第332話 雨奇。
穏やかな日々を私達は過ごしていた。
ただ、もう季節の変わり目を感じる時分なので、もう少ししたら『大樹の森』へと帰ろうかとエアとも話をしている。
そろそろイベントの時期でもあるし、今回も早めに準備して精霊達に喜んで貰えるイベントにしていきたいと思う。
……しかし、そう思って帰りの準備をし始めていたのだが、不運にもその日から連日の長雨が降り続いてしまった。
まるで帰るなとでも言われている様な……はたまた楽しそうな私達の邪魔をしたいのか、どうにもお天気はご機嫌斜めである。
少し強めの雨は街を濡らし、気温は幾分か下がり落ち着いたけれど、その分若干ムシムシして湿気が多くなった。
私達魔法使いならば自らの周囲の環境を変えられるので大丈夫だが、街の人々は少々不快そうな顔をしている事が多いように見える。……まあ、こればかりは仕方がない。
でも『白銀の館』の中には『第三の大樹の森』がある為、そこを起点にこの屋敷の中の環境は常に快適に保たれているので居心地は悪くはなかった。
屋敷のみんなも居心地は良さそうに屋内で思い思いに過ごしてはいた……がやはり雨が続く為にどこかつまらなさそうな表情をしている者が多い。
そして私達も、雨の中を帰るのは少し億劫になった為に、エアやバウとも話をして晴れるまでは屋敷で過ごす事にした。
……そこで、詰まらなそうにしている屋敷の皆が元気になれそうな事を私達は密かに考え始めたのである。
──そうして、私達は皆が屋内で過ごしていても飽きがこない様に、少しでも元気になれればいいなと、雨の日でも出来る遊びを考えてそれを皆で試してみないかと提案してみたのであった。
「あのロムさん、これはその……なんですか?」
屋敷の皆には、木製で作った十センチ程の四角い立方体を一つずつ手渡している。
形的にはどれも同じ木製の少し大きなサイコロみたいなものであった。
そして、皆に一個ずつ手渡すと、その瞬間からその木製サイコロは──カシャン、カシャンと変形し、各自の雰囲気になんとなく似ている『小さなゴーレムくん』へと変形したのである。
変形し終わったゴーレムくん達は、各自の手のひらの上で『ご命令はなんでしょうか?』とでも言いたげに各自の主を見上げていた。……屋敷に居る子供達はそんなゴーレムくん達の変形を一目見ただけ、大喜びしている。どうやら気に入ってくれたらしい。
まだこれは遊びに入る前なのだけれど、既に喜んで貰えて嬉しく思う。
……ただ、老執事や大人達は困惑の方が強いようで、ゴーレムくん達を手のひらに乗せたまま固まっている為、早速私は説明をし始める事にした。
私は先ず屋敷の全員を大きな部屋へと集めると、その一室の中に魔法で運動場の様な特設フィールドを作ってから、皆には手に持っている自分達に似たゴーレムくん達をそのフィールドの上へと置いて貰うように告げる。
フィールドに入っているのはゴーレムくん達のみで、屋敷の皆はそのフィールドの周りから立ったまま観戦している状態であった。
「わーーッ!うごいたっ!!」
すると、そのゴーレムくん達を置いた瞬間から、ゴーレムくんと屋敷の皆の動きは多少連動する様になり、皆が動けばゴーレムくん達もそれを真似して動く様になったのだ。それに気づいた子供達の興奮が凄い高い。
因みに、連動するとは言っても完全に動きを真似ると言うよりは、主側が軽く足踏みをしたならそれを合図にゴーレムくん達が『ダダダダダー』とフィールドをある程度半自動で走り回ってくれる様な感じであった。細かい指示がある場合にはそれに従い、無い場合はゴーレムくん達が独自に判断して動いてくれる設定になっているのである。
屋内と言う事で皆はそこまで動き回る事が出来ないけれど、その分ゴーレムくん達が精一杯運動したり戦う様を見て楽しみ、時に指示しながら遊ぶと言う仕様になっているのだ。
精霊達のイベントの前練習も兼ねているので、何か参考になれば向こうでも活かそうと密かに思っていたりするのだが、それは私だけの秘密である。
……ただ、現状だとただの『精霊達のイベント』の模倣でしかない訳で、それはそれで見るだけでも楽しいとは思うが、折角ゴーレムくん達の姿を屋敷の皆の姿に似せた意味がなくなる為、今回はここに一捻り工夫を加えてみた。
