第609話 久遠。
此度の事を端的に話すのならば──早い話が、私とエアの『繋がり』が深まったのだった。
それによって、結果的にエアは『私と言う領域の一部』とも言える存在になったのである。
エアと『大樹の森』の間には魔力的な結びつきが深まり、元々この地に生み出されたものとほぼほぼ変わらない程の『性質』を帯びるに至った。
要は、そうなったことでもしもまた『血晶角』などを失ったとしても、エアは今度からこの地にある『素材』で代替する事が可能となったのである。
双子達の『身体生成』を使えば、次からはもっと簡単に『角』も作れるようになるだろう。
そもそも、双子達の力量によっては魔力以外の媒体さえも必要なくなるかもしれない。
……更に言えば、私の『性質変化』でさえも今のエアにならば適応が可能となっているかも知れないのだ。
それはつまり、今すぐとは言えないが、いずれはエアも望めば『私と似た存在』になれるかもしれない……と言うそんな話でもあった。
愚かにも私と言う存在は、己だけでは飽き足らず自らの最愛の者でさえも『化け物』に至れる様な道を新たに作り出してしまったのだと……解釈を変えればそう言えるのかもしれないのである。
「…………」
……無論、これについてはエアが本当に望めばの話であった。
流石にそればかりはいくらエアの事を愛していようが、勝手に施してしまう等という不届きな事は私も考えていない。
『人を辞める』と言う事がどういう事なのかを、私はよく知っているから……。
私と似た存在になる事で、エアが得られる物も確かに有りはするだろう。
……だが、それ以上に『化け物』という存在に変わる事によってエアへと背負わせてしまうもの──辛さや悲しさ、大変さ、不安定さ──そんな色々なデメリットがある事も当然忘れてはいけないのである
寧ろ、そんなデメリットばかりが目立つ為に、好き好んで愛する者にそれを強いたいとは思えなかった。
エアがどんな選択をするとしても支持するつもりではあるけれど……その選択でエアが傷つく姿はもう見たくはなかったのだ……。
「…………」
……だがしかし、そんな選択肢を作り出した時点で、ある意味では私の『心』もお察しなのかもしれない。
きっと『エアが傷つく姿は見たくはない』とは思いながらも、やはり『心』のどこかでは自然と『寄添う者』を求めてもいたのだろう……。
そして、そんな思いは当然の様に今のエアには筒抜けになっており──沢山ガウガウと私に甘えてきた後に、エアは……。
『──わたしもロムと一緒の存在になりたいっ』と、囁く様に望んでくれたのだった。
……その言葉が、単純に『魔法使い』や『冒険者』になりたいと言う意味で語っているのではない事は直ぐに伝わってくる。
『ずっと一緒に居ようね』と、約束したあの言葉は嘘ではないのだと。
『どんなロムでも愛してるっ!だから、どんなわたしでも愛してねっ!』と。
エアはそう言ってくれていたのだ。
ハニカミながら告げられたそれらの言葉に、またそこに込められた想いの深さに、私は思わず膝から崩れ落ちそうな感覚を得た……。
「…………」
……知らなかったのだ。
『喜び』も適応量を超えると、どうやらダメージを受けるらしい……。
そんな『嬉しい痛み?』(と言っていいのかは分からないが)、私はエアの言葉を聞いた瞬間から胸の奥がいきなり『きゅーっ』となって苦しくなったのだった。
恐らくは、きっと、たぶんなのだが……この痛む胸の奥にある場所に、私の『心』はあるのだろう。
色々と失くしてしまった私にも、こんなにも素晴らしい感覚がまだまだ残っている事にも驚いた。
……常々不器用で、時々大きなポンコツもやらかしてしまうこんな私でも、エアをこれだけ深く想える事が何よりもの自慢に思える。
──私の『心』はそうして『世界』を超えて、君を愛したいと告げ続けているのだ。
この鼓動の大きさが、エアにも伝わってしまうのがなんとも恥ずかしかった……。
「……もーっ、ロムはわたしが本当に大好きなんだなーっ」
「…………」
……すると、そんな風に想っていた私の気持ちはやはりそのままエアへと伝わってしまったらしく──
エアはこれ以上ない位にニマニマとして表情を緩めると、『ぴとっ』と私の隣にくっ付くのだった。
肩に掛かるその自然な重みと、エアからも逆に伝わってくる熱い想い──その『深い喜び』と『激しい動悸』──を感じて、私も一緒に嬉しくなった。
エアの想いも鼓動の大きさも、私に負けず劣らず激しくて微笑ましくなる……。
いつの間にか結ばれていた私達の手のひらは、『もう離れたくない』と互いに囁き合っているかのようだ……。
「…………」
「…………」
『大樹の森』──その大樹の前にある花畑の中心で、私達はそうして微笑ましい時間を過ごしていた。
……因みに、先ほどから周囲では激しく精霊達の『色々な声』が聞こえてもくる気もするのだが、申し訳ないけれどもそれらは全て無視させて貰っている。やめるのだ君達。あまり冷やかさないで欲しい。
それに、私的にはつい先ほど寝て起きたばかりに感じているが、エアからしてみればこれは『二十年ぶりの再会』なのだ。
だから、今は何よりもエアとの時間を大切にしたいのである。
……当然、暫くは何を言われようともエアを最優先に考えたい。
エアを甘やかせるだけ甘やかし、愛でるだけ愛でてあげたいのだ。
……内心、それこそが私の望みでもあり、この時間そのものが私の幸せに繋がっていた。
「…………」
そして、エアもまたそんな私の甘やかしに全力でノリノリなご様子である。
……寧ろ、私の『想い』に負けたくないと言う気持ちもあるのか、『わたしの方が好きなんだーっ!』と言いたげに先ほどから過剰なスキンシップが止まらないでもいた。
内心エアも恥ずかしいとは思っている様だ。
……だが、複雑にも甘える事を止めたくもないらしい。
なので、エアは今忙しくて精霊達の目を気にする余裕の方がないようだ。全く気にもならないと言う。
……正直、私としては沢山甘やかしてあげたい気持ちはあるけれども、こんな風にみんなの目がある中でスキンシップを取るのは、ちょびっとだけ苦手な気はした──
「……ろむっ……」
「……ああ、私もだ。愛しているよ」
「……うんっ」
──だがまあ、結局はそんなエアの声には勝てない私なのであった。
……チラリと見ると、精霊達もこうして私達が一緒に居るだけで涙ぐんで喜んでくれている者が大勢いた。
そんな精霊達の姿に、なんだか私も段々と嬉しさを実感しつつある……。
「…………」
……ただ、この『二十年』で変わらなかったものもあれば、当然の様に変わってしまったものもある事を、暫くした後に私は知る事になった。
この場(『大樹の森』)にエアは居るが、双子達の姿は無かった事……。
それから、『外側の私』が『雪ハウス』から外に出てみると、そこには近場にあった筈の『魔法学園』が、その大きな街ごと全て荒廃し無くなってしまっていた事にも──。
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