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鬼と歩む追憶の道。  作者: テテココ
675/790

第675話 阿吽。

(今回、珍しく『エア視点』となります)


2021,12,08、本文、書き直し──。

(書き直し前の話を読んでしまった方々、大変申し訳ございません。ご理解いただけますと幸いです。)



 『好きな人』が今にも消えようとしているのを──去り行くのを、いったいどうすれば止められるのだろうか……。


 今『わたし』の『心』にあるのは、その思いばかりだった……。



「…………」



 ロムは、とても優しい。

 それに、ロムの魔法使いとしては腕前は──その凄さは、今更言うまでもないと思う。


 魔法使いとして『最高』なのはロムだとわたしは思っている。

 実際、『知覚』したときには既にロムの魔法は使われた後である事が多い。反応もできない。


 わたしの様な一般的な魔法使いとは明らかに一線を画す魔法速度で、まるで『事象の押し付け』をしているようにすら感じる程……簡単に言えば『結果』だけを相手に及ぼす様な魔法を使ってしまうんだ。



 正直、今まで『凄いなー』とは思っていたが、魔法使いとして『差異』をいくつか超えて、ようやくその魔法の凄さの一端がわたしにも分かるようになった。


 ロムの一番凄い所は、一度に複数の手順を同時進行で行っている事──そして、その一つ一つを意識しながら行える事なんだ。



「…………」



 その言葉だけを聞くと、もしかしたら何でもない様に聞こえてしまうかもしれないが──

 普段『歩くとき』や『息を吸うとき』、自分がどのように身体を動かしているのかなんて、きっと普通の『人』であれば無意識で行っている事だと思うけれども……。



 ロムの場合、それらを全部意識して自分の思うがままに行っていると思う。



 ……その凄さが、伝わるだろうか?

 ロムは昔から、『アンチエイジングなんとかー』とか言って、呼吸一つに集中し魔力を吸収したり放出したりする訓練をやり続けていて──だから、きっとそれを魔法にも応用しているのだとは思うんだけど、実際にやってみればわかる話だがそれが兎に角本当に難しいんだ。



 普段、無意識に行っている事を全て自分でコントロールする事、そしてそれを一日中通してずっと意識し続ける事。その複雑であり繊細でもある作業をやり通す精神力と集中力……どれをとっても並大抵の努力で培えるものではないと思う。



 ロムが、今までどんな生き方をしてきたのか、そしてどんなものを消費してきたのか、その一端でもわかるとわたしは嬉しい。



「…………」



 ──そう。つまりは、ロムはそれらの『力』を得るまでに、それだけ多くのものを消費してきたのだと私は思っている。



 ……今、わたしの腕の中で『バウ』に似た姿になってしまっているけど、これもまたきっとその影響なのだろうとわたしは思った。


 自分の姿すら忘れてしまう位、記憶までも全て消費してしまう様な何かを、ロムは行ってきたのだと。



 そして、その上で更に言うが、ロムの凄い所は──その得た『力』の殆どを、『誰かの為に使っている所』なんだ。



 大した事ではないと言いながら……誰にも興味も関心もない素振りをしながら……いつも誰かの『幸せ』の為に……。



 魔法使いとしての『力』は殆どを『精霊達』やわたし、『大樹の森』を守るために使い──その結果としてロムは『領域』になった。


 『領域』となった際に、ロムは己の中に『大樹の森』という『世界』を作りあげ、『人』としての大部分を失ったんだ。


 『世界』の中に、それとは異なる『別の世界』を作り出した魔法使い。

 そして、今度はその『世界』すらも『管理維持』するという……うん、当然失ったものも相応に大きくなって仕方ないだろうって思った。


 

 だから、そんなロムを想うと……わたしは涙が堪えきれなくなるんだ……。

 この人を愛しているのに、守りたいと思うのに、それに適うだけの『力』のない自分自身に腹が立つんだ……。


 そして、そんな愛しい人が、今まさにこれから『さよなら』を告げて、わたしの元から居なくなってしまう事を知って──それが、なによりも悲しくて悲しくて、こらえきれなくなってしまった。



「…………」



 ……ぅぅっ、やめてよロムぅ。ほっぺにちゅうしてくれても涙、止まんないからぁ……。

 そんな事しないで良いから、いかないでよぉ……。


 喚き散らすだけで何かが変わるなら、今すぐにも叫びだしかった。

 ぁぁ、でも、ほんとうにいやだぁ……どうすればいいんだろう。どうしたらロムを守れるんだろうと、そればかりが頭の中をずっとグルグルと回り続けている。



 このままだと、きっとロムは『領域』になったまま戻ってこなくなっちゃう。

 いっそ、本当に『世界』を壊してしまえば──何もかもを消してしまえば『管理維持』をする必要もなくなって、ロムも戻って来るのかもしれないと少し思ったけど……。


 でも、『ロムが作ったものを壊す?』と考え、自分が着ている『白いローブ』を一目見たら、もうそんな愚かな考えは吹き飛んでしまった。



 わたしは、ロムが『お裁縫』を好きな事を知っている。いつもイキイキとして、穏やかに黙々と楽しそうにしているロムの光景が、少し考えただけでも直ぐに簡単に思い返せた。

 そんなロムの作ってくれたものは全部、当然どれもわたしの宝物だ。

 お気に入りの(ロムみたいな)鞄の中にはそんな宝物がいっぱい入っている。


 ……だから、ロムが作り直した『世界』ならば、『壊すなんてとんでもない』とそう思った。寧ろわたしも大事にしなければと。



「…………」



 わたしは、涙を止められないままに、そこで一旦深く息を吸った。


 ……『思考の更新をしなければ』と、そう思ったんだ。

 今のわたしは誰が見ても分かるくらい冷静ではないから。


 このまま泣き続けているばかりでは、本当にロムが行ってしまう。きっと本当にもう会えなくなってしまうから……。それだけはどうしても嫌だった。だから絶対に何とかしたい。



 『力』がもっとあればと、この時ほど思った事はない。

 ……ロムと同じくらい──いや、せめてロムの後を今までと同じ様に追いかけ、その隣に居られるくらいの『力』さえあればと、そう強く願った。



「──!?」



 ──だが、そう思った時、わたしは『異変』を感じた。


 その『思考の更新』に伴い、わたしは偶々いつも通り『天元』に魔素を通しただけのだが、その際明らかにさっきまでとは異なる『魔力』の感覚が、お臍の辺りに集まって来るのをいきなり感じたんだ。



 『……いきなり、なぜ?』と思った。『数秒』前までは全くなかった筈の感覚だったから。

 それに、それは明らかに今までには感じたことがない位の『大きな力』でもあったから。


 ……ただ、正直『力』を求めていたわたしにとっては、まさに好都合な状況でもあった。

 だから、気づけば直ぐに疑う事もせぬまま、わたしはその『力』を一気に全身へと巡らせてしまった。



 だが、巡らせながらその『力』の中にロムの『心』のあたたかさを感じたわたしは、直ぐにそんな不安も無くなったんだ。


 恐らくはこれも『きっとロムが事前に『何らかの策』をうってくれていたんだ!』と、何となくだがそう思えた。……うん、ロムの事だからきっとそうに違いない。


 『記憶がなくなっても、ロムはいつもわたしの事を考えてくれてるんだなぁ』と感じて、もっともっとロムの事が好きになった。



 それに、次の瞬間にはわたしの髪はもう今までにないほどキラキラと光り──ロムと同じ『白銀』の色に染まっていって……それを横目に見たわたしは、一目でその髪色が愛しくなったのだった──。



またのお越しをお待ちしております。

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