と言うわけで、私はもう一つのお楽しみ要素として作っていた小さいゴーレムくん達専用装備を幾つも取りだし、その装備によって、各自のゴーレムくん達の能力は上がるようになっている事をみんなに説明していく。剣を装備すれば攻撃力上昇。盾を装備すれば防御力上昇。靴を履かせれば移動速度上昇……と言った感じになっているのだ。
そして、各種競技や戦い等を通して、こっちでも各自にはポイントが与えられて、そのポイントに応じて色々な特殊装備だったり、高品質の装備、又は着せ替え服等と交換できるようにしておいた。
そうする事で、みんなは各々好きな装備をゴーレムくん達に装備させて、各種競技に応じて装備を変更して貰ったり、自分で指示してもらって屋敷の皆にも楽しんで貰おうと思っているのである。
実際に皆が着ている服も私が自作し用意してあるので、着せ替えが終わったゴーレムくん達は先ほどよりも皆に似ていた。まるで小さな分身にも見える。
……そのおかげか、屋敷のみんなも段々と愛着が湧いてきたのか、既に何人かは真剣になって服や装備にも拘って選び始めていた。
ゴーレムくん達の基礎能力自体はどれも変わらないので、大人でも子供でも同様に楽しめるのが、この新遊戯『ドッペルゴーレム(仮)』の長所である。
みんな実際に各種競技を始めてみると、その結果に一喜一憂し、新しい装備を得る為に真剣に指示する様にもなって、段々と応援にも熱が入ってきた。
……因みに、今はご飯後の食休みと言う事もあって、丁度バウも一緒におり、エアもバウも揃って屋敷の皆と一緒に楽しそうに遊んでいる。
「ロムさん!これ、良いですね!ぜったいに、街の人達もハマると思いますよ!」
「同感。流石にこれほどの性能の物は俺たちじゃ作れないかもしれないけど、これは是非ともやってみたいな」
「ああ。今やってる魔法道具作りが終わったら、試してみたい。これはかなり奥が深いぞ」
「ああ。色んな装備品を作り、それに能力を付加させるだけでも……。それにこれ、色んな職人が参加できるな……」
「──ロムさん!これ、俺達も作ってみて良いですかっ!」
「あ、ああ。もちろん構わない。好きに作って楽しんで欲しい。もし街の人達に向けて作るのだとしたら、皆に一任するのでその時はよろしく頼む」
「はいっ!ありがとうございますっ!!」
……正直、私は雨で出歩けないみんなの暇潰しになってくれればと思っただけだったが、予想以上にみんなが熱中してくれたので、内心で驚いていた。
遊んだ屋敷の皆は大絶賛してくれて、お父さん達は職人としての血まで騒いだらしい。
面白くて彼らは思わず作りたくなってしまったらしいのだが、そこまで喜んで貰えたなら私達としても作った甲斐があったと言うものである。
何よりも、皆が楽しそうに笑ってくれているだけで、私達としても十分に満足だった。
「…………」
そして、ゴーレムくん達のフィールドの中には、よく見ると白い身体で頭の両横がちょこっとだけ三角に尖ったゴーレムも発見した。……いつの間に。確かあれは、いつだったかエアの座学でも登場した個体である。
そのゴーレムは不思議な事に、私が何も指示をしていないのにも関わらず、皆の装備を用意したり、服を作ったり、時に競技で問題が起きた際には『スタタタタ―』といち早く走り寄って他のゴーレムくん達の問題を解決したりしていた。
そんな機能まではつけていない筈なのだが、そのゴーレムはまるで私の様で……屋敷の皆もその姿を見ると、そのゴーレムと私を見比べて何かを納得するかの様にウンウンと微笑みを浮かべている。
私もそんなゴーレムを見ていて、『まあいいか』と思うようになった。
時々、私の作るゴーレム達はこういう事があるので、段々と慣れてきてしまったのである。
──結局、その後も遊戯の熱は冷めやらず、私達の遊技は夜遅くまで続き……そして、夜が明けても続いていた。
睡眠や食事を適度に挟んでは何度もフィールドへと集まり、連日の雨が降り止むまで、私達の楽しい時間は続いたのであった……。
またのお越しをお待ちしております。




