、本当の意味で自分だけでもちゃんと『別の道』を定める事が出来る様になったのだと──。



「…………」



 まあ、それが結局のところ私達にとっての『良い未来』となるのか、はたまたその逆となるのかはまだ誰にもわからない。


 ……だが、少なくともエアのその変化を『ロム』としては喜ばしく思ってはいそうだった。

 『既視感』からはそんな残滓を感じた気がする。



 でも、正直『聖竜()』としては、エアが『何かを一つ失った』様にも思えてしまい、微妙に寂しく感じる部分もあったのだ……。



「…………」



 ……と言うのも、こういう事を繰り返していると、色々と『気づく』事も多いのだろうが、反対に『心』が『失う』事に慣れてしまうのではないかと、私はそちらの方を危惧してしまうのである。



 もっと言うならば、悲しい出来事がこうも続くと、段々と『心』が擦り切れて揺れ動かなってしまうのではないかと。



 それはある意味、経験を重ねて大人になり、『成熟した証だ』とも言えるものなのかもしれないが──別の視点からすれば『感覚が麻痺してしまった』とも言えるからである……。



「…………」



 両者は『似て非なるもの』だと思いたいが、そこに生じる『心』の様相はとても近しいものに思えてならなかった。



 ……厳密に言えば、その危惧とは悲しい経験に慣れ過ぎる事で生まれる弊害であり──


 経験を重ね、段々と『心』が揺れ動かなくなり、その分だけ『心』は悲しい感情にも慣れて強くなるのかもしれないが……それは次第に『感情の抑制』に繋がってしまうのではないかと懸念してしまうのである。



 つまりはそうなってしまうと、エアも感情が抑制される事になり、次第に『笑いたくても笑えない状態』になってしまうのではないかと、そんな心配をしてしまうのだ。



 ……もっと言えば『泣きたい時に、泣けなくなってしまう』事もあり得るのではないかと。

 だから、もしもエアがそうなってしまったらと思うだけで私は、『心』の底から心配になった。



 『ロム()』のようにはなって欲しくないのだと……。



「…………」



 『心』の中でしか泣けない辛さは、意外と陥った者でしかわからない『切なさ』があるから……。


 『聖竜()』としては、エアに『失う』事に慣れて欲しくないと思うのである。


 彼女にはいつも笑っていて欲しいし、もう泣かないでいて欲しいと想うから……。



 ──その『成長』を喜ぶべきか悲しむべきなのか……私は密かにその是非を己の『心』に問いかけ続けるのであった。





またのお越しをお待ちしております。

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