第680話 微細。
注意・この作品はフィクションです。実在の人物や団体、事象などとは関係ありません。
また作中の登場人物達の価値観なども同様ですのでご了承ください。
不愛想な顔つきではありながらも、エアはそれが微笑みだと分かる表情を『精霊達』へと器用にも向けていた。
「ふふっ、うん。ありがとっ。……でも、ごめんねみんな。ロムは今ちょっと──」
『……いや、大丈夫だ。エアちゃん。俺達『精霊』はちゃんとわかってるから。それに慣れてもいる。寧ろ、旦那は昔からこうなんだよ……きっともう癖なんだろうな。普段落ち着いて見えるけど、時たま身体が勝手に──衝動的に動いちまうん事があるんだって本人も言ってたしよ。そんな時はだいたいいつもこんな感じになる。……エアちゃんと一緒になってからは減ったけど、前はもう無茶な行動ばかりとってた。それこそ毎日『泥を這いずる』様な事ばかりをさ……』
『傷つくわたし達(『精霊達』)を守る為に作ってくれた『大樹の森』もねー。最初は、本当に何もなくて大変だったから……前に話したかもだけど、あの時も色々とあってねっ。今よりも『力』がない時だったから、いっぱい無茶してたなぁ……心配で心配で仕方なかったけど、見ている事だけしかできないわたし達はもっと『弱くて』、それに『契約に縛られて』もいて、何も助ける事が出来なくてさー。歯痒かったなぁ』
『……規模は違うけど、今回もたぶん一緒。だから、エアちゃんが居てくれてほんと良かった……』
『──ええ。ですから、わたし達はエアちゃんに感謝しかありません。と言うか、どちらかと言うとエアちゃんの気持ちがわたし達にはちょっと分かり過ぎてしまって、さぞ辛かっただろうなって……』
「……うん。でもわたしはもう平気だよっ!ロムは『どんな姿』になっても傍に居てくれるってわかったし。それにみんながこの状態のロムにも『慣れている』ってことは……その内ロムはこの状態からでも戻って来るって事だもんね?」
『……ああ。この人なら戻って来るだろ。それに昔から無意味な事もしない。全て必要だからやった事だと思う。それに旦那は『引き時』だけは特に見極めを間違ったことがないんだ。だから絶対に帰って来る。……帰って来る筈だ。記憶を失っても、何もかもを落っことしても、いくらボロボロになってもちゃんとまた『俺たちの傍に』さ』
『──でもさ、今回は正直、周りから見ていて少し危ない感じしなかった?』
『……うん』
『寧ろ、このお方はどうしてバウちゃんの姿になってるんでしょうね?それもまた不思議です』
「……まあ、ね。でも、それは可愛いからわたしは良いと思うなっ。『大樹の森』でバウにも会わせてあげたい気もするし──」
『──確かになっ』
『えー、きっとバウちゃん困ると思うっ』
『……みんなを並べて撫で回したい』
『新しく、この子(水竜の子)も一緒に連れて行かれるんですよね?『赤竜家族』とも仲良しになれればいいのですが……』
「バウが居るから、そこはたぶん大丈夫だと思うけど……赤竜ちゃん(バウのお嫁さん)は警戒しちゃうかな?この子(水竜の子)も女の子だし……」
『……ど、どうなんだろうな?』
『んー、ドラゴン達って基本的に別属性だとわたし達と一緒で住処そのものが違うからっ』
『……考え方も全然違う。それに彼らの『派閥問題』は色々と複雑だって聞いた事もある』
『んーでも、やっぱりバウちゃんが居れば、なんとか仲をとりもってくれそうではありますよね。あの子は本当に優しくていい子ですし。あの細目がなんとも愛くるしくてもうっ』
「元々バウは『地学竜』だしね。つーちゃん達『土の精霊』が一番バウの事甘やかしてくれてるのはわたしも知ってるよっ?時々みんなで寝ているバウの身体を密かにピッカピカになるまで磨いてたりもしてるでしょ?──」
『──な、なぜそれをっ!?』
「……えっ、いや、わかっててやってるんだとばかり……。かーくん達だって当然知って──」
『……知ってるな』『知ってるよっ!』『……既知』『……ま、まさかそんな、『土精霊の最重要極秘日課任務』がここまでバレバレになっているだなんて──』
「……あれ日課だったんだ。それは知らなかったな……」
『…………』
……とまあ、正直『聖竜』には一部彼らが何を話しているのか微妙に聞こえ難かった部分はあったけれども、エアと『精霊達』が仲良く話をしている事だけはよくわかったのだ。
なので、私はそれを眺めつつ、しばし地面にペタリと座って休憩を取り始めることにした。
……どうでもいい情報かもしれないが、『ぱたぱた』をしながら歩いていると微妙に身体のバランスを取るのが難しくて、普通に歩くよりも疲労度が大きくなるのだ。
だから、ちょっとだけこの隙に羽休め羽休め……。あと、ついでにお手入れも少々……。
『…………』
こういう『適度な休息』というのは、意外と日常生活の中では見落としがちな部類──時に軽視され考えられないことも多い──とは思うのだが、その実とても『意味のあるもの』、『重要なもの』だったりすると私は思うのである。
『一日の価値を高めたい』『無意味にしたくない』と思うのであれば尚更に、こういう『休憩時間をどう活かすか』も、深く追求してみるのもまあ、悪くはないだろうと……そんな事も翼の埃を払いながら考えてみた。
……とりあえず、休息効果を高める為には精神的と肉体的、あと翼の状態を考え──
「……きゅー?」
──おっと、そうそう。そういえば隣には『水竜の子』も居たのだった。
ちょうど食事時でもあったから『ご飯』を要求されているのだ。
……ほらほら、君は少し瘦せ過ぎだからちゃんとお食べ。
「きゅーっ」
……おっとと、『聖竜』は食べ物ではないので、食後に嘗めても味はしないだろう?嘗めないで欲しい。そうそう。おかわりならあるから。……ほら、こちらをどうぞ。
「きゅーっ!きゅーっ!」
そうかそうか。美味いか。それは良かった。
「──ロム。その子とずいぶん仲良しだね?……はいっ、良かったらわたしのも食べてねっ」
『──ッ!?』
「……きゅ、きゅー!」
……あれ?さっきまでずっと仲良く『精霊達』とお喋りしていた筈のエアが──いつの間にか私の背後から抱きついてきたので、すこしだけ吃驚したのだ。『水竜の子』もこれには思わず──ビクッとしていたから、たぶん気持ちは一緒だろう。
ただまあ、エアとしても『食事時だから来てくれた』だけで、『驚かすつもりはない』のだと感じる。
うむ。そうに違いない。『水竜の子』も、エアの作った『ご飯』を美味しそうに食べており嬉しそうだ……。本当に元気になって良かったと思う。
『……やっぱり、旦那なんだよなぁ』
『……竜になっても変わらないねっ』
『……滲み出てる』
『……でも、不思議ですよね。『あの方があの方で在る』という、ただそれだけのことがこんなにも嬉しいのですから──エアちゃんも、不愛想に見えてもあのやり取りが嬉しそうで、本当に良かった……』
……何気ない日常に意味を与える、ただそれだけでもう、そこには価値があるのだと──そんな言葉がどこからか聞こえた気がした。
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