表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
鬼と歩む追憶の道。  作者: テテココ
677/790

第677話 画策。

注意・この作品はフィクションです。実在の人物や団体、事象などとは関係ありません。

また作中の登場人物達の価値観なども同様ですのでご了承ください。




 『聖竜()』の目元は今、ウルウルしていた。


 ──ぽた、ぽた、ぽた、ぽた……と雫がひっそりと地面を濡らしていく。


 目元が熱くなった時にはもう、なんか自然とポロっと来てしまったのだ。


 でも、『ドラゴン』だって泣く事くらいあるだろう?……あるよね?


 ……だから、エアもそんなに驚かないでほしい。



「ロムがっ、泣いてっ!」



 不思議とエアは不愛想な表情のままで『あたふた』としていた。

 ……その姿はなんだかちょっとだけ面白くも感じる。


 でも、どうやら長らく一緒に居て『ロム』が涙を流す所なんて彼女も初めて見たらしい。

 だから吃驚してしまっているのだと。


 ……すまない。私も正直言って驚かしたくはなかったのだが……先ほどのエアではないけれども、この『心』を満たす感覚の方がどうにも止めどなくて、抑えきれなかったのである。



 『…………』



 恐らくは、もう私に『心』しか残ってないからだろうとは思う。

 ……言わば、今の私など『剥き出しの感情』とでも言える状態なので、直でエアの言葉とその思いが響いてしまったのである。



 本来であればそれをぐっと堪えたり、サッと拭ったり、涙が流れない様にと他の事を考えたり、何かしら覆い隠してくれる様な『心の手拭い』的なものが誰の『心』にでもあるとは思うのだが──今の『聖竜()』にはそんな都合のよいものなど残ってなかった。



 ……先ほどのエアよりも駄々洩れになってしまっている。



 ──ぽた、ぽた、ぽた、ぽた、ぽた、ぽた……。



 うむ、と、止まらないのだ。どうすれば止まるのだろう?


 今の『聖竜()』にあるのは、不器用にも飛ぶことができない翼だけで──

 『パタパタ』と、幾らはためかせても舞わせる事が出来るのは土埃だけだった……。



 『…………』



 ……その『羽ばたきの風圧』で止めるか?いやはや、なんとも頼りない話だ。


 だからと言って、気合で止めようと思っても簡単には止められる状態ではなく……正直言って、自分が何を言いたいのかさえもよくわからなくて、上手く感情を隠すことも難しかった。



 誰かの『心』どころか、己の『心』(感情)にすらも鈍感な愚か者だと笑ってくれて構わない。



 ……ただ、そんな私でもわかるのは、きっと私は『嬉しかった』のだと思うのだ。

 エアの言葉が、素直に嬉しかったのだ。それ位は分かったのである。



 『…………』



 ……それに、恐らくだが私は無意識に何かを焦ってもいたのだろう。


 そして、それはきっと『領域』としての役割に徹さなければと言う建前であり、彼女に『さよなら』を告げなければと思いながら、本当はそんなにも()く必要はないにも関わらず焦っていたことから……きっと私はこの場から早く逃げ出そうとしていたのだと。



