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鬼と歩む追憶の道。  作者: テテココ
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第734話 風霜。

注意・この作品はフィクションです。実在の人物や団体、事象などとは関係ありません。

また作中の登場人物達の価値観なども同様ですのでご了承ください。





 『水竜の子』の気持ちも加味して、『風竜』の提案であった『番の約束』には断りを告げた。


 するとその思惑が叶わなかった事で、若者(『風竜』)は肩を落としている様に見える。



 ……無論、彼という存在が『天動派』という集団の中でどれだけの立ち位置にあるのかを私達は知らない。

 だが、『派閥』の命運を握るに等しいその選択を彼の裁量によって判断できている時点で、かなり高位の者なのではないかとは思った。



 そもそも現状『宿』の一階部分──酒場の様な様式の店内にて、半分以上は『人』の客が混じっている中でも普通に己が『ドラゴン』だという話を誤魔化しながらもできている時点で、かなり『魔法』の扱いに長けた者である事は確かであった。



 ……正直、私達は何もしていない。彼は一人で己の姿を『まやかし』、周囲にも話が聞かれない様に魔法(風)を使い、異変を気づかれない様に不信感を持たれない様にと上手に対処しつつ過ごしていたのである。



 『…………』



 ……正直、彼が元の姿へと戻れば、先日『街』を襲撃する為にやってきた『水竜達』ぐらいであれば一人で撃退できるくらいの『力』はあるのではないかと、その様子から私は察していた。



 恐らくだが、もしそれぞれの『ドラゴンの派閥』を『国』などに見立てるのであれば──言わば彼は『王の系譜』に属するのではないかと。



 まあ、『族長一家の代表者』と言ってもいいかもしれないが……どちらにしても、数の少ない今の『天動派』においては、最も大事な後継者とも言える存在(『風竜の子』)の番相手を求めて来たというのであれば、その本気具合はお察しではある。




 ……ただ、そんな自分達の立ち位置を、恐らく彼は口にする事は無いだろう。

 何故なら、『人』には容易に通じたかもしれないその『権力』など、『聖竜()』や『白銀のエア』には一切通じないであろう事は言うまでもないからだ……。



 そもそも、通じる相手であれば『街』に向かって冗談でも『ブレス』など向けないだろうと。



 『…………』



 ……時に、『人』は勘違いし易くもあると思うが、『力』など使い方を誤れば何でも『痛い目』を見るのである。


 それが例えば『権力』であろうと、『財力』であろうと、『暴力』であろうと変わらない。



 通じる相手には通じるが、通じない相手には全く通じないのが『力』の本質である。



 それを目の前の若者はちゃんと理解できていたのだ。

 自らが例え『王』であってもそれは自らの『国』と『派閥』の中だけの話なのだと。

 余所へと一歩外に出れば、それはただの『人』であり、ただの『ドラゴン』に過ぎないのだと。



 だから、相手に一番効く『力』を選んでから戦わなければいけないと……。



「…………」



 実際、一見して肩を落としている様に視えるけれども、未だ彼の眼は完全には沈んでいなかった。

 ……元より、その本心の一部には『竜使い』がどれほどの『力』を有するかによって対応を変える気もあったのだろう。



 少なくとも、後ろに騎士を侍らしているような存在が、常日頃から腰の低い態度で平身低頭のまま生きているだろうか……。いいや、まさか。そんな雰囲気は微塵も感じない。



 寧ろ、彼の纏う『まやかし』の風は偽りに満ちていた。

 『人』の中で生きる為に培ったその技術は、ある意味で『人』から学んだ処世術そのものにも思える。



 ……言わば、彼は良い意味でも悪い意味でも『人』のふりが上手過ぎたのだ。

 だからある意味では予想も容易く、もしも私達に『勝てる』と判断していればその時は間違いなく力尽くで奪い、従わせようとしてきただろうと。



 その為先の発言も相まってか、彼個人に対する私達の印象はあまり良くないと言うのが正直な所であった……。



 『…………』



 ……だが、彼が今、目の前に正真正銘の『化け物』の存在を感じたままでも、何かを考えこんでいるその姿勢だけは私も好意的に捉えている。



 と言うのも『聖竜』という存在がこれほどまでに規格外だとは夢にも思わなかったのだろうと。


 あれを『ドラゴン』と呼んでいいのか?……いや、あれはそんな生易しい存在ではないだろうと。



 ただ正体は分からないけれども、ここで良好な関係を築けなければ敵に回った時にはもっと厄介だろうと。

 あんな存在がこの世に居るならば……自分達は『人』の中で大人しく過ごす事さえも難しくなるかもしれないからと。



 『水流派』はいったい何に手を出したのか……理解できてなかったのだろうと。



 『……ただ、そこにどんな理由があろうと諦める訳にはいかない。『派閥』為、仲間の為、家族の為にはどうにかしなければいけないんだ』と──。



 そんな『強い葛藤』が彼からは感じられたのである……。



 『…………』



 目の前にいる若者(『風竜』)からは、そんな色々な事を頭の中で巡らせている様子が窺えた。


 『派閥』の為にはどうすればいいのかと。せめて対策だけは講じておきたいんだと。


 『何かがあってからでは遅いから、その前に出来るだけのことをしなければ』と。


 彼からは重荷を背負う者特有の引けない覚悟と諦めない『心』を私は感じたのだ。



 ……そして、不思議とそんな者を私は嫌う事が出来なかった。



「がゆー!がゆっ!!」



 ──それに、肩を落としている『父親』の代わりに、『風竜の子』も一鳴きしている。



 『僕を一緒に連れて行ってくれ』と。

 『今日一目だけ会っただけで、僕の全てを決めつけないで欲しい』と。



 『家族の為』になるならば……『派閥』の為に使われる『道具』であってもいいと。

 いっそ、貴方達にとって都合のいい『人質』に近しい扱いだってかまわないと。


 

 僕はそんな生き方の中に、ちゃんと掛け替えのない意味を見出すからと。

 『押し付けられた考え方』の中でも、『自分らしさ』を忘れないからと。


 変え様のない生き方に見えたって、考え方次第でどうにだってできるんだと……。



 『…………』



 子供が何もわからないだけの存在だと思い、侮ってしまう事はなかっただろうか……。

 幼いから、未熟で何もできない愚かな存在だと、そんな勘違いをした事はないだろうか……。



 ──ほら、よく見て欲しい。


 時に、『子』は『大人』などよりも遥かに『世界』がよく見えているのだと。


 私はそんな『風竜の子』の姿に、また新たな気づきを得た気分になった──。





またのお越しをお待ちしております。

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