第525話 気宇。
注意・この作品はフィクションです。実在の人物や団体、事象などとは関係ありません。
また作中の登場人物達の価値観なども同様ですのでご了承ください。
正直、街の者達から武器を向けられながら『──どうして、そうなるのだ』と、私は思わずにはいられなかった。
何かをした訳でもないのに、ただただ普通に街に来ただけで私は街の兵士達から襲われそうになっているのである。
……だから、なんて殺伐としている街なのだろうかと、私は内心に驚きを秘めながら思うのだった。
『神兵達』の問題が影響しているせいだろうと言う認識はあったが、兵士達が落ち着いて誰何してくる余裕すらないままに武器を向けてくる程だとは……正直思ってもみなかったのである。
『人を喰らって異形へと姿を変える現象』が、まさかそこまで世間を過敏にさせているとは──少々想像していた以上の状況だった。
「…………」
……ただまあ、私がこんな『怪しげな魔法使いの姿』だったと言う事も、きっと理由の一つではあったのだろう。
ただ、それにしたって流石にここまでの対応はあんまりだとも、少しだけ思ってしまう。
『何もいきなり襲い掛かって来なくてもいいだろうに……』と。
それに、エアが頑張って作ってくれた『木のお面』を『変だ』と言われたのは心外だ。
どちらかと言うと、私としてはそちらの方に『ムッ』としていたかもしれない。
……だけど、改めて考えてみると失礼な話だと思うのである。
こんなにも頑張って木を削って『付与』も一生懸命施してくれて、普通よりもちゃんと丈夫で良いお面をエアは作ってくれたのだ。
それを、言うに事を欠いて『変だ』なんて、あんまりである。
だから、そんな風に悪く言われてしまうと、エアの頑張りまでが否定されたように聞こえてしまって……私としては若干憤りも覚えてしまうのだった。
「…………」
……まあ、確かに『木のお面』は微妙に左右の目の穴の大きさにも違いがあったりするし、見方によっては無骨かつ不気味にも見えてしまう事もあるのかもしれないとは思う。
感じ方は人それぞれなので、そう思ってしまう人が中には居る事も理解はできる。
だから、それについて私の考え方を強制しようとは思わないし、言及するつもりもなかった。
……ただ『この良さが分からないなんて、気の毒だな』とそう思うだけである。
私からするとこれは誰になんと言われようが『味わい深くて、カッコいいお面』であることに違いはない。私の大事な宝物なのである。
これの価値は私の中で一切陰る事など無いのだから……。それでいいのだ。
「…………」
……ただ、こんな時勢だからこそ逆に、冷静な判断はして欲しいとも思うのだった。
何が影響し、何が起こるか分からない時こそ、言葉の一つ一つも大事にして欲しいと思うのだ。
それこそ、一目見ただけで簡単に『化け物だ』などと口に出して欲しくもない。
……少々、そのワードには思う所もあるので、尚更にそう感じてしまったのである。
でもまあ、確かに私の右手には今『おどろおどろしい音が鳴る杖』と言う面白道具も握られており、それが先ほどから『ひゅ~ドロドロドロドロ~』と、奇妙な音を鳴らしてしまってはいる訳で……。
冷静になってみれば、この奇妙な音のせいで尚更に不気味さを助長させてしまっているのかもしれないと思うのだった。
風が杖に空いた微妙な空洞を通る度にその不気味な音は鳴り続け、意外と響く──私としては、この音を聞くだけで、なんとなくだが不安になりそうな気がする程だ。
「…………」
今更ながらに、何で私はこんな杖を手にしているのだろうか。……甚だ謎である。
ただ、いずれはこの『杖』も何かしらで役に立つ時が来るかもしれないので、大切にしたいと思うのだった。
……如何なる存在においても、本当に正しい使い道なんてどこにあるのか誰にも分らないのだ。
隠れた才能や気づかなかった『力』の使い方なんて数多にある。
一見して無駄だと思えるものにも意味があったりするのだ。
生み出されたものへと、本当の価値を定めるのは製作者だけではないのだから……。
「…………」
だから、皆で楽しみながら作った『杖』のせいにするのもまた違う話だと思い直し、改めて冷静に現状の問題についても考え直す事にしたのである。
──と言うのも、そもそもの話が、せめて私を『魔法使い』である事くらいは兵士達にも察して欲しかったと、やはり私は思うのだ。
そして、普通に白いローブのフードを被り、お面を着けて、杖を持っているだけなのに──それだけで『化け物』扱いされてしまうのは流石に理不尽が過ぎるのではないかとも思ったのである。
……なので、要はそれを考えた時に、彼らがそう考えるに至った原因は何だったのだろうかと、私は冷静に思考を巡らせてみる事にしたのであった。
「…………」
──ただ、そうすると当然の如くここまでの状況を第三者目線で冷静に考えてみるならば、どちらの方が悪かったかと問われれば、そりゃ間違いなく私の方なのである。
こんな時勢で、こんな格好をしているのは勘違いを生んでも仕方ない。
なので、正直そこだけは私の過失であり、済まないとは思っているのである。ごめんなさい。
……ただ、この格好にもちゃんとした理由があって、無意味でしている訳ではない事を彼らにも知って貰いたいと思うのであった。
そして私は、悪さをする所か『魔力生成』によって『世界のバランス』を整えに来た側なのであると。
だから、街の兵士達にも一度冷静になって貰って、私がただ単に『一見怪しく見えるだけのただの魔法使い』である事を理解して貰わなければと思うのだった。
