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鬼と歩む追憶の道。  作者: テテココ
320/790

第320話 延頸。



「皆さん、おかえりなさい」



 夜になって、私たちはこの里の代表者である男性の大きなお宅へと全員で挨拶にやって来た。

 青年達五人の中には彼の娘さんが一人いるので、青年達にとってもここは勝手知ったるお家らしい。



 彼は穏やかに迎え入れてくれた。聞けば、里は以前よりも大きくなり、冒険者達の中にもここに定住し始めた人達がいるので、前みたいに里の全員で、歓迎をする様な事が今回は出来なかったのだと言う。

 その事を彼は少し残念そう感じたのか、悲し気な表情を浮かべ『折角戻って来てくれたのに、この位の歓迎しか用意できなくて申し訳ない』と謝ろうとするのだが……大丈夫大丈夫。私たちも青年達も全く気にしていないのである。

 それに、既にこの家の中には青年達の家族が全員集合しているので、それだけでもう充分だと私達は思った。


 

 どちらかと言えば、里の近況の方にこそ興味がわいたので尋ねてみると、彼は『ギルドが色々と便宜も図ってくれたんですよ』と教えてくれる。

 最初は冒険者達が『里』にやって来ると言う事で、皆警戒はしていたらしいのだが、実際にここまで足を運んでくれたギルド職員が話の分かる人物で、『隠れ里』に最大限配慮してくれるように手配してくれたのだとか。


 だから、現状は状況的には全く悪くはないようだ。と言うか多少賑やかになった事で、『里』的にも近頃では大変良い雰囲気になったと感じているらしい。

 以前までは反対していた里の者達も、最近では受け入れる方に考え方が変わっているのだとか。



 実際、やって来てくれる冒険者達も素行の良い人や礼儀の正しい人ばかりで、荒々しい人はこの場所を知りたいと言ってもギルド側で派遣しない様にもしてくれているらしい。

 今の所はギルドと『里』の関係は良好、問題は一切なしだと彼は嬉しそうに語っていた。

 ……まあ、冒険者側である私たちとしても、それはなんとも嬉しい話だ。

 これから先もどうか上手くやって行って欲しいと思う。



「ただ、それとは別に、他の問題がありまして……」



 全部が上手くいっているのかと思いきや、どうやらそうでもないらしい……。

 聞けば、彼の心配事と言うか『里』や冒険者、そしてギルドの共通の悩みの種として、この地の『ダンジョン』が今、話題に上がっているのだと言う。



 なんでも、このダンジョンはやはり特殊過ぎるらしい。

 最近では特に『淀み』の増加も伴って、冒険者達は口を揃えてよく愚痴を零すようになったのだとか。



 因みにだが、この場所が上級のダンジョンである事はもはや間違いようがなく、ギルドでもちゃんと強く警戒されているようだ。



 それにここは、同じ場所を通るたびに現れる敵が異なったり、トラップとかの種類も毎回変化し、人が油断した瞬間を狙ってこようとする癖があるのだと、冒険者達の間でも有名らしい。


 更に、冒険者達の強さも判別しているのか、人によって毎回難易度は変わるし、出て来る宝箱などの報酬にも変化があり、高価な品物やポーションなどで冒険者の興味を引いては、次にまた足を運びたくなる様に仕向けている雰囲気を感じるそうだ。


 それも、前回と同じ場所に宝箱があったりすると、まんまとそれを開けた冒険者は思いがけないトラップに掛かったり大量の敵に襲われたりするので、なんとも嫌らしい場所なのだと言う。



 ただ、まるでなにか一つ一つ試している様な奇妙さがあり、時にかなり凶悪なトラップ等を仕掛けてくるのだが、その割には最後のトドメと言うか詰めだけは甘いらしく、どんな状況だろうと冒険者の命までは奪わないらしいのだ。どれだけ命がギリギリになるまで追い詰められようとも、最終的にはなんとか皆生き残って帰って来れているようだ。


 だが、誰も死んでない代わりに、このダンジョンに入って死にかけた事がない冒険者もまた居ないとまで言われているのだとか。

 そうして、命からがら何とか逃げてこられた高位冒険者達は、ちゃんとこの場所の危険性をギルドへと注意喚起してくれているらしい。


 この場所がギルドや冒険者達から警戒されるようになった理由もそう言う面かららしい。

 これを不幸中の幸いと言っていいのか分からないが、死者が出ない事が逆にこの場所の不気味さを上げているようだった。



 ……因みに、冒険者としては未熟な者程、どこかぞんざいな対応をされると言うか、まるで学ぶべきものが無いように無視される事が多いらしく、報酬もしょぼいし、適当なトラップに掛けて早々に追い返されるらしい。まるで『お前はもう来なくていい』と言われている様に感じたと言う冒険者も多かったとか。



