第713話 残響。
エアの気が済むまで私が『むぎゅっ』とされ続けた後──
『嘆き(ムカムカ)』が収まった頃合いにまた翼で包みこんで、エアと一緒に『水竜の子』が待つ宿屋へと私は戻ってきたのだった……。
「きゅー?」
……するとそこには、戻ってきた私達の間にいつの間にやら『水竜の子』が潜り込んでいたようで──ゴロンと仰向けになったまま嬉しそうに首を傾げている可愛らしい姿が目に入ったのである。
『意識状態』として活動している間は比較的こちらと向こうで『体感時間に差が生まれ易い』状態でもある為……向こうで色々とやってはいたけれども、あまり待たせてはいないだろうなとは思ったのだが──なんとも予想外の場所で待っていてくれたらしい。
ただ、そもそも『水竜の子』からしてみれば、私とエアがいきなり二人だけで翼に包まってしまったので、単純に自分もその仲間に入りたかっただけなのかもしれない。
『何してるのー?』と問いかけてくるその表情は、『興味津々』という色で染まって見えた……。
「……ふふっ、こちょこちょこちょー」
「きゅっ!きゅっ!」
……すると、そんな『水竜の子』の仕草は『嘆き(ムカムカ)』で荒みかけていたエアにとって、今一番の癒しとなってくれたらしく──仰向けになっている油断しきった『水竜の子』のお腹を、エアは微笑みながら『むにむにわしゃわしゃー』と勢いよく撫で回しだしたのだった。
そして『水竜の子』もそれが大変嬉しかった様子で、ジタバタと手足を動かしながらもケタケタと笑っているのである。
『聖竜』の翼の中に包まれたまま、そうして戯れている二人の姿を見ていると──こう、なんともいえない感覚を覚えた……。
『…………』
……無論、それは私もエアにお腹を『むにむに』されたいだとか、『わしゃわしゃ』されるのが気持ち良さそうだなんて──別にそんな事を思った訳ではないし、羨ましいとも思っていない。(ほんのちょっとだけである。)
ただ、正直それよりも『ほっこり』とする気持ちの方が強かったと思うのだ。
『なんかいいなぁ』と、『いつまでも見ていられるなぁ』と、そんな事を思っていた。
それに『何か』が『心』の中に溢れてくるようで、満たされていく感覚もあったのだ……。
そして、それはきっと『幸せな瞬間』と言うものなのだろうと……。
満ちてきたのは恐らく『魔力』ではない筈だ──ないよな?うむ、きっとそうに違いない。
『…………』
「……ん?」
「きゅう?」
──因みに、『ほっこり』とした私がさも自然と『水竜の子』の隣りに仰向けで並ぶと、先ほどまでわちゃわちゃしていた筈の二人が途端にとても不思議そうな視線で私の事を見つめてきたのだった……。だが、べ、別に他意はないのである……。
「……ふふふっ、そーれっ!ロムもくすぐっちゃうぞーっ!」
「きゅー!」
……ただ、そうすると二人は何かを察してくれたらしく──今度は一緒になって私の事まで撫でまわそうと二人で襲い掛かってきたのである……。
そして、そこから先は当然の様に三人で代わる代わるくすぐり合う様な展開になり──
ベッドの上でいつまでもゴロゴロと戯れては、それこそ『水竜の子』が疲れて眠くなるまでそれは続いたのであった……。
無論、『水竜の子』が眠くなってくると、今度はまたエアが『わたしのお腹を枕にして欲しい!』と強く言うのでその通りにし──。
『明日こそはお目当ての可愛い籠を買いに行こうね』だとか……。
『悪い人に連れ去られないように個人行動は控えるんだよ』だとか……。
──そんな優しいエアの声音は『水竜の子』にとってはこれ以上ない子守唄となった様で、数分もかからず夢の中へと旅立っていき……私達はそんな様子を微笑ましくも見守り続けたのであった。
『…………』
ただそうして、夢の中へと旅立った『水竜の子』の安心した表情をエアと二人で眺めていると──
ふとした時に、微笑ましそうなエアがこんな呟きを漏らしたのを私はちゃんと聴き逃さなかったのだ……。
『──『幸せ』になるのに、『特別な力』なんて必要ないんだよね……』と。
……その言葉は、妙に私の『心』に響き続け、いつまでも残り続けたのである──。
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