第695話 酣。
皆さま良いお年を──。
街に入ろうとして直ぐ、私はまた普通にドラゴンである事を気づかれてしまった訳なのだが──
どうやら既に『白銀の竜使い』の情報はギルド経由でこちらの街にも伝わっていたらしく、ここではそこまで騒がれることもなく私達は街に入る事が出来たのだった。
『…………』
無論、以前と同様にいくつかの『約束』をした上で、宿屋もまた指定されるという条件ではあったが、今回の宿屋の方が更に一回りは大きな部屋へと泊まれることにもなり、『水竜の子』はベッドの上をゴロゴロと転がっては『きゅー!きゅー!』と嬉しそうに笑っているのである。……どうやらそれだけでも凄く楽しそうだ。
「何か面白い出店があればいいねー!色々と見回ってみる予定だから、気になったのがあったらなんでも言ってねっ」
「きゅー!」
「えっ?うそ、水竜ちゃんも『あれ』が欲しいの?うーーん、たぶん、あるとは思うけど……こんなお祭りの日は逆に探すの大変そう。でもっ、逆に探す楽しみがあるかっ!──よし、あとで歩き回ろうっ!」
「きゅっ!」
『…………』
それも、どうやらこの日は偶々何らかのお祭りが行われていたようで、特別に出歩ける範囲も緩めであった。
なので、私達もこの後宿屋を抜け出して、お祭りの雰囲気をちょっとだけ味わっちゃおうという計画を今エアと『水竜の子』は立てているらしい。
……因みに、『水竜の子』が欲しがっている『あれ』というのは、私が未だ大事に持ち歩いている『籠』の事であった。うむうむ。あるあるな話かもしれないが、誰かが持ってると、妙にそれが急に良く見えて欲しくなってしまう現象なのだと思うのだ。気持ちは分からなくはない。
だが、『水竜の子』はその『籠』をいったい何に使いたいのだろうか──特に使い道が思い浮かんでないのだとしたら、とりあえずは彼女専用の『ご飯の器代わり』にはなると思うが……。
ただまあ、なんにしても彼女の気に入る『良き籠』が見つかれば良いなとは私も思うのだった。
『…………』
……無論、『ドラゴンがいる!』という事で、街の者達と余計な騒ぎを起こすようなら直ぐにでも宿屋に引き返さねばならないという話にもなっているので……実際は、あまり出歩ける時間はそこまで長くないと思うし、時間との勝負にもなるだろう。
短時間でいかに良い探索が出来るかの腕にかかっていると思った。
……正直、私の予想では『ほぼほぼ騒ぎになるだろう。ならない筈がない』という予感があるので、そこまで期待はしていなかったのだ。
実際、ちょっとだけお散歩するだけで終わってしまうかも、と懸念はしている……。
「可愛い柄のがあればいいねーっ」
「きゅっきゅっ」
「あー、服屋さんとかがある辺りの小物や雑貨品が並んでいるお店が狙い目かな?」
「きゅー、きゅ?」
「えっ、『魔法道具』が売ってあるお店かぁ。なるほどっ。ありだね、ありっ」
「きゅー!」
『…………』
……だが、楽しい時間と言うのはそもそもとして計画段階から楽しいものだったりする訳で──。
ベッドの上で一緒にゴロゴロしながら、そんな話をしている『白銀のエア』と『水竜の子』は既に十分満喫していそうな雰囲気であった。良い表情もしている。
『今を最大限に楽しむ』為には、『楽しい計画』を立てる事から始めるのが良いのかもしれないと、二人を見ていて私はそう感じたのだ。
……それと、見ていたら私もその仲間に入りたくなったので、サッと紛れ込んで一緒にゴロゴロしてみる事にもした。
「わぁー!ロムも来たぁー!」
「きゅー!きゅっ!!」
『…………』
……ただ、そうして気づけば半日以上を私達はそのまま宿屋でゴロゴロと過ごしてしまったのである。
なので結局お祭りにも行けず、計画していた『籠探し』も次の日に持ち越しになってしまった訳なのだが……『まあ、これはこれで楽しかったから良いか!』と、そう思うことにしたのであった。
いつも騒がしかったり、忙しかったりするばかりでは『ドラゴン』だって疲れてしまうから──。
偶にはこうして、ゴロゴロと出来る時には思う存分ゴロゴロして、そこに在る小さな『幸せ』を抱きしめ合うのも大切なのだと、深く感じる私達なのであった……。
またのお越しをお待ちしております。
(今年も皆さまお疲れ様でした!いつも本当にありがとうございます!この場を借りて簡単にですが一言だけ挨拶を──来年からも何卒宜しくお願い致します!ちと早いですが、明けましておめでとうございます!!)