 『……どうせまた失ってしまうなら』と考えていたのかもしれない。

 『そのあたたかみを知ってしまうと、私の方が離れ難くになってしまうから、より辛くなるから』と。

 『それならばいっそ、それを思い出す前に、さっさとまた孤独に戻ってしまった方が楽だから』と。



 ……だから、尚更にエアのその言葉が本当に良く効いた(・・・)のだった。


 『一人で背負うな』と……。


 あの『絵の二人』が、おんぶした状態で微笑み合っている姿が、私の頭を過っていったのである……。



 『…………』



 これは、言うまでもない話だが……『領域』としての時間はとても『詰まらないもの』だったのだ。


 『心』があれば尚更に、ただただ歯車の一部であるという感覚を抱えたまま作業に没頭し続けるのは苦痛でしかたなかった。



 とある瞬間から、もう破綻を感じずにはいられなくなる程に退屈で退屈で仕方ない時間の連続だったのである。



 いっそこの『心』すらも消費し、その歯車の一部に完全になりきれたらどんなに楽だろうと思う位に──。

 もう余計な事など何も考えられない様に、頭を取り換えたくなるほどに──。



 それほどまでに『詰まらない時間』だった。

 ……まあ、基本的に何かを『管理維持』する役割など、それに適した『性質』がなければそんなものなのかもしれないとも思う。

 ただ、少なくとも私にとってのそれは『苦手分野』だと自負するものではあった。



 だが、無論やらなければいけない事だと理解し、その責任を思うからこそ、それを中途半端で投げ出したりはしない。いや、『心』が震えて出来なかった。


 ……だが、それならばと逆に『領域』として不要であるもの──余計なもの──は全部捨て去ってしまおうかとも思っていたのだ。



 『…………』



 だがしかし、いざそうしようと思うと必ず、彼女の泣き顔が思い返されてしまった。


 『それだけはダメだ』と、『絶対に失くしちゃいけないものだ!』と、この『心』が震え引き止めてくるのである。



 『大切な者達』に向ける思い──特に、エアを『想う』その気持ちだけはどうしても残しておきたいと。


 『人』としても『化け物』としても、一番大事なものはもうそれしかないんだと。


 そう思った。


 ……まあ、もっと生々しい話をするならば、途中で何度も悩めるその『心』そのものを捨てきれたらどんなに楽だろうかと、そう思った事も嘘ではないのである。



 『心』こそ無駄であると。

 いっそ『完全なる化け物になってしまえばいいだろう!』と、そんな事も何度も考えたのだ。

 だが、結局はそんな誘惑を何度も繰り返して……そして、その度に何度も断ち切っていた。



 ……そうして、体感時間で何千年も私は『調整』をし続け、『孤独』であり続けたのである。

 ただひたすらに、その辛さを抱きながら『意識状態』で『世界』と『大樹の森』の『調整』と『管理維持』に集中し続けた。



 『…………』



 だから、先も言ったかもしれないが……正直、酷く疲れてしまってもいたのである。


 エアへと『さよなら』を告げて戻ったら、その時は今度こそ『領域』に徹するつもりだった……。


 ──それはつまるところ、今度こそ『心』を捨て去って、楽になりたかったのだ。



 やらなければいけない事と、やりたいことは別なのだと。

 そんな言い訳をし、常に一番いい最上の結果を追い求める事を諦めていた。


 ……私の足は止まりかけていたのだと思う。きっともう内心では冒険する事もなくなっていた。



 己が『領域』に徹する事で得られる『利』ばかりで覆い隠し、『心』そのものを誤魔化そうとしていたともいえる。


 私の『大事な者達』がそれで喜ぶのならと。

 彼らが幸せならばそれでいいじゃないかと。

 ……漠然とそう思ってしまったのだ。



 その『大事な者達』が具体的に誰なのかすらもほぼほぼ忘れてしまっていたくせに──。

 偶々目にした『絵』のおかげで、エアの事も思い出したくせにだ──。



 『…………』



 ……ただ、あの時、あそこで、あの『絵』を見て、もうひと目だけ彼女に、エアに間近で会いたくなった。

 その声を無性に聴きたくなった。聴かねばと思った。

 そして、最後に抱きしめたかった。……それから消え去りたかった。



 『大切な者達』が『笑っていられるなら』と。

 彼らが『幸せ』ならそれだけで充分だと。

 そんな言い訳を盾にし、なんとも身勝手な話だと自分でも思う……。


 だが、それこそがあの時の、私の密かな無意識的な本音だったのは言うまでもないのである。



 『…………』



 ──だがしかし、そんな下らない私に対して、彼女は涙を流すと『行くな』と言ったのだ。


 そして終いには……『あなたも幸せになれ』と、そう言うのだ。


 『わたしが幸せにするから』と。



 『一人で背負うな』と言う言葉の中には、そんな思いがある事を私は感じた。……いや、実際はそれ以上だったのだろうか。



 ただもう、そんな言葉を聴いてしまったら──そんな『想い』を感じてしまったら、そりゃあ、孤独を感じていた私みたいな存在には『効果が抜群』どころの話ではなく……寧ろ『致命傷』だった。


 その言葉一発で涙腺がぼろぼろに破壊されてしまったのも仕方がない一撃だったのである。



 『…………』



 ……早い話、『孤独』でおかしくなってしまったのは『音』だけではなく、私も同様だったというそんな下らない話ではあった。


 そして、そんな私の愚かな『心』はもう見事にエアの言葉一つで『ぽろぽろ』に打ち壊されてしまったのである。



 ──だがまあ、この経験はきっと馬鹿にはならないだろう。『孤独』の恐ろしさというのを痛いほど思い知る事ができたのだから……。



 要は、ある意味で『他者』の存在しない世界は『争いも起きない』が……その逆に『個』が正気で居続ける必要もなくなるのだと思い知れたのだった。



 私は不本意ながらもそれをよく学べたのだ。いや、近付きすぎて知り過ぎたともいえるだろうか。



 『人は一人では生きていけない』とはいうが──『化け物』だろうと『領域』だろうと、もしかしたらそれは変わらないのかもしれないと、私はそう思うのだった。



 『…………』



 ……ただ、その時になって、またも不思議な既視感が一瞬私を襲ってきたのだ。


 『──遠回りだったが、上手くいって良かった』と。


 そんな『追憶の一端』であるようなものが──ふと『心』に去来してきた……。



 そして、それと共に今更ではあるが、疑問も浮かんだ。


 ……と言うのも、そもそもの話が『ドラゴンの子』(水竜の子)をきっかけに『魔力適応を調整』した後、今回の状況に陥った訳ではあるが──その元々には『勇者一行』と出会った事と、その際に密かに『音』の介入があった事が少なからず関係していると思っているのである。



