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鬼と歩む追憶の道。  作者: テテココ
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第602話 月歩。

注意・この作品はフィクションです。実在の人物や団体、事象などとは関係ありません。

また作中の登場人物達の価値観なども同様ですのでご了承ください。




 私の顔を見た瞬間、その『耳長族(エルフ)』の淑女はいきなり【火魔法】を放ってきた。



 それがギルド内であった事と、完全に意表を突くタイミングであった事、そして私に対する『悪感情?』や『敵意?』とでも言えばいいのか、そんな雰囲気がほぼ感じられなかった事などから、反応は遅れ気づいた時には眼前に身の丈を超える程の火球が迫り、私はそれをそのまま受けてしまったのである。



「…………」



 攻撃の気配を気付かせずに、明らかに『人』であれば致命傷に負うであろうその魔法に対して、私はその淑女が『実力のある魔法使い』であることを察した。魔法使い同士の戦いにおいて、それ程的確な戦法もないだろう。



 ……ただ、私の『身体』はもう、そんな火球を受けた位ではかすり傷すらつかなかった。

 寧ろ、『防ぐまでもない』と判断した私は甘んじて壁まで吹き飛ばされる事を受け入れたのである。



 と言うのも、その瞬間の私の頭にあったのは『……私は平気だが、周りは大丈夫だろうか?』という、そんな単純な思考であった。



 これでも一冒険者として、ギルド内に居る他の冒険者達やギルドの建物自体がその火球に巻き込まれはしないだろうかと一応案じたのである。



「…………」



 ……私は、『人』をあまり好ましく思っていないからと言っても、誰彼構わず傷つけたい訳ではなかった。それ位の分別はあるのだ。



 だから、私はその無差別に被害を与えかねない【火魔法】から周りを守る為に魔法を使い、建物を保護し、冒険者達を守ったのである。



 ……ただ、これは無意識的なものであり、言うならばただの気紛れでもあった。

 要は、この行為に深い意味などない。

 当然、『人との繋がり』を考えた故でも無かった……。



「──なぜ?」


「…………?」



 ……だが、私のそうした行動は目の前の彼女を混乱させるには充分だったらしく──

 

 私が自分の身よりも周りを助ける事を優先したように見えるその光景に、目の前の淑女は言い様の無い激しい怒りを感じている様子であった。



「──いや、騙されない。貴方は既に『学園』の者達を手にかけた筈……今この街で各地の施設が凍り付いているのも貴方の仕業でしょ?……貴方以外にあんな事が出来る魔法使いがそうそういる訳ない。……間違いないんだ──」


