第631話 賤目。
注意・この作品はフィクションです。実在の人物や団体、事象などとは関係ありません。
また作中の登場人物達の価値観なども同様ですのでご了承ください。
『──恋人にしてください!』と、いきなり私に告白してきたのは……まだ少女と言える年頃の若き魔法使いであった。
……恐らくはその少女も『泥の魔獣を籠絡せよ!』と言う依頼を密かに受けてこの街へとやって来たのだろう。だが、他の女性達が私達の見た目に困惑する中、一人だけ意を決すると目の前まで近づいて来ると目を輝かせながらそう告げてきたのである。
それも完全に私を『女性』だと勘違いした上で、だった。
……つまりは、目の前の少女は『女性が好きなんだろう』と、私とエアは直ぐに察したのだ。
他の女性達が『泥の魔獣が男じゃない!?』と困惑する中、逆に少女だけは『泥の魔獣が女性で良かったっ!』と思ったのかもしれないと……。
だが──
「……あのね。実は、その方は──」
「──ええっ?うそっ!!だって、あんなにも綺麗で……」
すると、いつの間にか『白石冒険者』である『エーさん』が周りの目にも止まらない速さで──サッと少女の背後へと回り込んでおり、敢えて私が『男』である事を少女にだけこっそりと教えていたのである。……どうやら教えた方がこちらにとって『利』があると、咄嗟に判断したのだろう。
それにより少女は確実なショックを受けたようで、その表情には、『ガーーン!!』という音が聞こえてきそうな程の落胆の色が見えたのだった。
──なんとも申し訳ないけれど、私では少女の期待には応えられないだろう。……私はちゃんと男だからな。
「…………」
この作戦を考えた当初、エアももしかしたらこの可能性はあるかもしれないと、一応は懸念していたらしいのだが……でもまさか『一目ぼれ』だと言って急に告白してくる者までもが現れるとは予想もしていなかったのである。
正直、この少女はかなり思い切りが良い性格なのだろうと思った。
ただ、その少女が年若いからと言って、それを馬鹿にしたり誤魔化したり、ぞんざいな返答をする事はしないのである。
無論、結局は『断る』事に変わりはないにしても、確りと誠意をもって返答するつもりだ。
……例え、彼女達がその裏にどんな思惑を抱えていようがそこを変えるつもりは微塵もない。
ここら辺の考え方は『耳長族』として、幼き頃から淑女達に言い含められてきた事でもあり、対応を違えてはいけないと刻まれている教訓でもある。
──要は、『女性とは生涯淑女なのである』と。
だから『決して侮るなかれ』『真摯に対応せよ』という教訓が、こんな私にもまだちゃんと染み付いていたのだった。……その事を知れて、なんとなくだが少し懐かしく感じたのである。
「…………」
……だがまあ、そんな事よりも今は少女に対する返事の方が優先だと思い直し、頭を切り替える事にした。
なので、私は少女に対してちゃんと向き合うと、姿勢を整え真っ直ぐに彼女の目を見つめながら、出来るだけ柔らかな雰囲気を意識し──
「……すまない。貴女の想いには応えられないのだ。どうか許して欲しい」
「……は、はい……わかりました……」
──と、そうして普通に確りと返答したのだった。……だが、おや?
『……ロム、ちょっとそれは逆効果だったかもっ』
『……ふむ。逆効果?』
「…………」
『……なにがだろう?』と、その時の私は暢気にも思った。
……ただ、確かに先ほどまでは落ち込んでいる様に見えた少女が、今ではもうそんな様子もなくただただ熱っぽい視線で私をポーっと見つめて来ているので、『何かがおかしい』とは私も感じているのだ。
でも、その『何か』がよく分からず、私としては内心で首を傾げるしかなかった。
まさかこの短時間で『女性が好きな少女が、男である私に懸想する事はないだろうし──』……無いよな?
だから、私としては普通に対応しただけなのだが──え?少女は『魅了』にかかってしまったかもしれないと?でも、そんな魔法を私は使ってないのだが……?
「…………」
「…………」
『どうする?』『どうしようか?』と、そこで私とエアはまた『心』と視線で語り合った。
──そして、結局はまた『今の所はどうしようもない』という話になり、暫くは様子見でさっさと『強化訓練』に向かう事にしたのである。
『強化訓練』をして、出来るだけ短期で目的を達成してしまえば問題は自然消滅するだろうと、その時の私達はそんな判断したのだった──。
「…………」
──だがしかし、それから暫くして、そりゃまあ当然の様に私が『男』であることは簡単に広まる事になり、訪れた女性達は皆して私に積極的に迫ってくるようになったのである。
……それも、いつしかこの街では大勢の女性達を『見つめただけで惚れさせる』事の出来る『魔性の瞳』──通称『魔眼』を私が持っていると言う、そんなとんでもない『噂』までもが広まる様になってしまい、私はエアと一緒に頭を悩ませることになったのだった。
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