 ──そして、後々冷静になって話し合いし情報を共有した結果でもあるのだが、幾つか『異質』な事にも気づいたのだ。



 ……まず、『聖竜()』としては事の発端として『大切な者が失われた……』と言う『勘違い』をした事がきっかけとなり『音』と『世界』を取り合う戦いになった訳なのだが──私はその際にエアと『音』の戦いを感じていないのである。


 もっと言えばそこに『音』の介入が本当にあったのかも、よくわかっていないのだ。



 無論、その戦いでエアが『差異』を超える事になったから、戦いがあった事自体は間違いないのだろうが──それならば何故、私は当たり前の様に『世界』の『管理維持』などを続けているのか?と言う話にも繋がって来るのである。



 ……なにしろエアが無事だった訳だし、別に『世界』など正直欲しくもなんともなかった訳なのだから、私がその『管理維持』をするのはなんともおかしい話だと感じた訳だ。



 まあ、今となってはエアが『ロムが作り直したんなら大事にしなきゃね!』とそう言ってくれている為、今更になって手放すことも違うかと思ってはいるが……何となく変に感じざるを得ない状況であることは確かであった。



 それにエアも言っていた事だが──『大樹の森』さえあれば『領域』としては十分なのに、と私も凄くそう思うのである。


 なので、結局何が言いたいのかと言うと、私は『世界』を(てい)よく押し付けられた気がしてならなかったのだ……。



 『…………』



 ……まあ、その結果として、ある意味で『聖竜()の心』は成長し、『涙を流せるようになった』とは言えるのかもしれない。


 それに、エアとしても『白銀』となり『世界』に溢れる『膨大なロムの魔力』の一端を『天元』を通して扱えるようになったのだから、得るものはあったのだと……。





 ──ただ、考え方を変えるのならば、これらは『ロムの感情を取り戻す為』、そしてエアへと魔法使いとして更なる『力』を与える為にやったのだと、そう思えなくもない……。



 だが、もしもこれらが全て、元々の『エフロムの策略』であったり、またそれか他の『誰か』の陰謀なのだとしたら……正直『聖竜()』としては心胆寒からしめる所だ。



 『…………』



 ……ま、まあ、きっと考え過ぎだろうとは思うのだ。


 そんな訳がない……。



 『…………』



 ……まあ、話は変わるが、因みに『白銀のエア』の協力があったおかげで、私達は三つの『領域』の『製作と調整』、それから『管理維持』をもう終えてしまったりする。例の『音の別荘』作りに関しても案外簡単にできてしまったのだ。



 一応まだ『意識状態』へと至るのに私の導きが必要にはなるのだが、それ以外では『白銀のエア』が非常に優秀だった為、『音』に対しても私よりも彼女の方が相性が良いからと一手に引き受けてくれたので、その活躍が大いに影響した結果、あっと言う間に終わってしまったのだった。



 ……正直、二人揃うと凄く楽だったのである。

 そもそも、同じ様な作業の繰り返しだったのに、その間すらもとても楽しかった訳で……あっという間に過ぎてしまったのだった。



 やはり、『孤独』でなく、人手があるのとないのとでは大違いだったと言う事なのだろうか──。

 それとも、ただ単にそれが『エアだったからこそ』なのだろうか──。



 エア曰く、『一人で全てを背負う必要はないのだ』と。

 ……まあ、つまりはそういう事なのだろう。

 全部エアの言う通りだったと『心』の底から私もそう思うのだった。



「──ロムッ!はいっ、手出してっ!」


 『──!!』



 ……そんな訳で、『管理維持』をそうそうに終えた私達は、また『聖竜』と『小さなエア』の状態に戻ると、またあの何もない道の途上で『手を繋ぎ』ながら『ぱたぱた』と翼をはためかせている。


 因みに、小さなエアの背中にはちゃんと『水竜の子』の姿もあり、その子は『きゅー、きゅー』を鳴き声を上げているのだ。……うむ、どうやら水の外の景色が珍しいらしい。

 


 そうして、私達はそんな『水竜の子』の親探しの為にも、また『世界』を歩き始めるのであった──。



またのお越しをお待ちしております。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