「…………」



 ……すると、そうして淑女の口から『学園』というその言葉が出た事によって、私は彼女が『魔法学園』の関係者であることを知った。まあ予想はついていたが。



 ただ、ここ最近『秘された施設』を私が潰し回っている事を思えば、当然の様に彼女がそれに憤りを感じるのにも理解は及ぶ……。



 ──だがしかし、問題となるのは彼女はどこでそれを……私の事を、知ったのだろうか。

 それと先ほどから気に掛かってはいたのだが、彼女はまるで私と知り合いであるかのような雰囲気である。



 『巨大魔方陣』から私の『痕跡』を探られたとは思わないし、彼女の事には全く見覚えが無いので私には甚だ不思議でしかなかった。

 ……勿論、『魔法学園』には『学長』を含めて数人の知り合いは居るのだが、でもそれは目の前の彼女ではないのである。



 声も姿も感じる魔力の質でさえも全てが知らない存在……。

 それにこれは……。まるで『精霊』を相手にしている時の様な感覚にも近しかった……。


 なのでそれを『人』である彼女から感じるのがとてもとても不思議で仕方がなかったのだ……。



「…………」



 ……いや、もしかすると、知り合い達から私と言う存在の話を聞いただけなのかもしれない。



 だが、私がこの土地を訪れたのはもう何年も前の話で……。

 それに、今更私の事を覚えている者がいるとは──っと、いかん。



 ……すると、気づけばまた目の前の淑女が次の行動を──また魔法を撃とうとしている事に私は気づいたのである。



 ──ただ、なんだろうかこの感覚は……。

 彼女の行動が、酷くチラつく。そして、霞んで気づき難く感じるのだ。


 これではまるで『まやかし』を受けているかの様な状態だと思えた……。



「…………」



 ……ただまあ、正直私は傷を受けないので幾ら彼女から攻撃されようとも全く問題はなかった。

 だから、焦って対処するまでもないと一瞬思ったのだが、この曖昧な感覚だと私は周囲の守りに隙が出来そうで怖くもなったのである。



 要は、そのせいで他の冒険者達やこのギルドの建物に大きな被害が及ぶのは魔法使いとして面白くないと感じた。


 その為、またいつも通りではあるのだが──私は魔力で『力任せな拘束』をし、目の前の敵(淑女)を止めてしまった方がいいと考えたのだった……。



「…………」



 ……まあ、本来なら『敵対する相手』に対しては攻撃されたら即反撃してきた私だし、全てを消し去ってしまった方が面倒も少なくて簡単だとも思うのだが──『彼女が私を察知した方法』と『彼女が精霊に近しい雰囲気をしていた事』がどうしても気になったので、私は一旦彼女を行動不能にし、捕らえて話を聞き出したいと思ったのである。





 それに、そもそも周りの者達は突然の事に驚くばかりで、悲鳴を上げる事しか出来ていない。

 ……彼女の凶行を止めようとする者は他におらず、逆にその【火魔法】の威力を見て逃げ出そうとする者ばかりであった。

 冒険者ギルドで暴れている者を抑えようとする者がここには居ないのが残念である……。



 まあ、一部のギルド職員はギルドマスターへと助けを求める為に走り去っていく姿も見えたのだが、彼女の次の魔法を止めるまでには些か間に合わないだろう……。




「…………」




 ……という訳で、早速私は彼女を魔力で拘束してしまおうと思い、それを実行した。

 他に誰も対処する者が居ないなら、私が勝手にやらせて貰っても構わないだろうと。



 『──??』



 ……だがしかし、そうすると今度はまるで『ツルツル』と氷の表面を滑るかの様な感覚があり、同時に私は淑女を『魔力で拘束する事』が上手く出来なかったのだった。



 私の魔力による『拘束の力』は、殆ど彼女の身体を滑るばかりで拘束するには至らず、淑女の『領域』の表面を滑り弾かれ『力』が上手く届いていない様に思える。



 次いで、逆に淑女の方がまたも『火球』で攻撃してきたのだが、それに対しても魔力の感触が悪くなり、私は上手く相殺する事がやり難くなっていた。



 ……何とか周囲に広がらない様にと打消しも試みたが、それもまたどうにもいつもより気持ち悪さを感じてしまう。凄く難しい。



「…………」



 ──対して、淑女の方は自分の身体に一瞬の不快感らしきものを感じたようだが……それが気にならないと判断したのか、直ぐにまた私を見て先ほどよりも更に威力を増した【火魔法】で次々と攻撃して来たのであった。



 ……当然、その魔法は一度や二度では収まらず、その火の威力はもう身の丈の二倍ほどにも届きかねない。



 それにより、ギルドの一角は最早、私を中心として目も開けない様な炎の渦に包まれていたのだ。



 ……内心、私はこの状況に首を傾げたくなりつつ、とりあえずは周りの『人』や建物に炎が広がらない様にと自分の方へ集めて、気持ち悪さを我慢しながら少しずつでも打ち消していこうと集中を続けたのだった。



 正直、魔力量的には全然厳しくない事だけが救いで……このなんとも言えない不快な感覚が気になって気になって仕方がなかった。



 寧ろ、幾らでも耐える代わりに原因をなんとか探ってやろうかとも思い始めていた──




「──『人』の技術は進歩する……勝てないと思える様な存在にも、やがて勝てる日が来る……」


「…………?」




 ──だがそうして我慢していると、魔法を私に放っている淑女の方から、突如としてそんな呟きに近い声が私の耳へと聞こえて来るのであった……。





またのお越しをお待ちしております。

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