……こうして顔をお面で隠しているのだって、例の『魔力効果』に万が一他の人達を巻き込まない為の策なのだと。
という事で、早速彼らに落ち着いて貰う為にも先ずは『神兵達』とは異なる事を証明する必要があると私は考え実行したのだ。
なので、ここは先ずは挨拶と状況説明の為に『会話』が必要不可欠だと思った私は、早速『──よしっ』と気合を入れると、いつもよりも若干大きな声で話しかけてみる事にしたのであった。
「──あのっ、話があるのだがっ」
「──こちら側に寄こせるだけの応援を今すぐに呼べッ!!早くしろッ!!来るぞ!近付いて来るッ!!槍を構えろーーッ!!」
「これ以上、街の者達を食わせてなるものかっーー化け物め!!娘の仇だッ!!」
「あの風貌に、あんな『禍々しい杖』までを持って居ると言う事は……恐らくは元は魔術師だったのだろうっ!魔法にも警戒だッ!!盾も持てーーッ!」
「もしもの時は俺が組み付いて奴の動きを封じる!その時は俺諸共、奴を槍で突き刺せッ!!もう戦える者も多くはない……全員覚悟を決めろッ!この異形はこの場で必ず仕留めるぞッ!街には死んでも入れるなッ!!」
『──オウッ!!!』
「…………」
──だがしかし、既に兵士達には、そんな私の声がけなど一瞬でも届く隙すらなかったのである。
……こ、これは、少々困った状況だった。
よく見て聞いて貰えれば、言葉を交わすだけで私が『神兵達』ではない事が直ぐに分かると思うのだけれど……既に彼らからは『問答無用!』と言う雰囲気が漂っているのである。
……要は、今すぐに仕掛けて来る可能性があったのだ。
ただ、流石にそんな彼らの急な様子には『異変』も感じてしまったので、私は直ぐに彼らの身体を『探知』して調べてみる事にしたのである。
同時に、それらがもし『異変』ならば、原因として考えられるのは、『神兵達』の干渉を受けているのかもしれないと言う可能性と、対策はしたものの『私の魔力効果』が彼らにも影響し過ぎてしまった可能性などが考えられた。
……因みに、前者であれば『肉体的な変質』と『性質の変化』を、後者であれば『過剰な興奮状態』に伴う心肺機能の過剰な動きなどからも察知できるので、私はそれを視てみる事にしたのである──
「…………」
……だがそうすると、何かしらの『異変』が有るかもしれないと思って視た結果──分かったのは何も彼らの身体には大きな『異変』など起きては無い事だけだったのだ。
そして敢えて言うのならば、既に何かしらの戦闘があった後で彼らが気が立っている事と、その際の憤りのせいでここまで視野が狭くなっていて、かつ兵士達の冷静な判断能力を奪っている事に気づいたのである。
ただ、それを感じた時に同時に思ったのは、彼らからは『戦場に疲れた兵士達の独特の空気感』に近しい雰囲気も感じとったのだった。
──要は、彼らは私が考えるよりもずっと、物事に対して億劫になりかけていたのである。
その為、そんな彼らの瞳が映しているのは『敵か味方か』と言う事よりかは、考えるのも面倒だからと『脅威の排除』に集中しようと言う思いであり、集中するがあまり正常な判断能力に大きな偏りが出来ていたのであった……。
「…………」
もっと噛み砕いて言うなら……。
親しい者達が、気づけば『異形の存在』になっていたと言うのは、それだけの『ストレス』だったのだろう……。
彼らの様子を視た後──私は直ぐさま『サッ』とこの街の状況にも『探知』を使ってみたのだが、街の到る所には彼らと同じ様な状態になっている者達が沢山居る事も分かったのだった。
現状、この街には未だ『異形達』が暴れた様な破壊の跡が何カ所も残っているし、『神兵達』の動かなくなった焼け焦げの亡骸も多くは散見したままだった。
……そして、街に残る生存者達は誰も彼もが疲れた表情で必死に動き続けていたのである。
ただ、そんな姿から肉体的にも精神的にも街の住人達の疲労は限界に近しい事だけは言わずもがなであった……。
「…………」
……そしてそれは兵士達も同じだったのである。
目の前にいる彼らも──その鬼気迫る表情の裏にはそんな疲労が色濃く隠れていた。
……休みたいのに休めない環境と、いつまた起きるのかわからない不安、恐怖、そして絶望。
『異形の存在』は、彼らの心と身体を傷つけ続けていた。
……そしてその痛みと悲しみは、こんな私にも痛い程に伝わってくる位に深いものだったのである。
「…………」
辛かったのだ。おかしい状態をおかしいと思えない位に。
彼らはとっくに限界を超えていた。無理をし続けていたのだ。
それは『魔力を生成する』と言うだけでは、決して癒しきれない傷跡であった。
そして、そんな傷をつけてた『異形達』──その『神兵達が氾濫』する原因を作ったのは……。
誰でもない──この私だ……。
「…………」
……だから、それを自覚した時に、私は自然と『木のお面』を外していたのである──。
なんで私の『魔力生成』と言う『性質』に、こんな『特殊な効果』が付随していたのか……。
それがどこの誰の思惑によるものだったか……それは全然分からずにいたのだ……。
だが、この街の現状を視て、『きっとこのためだったのだろう』と、自然と私はそんな風に思えていたのである。
「……無理をさせる力ではない」
そして、『誰かを元気にする力』は『みんなを幸せにしてくれる力なのだ』と──あの日のエアの言葉が、自然と私の『心』を支えてくれたのだった……。
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