第745話 風吹。
注意・この作品はフィクションです。実在の人物や団体、事象などとは関係ありません。
また作中の登場人物達の価値観なども同様ですのでご了承ください。
『風竜くんの母親』に会う為、私達は『ダンジョン都市』へと訪れていた。
『…………』
……ただ、その『街』に入って直ぐの目立つ場所に『あの絵』があった事と、それに相まってとある存在の視線を感じ──視線に気づいたエアが涙を零した事は私達にとって想定外ではあった。
それ故、エアがぐすぐすと泣いた状態のままのんびりと『街』を歩き回ったり、『お母さん探し』を続ける事は躊躇われたので、私達はとりあえず『宿』へと向かう事にしたのである。
『ごめんねみんな。でもまさか、彼とこんな『偶然』な再会ができるだなんて思わなくて……』と。
そう言ってエア自身も、思わぬ知人との再会に驚きと喜び、そしてその最後の時を目にした哀しみで未だ落ち着かない様子である。……その腕の中ではむぎゅっと何かが潰れる『音』もしていた。
そして、そんなエアの後ろからはチョコチョコと『風竜くん』と『水竜ちゃん』が『街』をキョロキョロとしつつも大人しく付いてきている。……『風竜くん』はどこか懐かし気に、『水竜ちゃん』はいつも通り楽し気な様子だ。
ただ、そんな私達の様子はある意味で周りから見ると『竜使い』としての姿が板についてきたとも言えるのかもしれないが……どことなく『歪』である事はいうまでもないだろう。
……何故なら、こんな普通に歩いている状態は『他の街』では本来有り得なかった事だから。
この『街』は入ろうとする時から一切止められる気配も無く──それだけを考慮しても『聖竜』は、『他の街』とこの『ダンジョン都市』との空気感の差を顕著に感じていたのだった……。
『…………』
……そもそも、この『ダンジョン都市』に暮らす者達には『ドラゴン』に対する『恐れ』が殆ど瞳に無い様にも思えた。
無論、それは『他の街』にあった油断等とは異なるものだと感じている。
これまで『他の街』でも私達に対して友好的だった場所はあるにはあったが、その瞳の中には常に『警戒』の色がどこかしらにあった様にも思うのだ。
その点、この『ダンジョン都市』においてはその様な過度な『警戒』が少なく感じた……。もっと言えば、『ドラゴンが街に居ても不思議なじゃない』というくらいには自然な様子であったのである。
『目は口程に物を言う』という言葉もあるらしいが、実際『口以上に素直な思いを発し易い』のが瞳だと私も個人的には思う。……なので、きっとそれは気のせいの類でもないだろうと。
彼らには『ドラゴン』と言う一つの種族を受け入れるだけの『器』が整っているとも感じた。
──要は、『ドラゴン』に対する対処方法は完璧であり、心配はなにもないのだと……まるでそう語るかのような雰囲気であったと。
『…………』
無論、その雰囲気に至るまでの背景には『天動派』の介入があったからだろうとは思っている。
『風竜くんの母親』がこの『街』に関わっているという事は、ある意味で『ドラゴン』に対して何が一番効果的なのかを知っているという話でもあると。
つまりは、『人の街』で潜伏する事を選んだ彼らは、『人』よりも『ドラゴン』という脅威に対して警戒している訳で……既にその為の『策』もこの『ダンジョン都市』で講じているという話でもあった。
「……ぱう?」
「がゆっ、がゆっ」
……ただ、それはある意味で『人』に対しては不利を背負うという話でもあり、『自らの首を自らで絞めている様なものではないのか?』とも私は思ってしまった。
『人』が敵になる可能性は考慮しているのだろうかとも。
だが、そんな私の疑問に対して『風竜くん』は一言でこんな『答え』を返してくれたのである。
でも正直、それは私に深い驚きを感じさせるものではあった……。
『…………』
……と言うのも、『風竜くん』は私にこう言ったのだ。
『僕のお母さんは今、『ダンジョン』になっているから平気だよ』と……。
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