 逆に、魔法使い達や特殊な技能を持っている者に対しては、執拗にトラップを仕掛けてきたり、何度も何度も敵を送り込まれたりするのだが、その分報酬は良く高価な物ばかりが手に入ると言うのが、最近の冒険者達の間でよく話されている熱い噂らしい。

 よって、ここのダンジョンに入る際には、魔法使いがパーティメンバーに一人以上は居て欲しいのだとか。



「…………」



 ……ふむ。まあ、なんとも不思議な事にはなっているが、あのダンジョンらしいと私はその話を聞いていて思った。

 『あのダンジョンは賢い』と私はかつてあの場所をそう評したが、それが良くわかる行動をしていると思ったのである。



「……それはどういうことですか?」



 里の代表者であるエルフの男性は、そんな私の言葉に首を傾げている。

 なぜ、あのダンジョンがそんな不思議な事になっているのか理由が全くわからないらしい。


 そして、それはギルドや冒険者達も同じなのだろう。

 だからこそ、危険だけれど死者を出さなかったり、まるで人を試すような事をして来るダンジョンに、皆不気味さを感じて警戒しているのだ。



 だがそれも、私とエアやエルフの青年達であれば、その訳にも簡単に思い至れるだろう。

 なにせ、私たちと青年達が出会った時、彼らは師である女性を『ダンジョンの死神』によって失った直後であり、その後に私が行った事を思い返せばその理由が簡単に想像できるからである。



 ──と言うのも、あの時、ダンジョンはそれまで備え続けていた力を用いて攻勢に出ようとする寸前の状態にあった。


 長い時間を掛けて少しずつダンジョンに『魔素だまり』を作り続け、『ダンジョンの死神』を密かに生み出し、それを使ってダンジョンの中に来る者達を倒そうと動き出したところでだったのである。


 そして、それによって青年達の師匠とも呼べる人物が彼らを守る為に命を落とす事になり、命を落とした彼らの師匠の身体を用いて、ダンジョンは青年達を倒そうとしていたのであった。



 だが、そこでたまたま私とエアが彼らと出会う事となり、少しの争いを経て彼らの師匠を浄化しきる事に成功したのだ。

 つまりは、それによってあのダンジョンの思惑は最初から一ついきなり頓挫したのである。


 それも話はそれだけで止まらず、あの後私と言う魔法使いにより、安全確認の為にダンジョンは隅々まで調べられ、必死に溜めていたであろう『淀み』や戦力であった筈の他の『ダンジョンの死神』は片っ端から消し去られてしまったのであった。



 それによって、ダンジョンの計画は一度完全にまっさらな状態へと戻ってしまったのである。

 恐らくだが、あの経験はダンジョンにとって危険を感じざるを得ない出来事になった筈なのだ。



 つまりは、ダンジョンは恐れたのである。私達、冒険者と言う存在を。

 そして、彼らの力を知る必要があると学んだのかもしれない。



 『でも、誰かを倒して(殺めて)しまうと、それより強い者がやって来るから、それをしない様に気を付けなければいけない』と。

 『それに、魔法使いと言う奴等は、『ダンジョンの死神』を倒してしまう様な危ない奴等だから、あの力に対処する為の方法を何か見つける必要があるだろう』と。



 だから、あのダンジョンは今、それらを学ぶまでは静に耐え忍び、冒険者達を殺めてしまわない様に気を付けつつ、魔法使い達が何が出来て何が出来ないのかを必死に学んでいる最中……なのだろう。


 そして、完全にその学習が終わった時には、きっとまた牙を剥いて来るつもりなのだ……と思われる。


 ……まあ、これらは全て私の勝手な想像でしかないが、あの『賢いダンジョン』ならばそれ位はやって来るだろうと言う、そんな予感がした。




「そ、そんなダンジョンが本当にあるんですか!?」




 『ダンジョンとはそこまで思考するものなのか』と驚く皆に対して、私は『あの場所ならば、まず間違いないだろう』と頷きを返したのであった。





またのお越しをお待ちしております。

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