第294話 好誼。
『第五の大樹の森』となった『空飛ぶ大地』はこのまま私が魔力で動かし続け、各地へと向けて巡回させるように運ぶ事にした。
この大地に元々掛けられていた『不思議な力』は今ある場所に留まり続け『浮く事』に特化しているらしい。
なので、私の魔力で水平に押してあげる位ならば比較的簡単に熟す事が出来たのであった。
その間、他の『大樹の森』と同様に『空飛ぶ大地』の管理は精霊達が引き受けてくれると言う事なので、今回も頼む事にしている。……と言うか、彼らからは『旦那、是非ともここも俺達に任せてください!お願いしますッ!』と強くお願い受けてしまったのであった。
当然、私はそれに即答で了承をしたのである。
……聞けば、精霊達にとってもこの『空飛ぶ大地』は他所の『大樹の森』以上に大切な場所になるだろうという話で、かつての『原初』が各『里』の交流地であったのと同様に、精霊達にとって『再誕』が同じ様な役割を担ってくれる様になるのだとか。
どうしても自分達の『領域』から離れる事ができない精霊達にとっては、この上ない『救いの地』となるだろうからと、彼らは皆喜んでくれたのである。
元はただただ『友二人を喜ばせたい』と言う、そんなありきたりで手前勝手な理由で作っただけに過ぎないこの場所ではあったが、思っていた以上に多くの者達に喜ばれる場所となりそうで、頑張って作った私達としても嬉しく感じてしまった。
……そう言う訳で、この地の事は精霊達に任せておき、一方で私たちはこれまでとはまた違った『別の旅』に出る為の準備をする事にしたのである。
その為に、一度最初の『大樹の森』へと戻る事にしたのであった。
ただまあ、『別の旅』とは言ったのだが、簡単に言うなれば『今までの旅で辿って来た場所をもう今一度巡ってみる』と言う計画である。
その目的としては、そうする事でこれまで巡って来て各地で出会ってきた色々な人達に再び会いに行ってその様子を見たり話をしたりお土産を渡したりして、更に関係を深めようと言うそんなのんびりとした旅路なのであった。
要は、簡単に言うと、今回私が友二人に会いに来た様に、エアの友にも会いに行こうと言うそんな話だ。
もちろん、私たちの本来の旅もまだまだ終わったわけではない。
個人的には、私はエアにはもっと色々な世界を見て欲しいと思っているし、一緒に行って目にしたい場所や環境はまだまだ数多くあるのである。
だが、そんな新たな旅をして何か新たなる発見をする事も大事だけれど、ここらへんで一旦、今までエアが見て来たものを少しだけ見つめ直す時間を設けてあげたくなったのであった。
常に前ばかりを見て歩いていると、何かを零してしまっているかもしれない。
何を見落としてしまっているのか気付かないかもしれない。
そんな時に、一度ゆっくりと振り返って見つめ直す事で、また違って見える部分があるかもしれない。
それは新たなる発見を得るのと同じく、とても大事なものである。
何かを学び、それを復習してちゃんと自分の知識として定着させるように、エアがこれまでの旅で得たものを、確りと認識する為の時間なのであった。
エアは、久しぶりに友二人と会った私達を見て、『素直に羨ましい』と思ったそうだ。
だが、そんなエアにもちゃんと、これまでの旅や多くの人との関わり合いの中で、似た様な機会を沢山得て来た筈なのである。
時として、人と人の関係とは時間の長さ以上にどういう関係を結んだかの方が重要となる事が多くあるものだ。
正直言って私と友二人も、そこまでしょっちゅう会っているわけではなくとも、いつまでも変わらず不思議と深い仲なのである。
……まあ、当然私達三人の結んだ関係がそれほど特殊で複雑な部分がある事は認めよう。
だが、一度会ったら次に再会するまで五十年以上かかったりする私達なので、やはり大事なのは『付き合った時間の長さよりも、その相手との関係を自分がどの様にしたいと思い行動するかの方が重要だ』と私はエアにも語った。
エアが大切にしたいと思った関係であるならば、ちゃんと繋がりは消えず残っているものなのだと。
もちろん、日々の生活が忙しかったり、離れている時間が長すぎて忘れてしまっている思い出や約束事も多いだろう。
もしかしたら、全く覚えてなかったり、間違って覚えていたり、必要以上に美化してしまっている事もあるかもしれない。
……だが、それでも良いのだと。
どういう関係でありたいのかをちゃんと見失わなければそれでいいと。
大切にしたいと想い合えれば、気づいた時には自然に接すことが出来ているものなのである。
エアが『羨ましい』とまで言ってくれた私と友二人の関係も、実際はそんな感じであった。
私は自分の経験を通してそう語ったわけなのだが、これが誰にでも上手く当て嵌まるかと問われれば、当然そうであるとは限らない。
絶対などはないので、もちろん、時には失敗する事もあるだろう。
……いや、どちらかと言えば、物事はままならぬものだし、上手くいく事の方が少ないかもしれない。
──だがそれでも、完全に立ち止まる事だけは私はしてはいけないと思う。
エアも最初は『わたしにも、ロム達みたいなそんな深い関係になれる人が居るのかなぁ……』と不安そうにしていた。
エアはこれまでの旅で親しくなった人は数多いけれど、その人達とそこまで深い関係になれていたかと考えた時に、否定しがちになってしまったのである。
『たった数日の間だけの友人みたいな関係だったし、そこまでの深い関係とは言えないよね』とか。
『思い出って言ってもそんなにないし、仲良いかもって思ってたのも私だけだったかもしれない』と。
──だが、そんな風に心配していたエアの不安も、準備を終えた私達が旅に出て、再び最初の街に到着するまでの事であった。
以前に、冒険者になる為に私達がやって来た最初に訪れた街。
そこへと辿り着いて早々に、偶然道端でとある『子供連れのお母さん』と目が合うと、エアは一瞬で笑顔へと変わり彼女へと駆け寄っていったのである。
小さい子供を二人連れたそのお母さんの方も、駆け寄って来るエアの事に一目で気づいたらしく、二人は一瞬でかつてと何一つ変わらぬ騒がしさで楽しそうに語りだしていた。
……どうやらかつての『自称情報通の少女』も、今や立派なお母さんになっていた様である。
『羨ましい』と言って、不安がっていたエアの姿はそこにはもうなかった。
それは、互いに一目で笑顔になり合える相手が、エアにもちゃんと居たと言う事である。
……まあ、そこまで心配はしてなかったが、やはりエアの方が私などよりも余程に社交的であった。
それに、それだけエアが彼女との関係を大事にしたいと想っている証拠でもあると、私はちゃんと理解している。適当な付き合い方をしているだけでは、ここまでの関係性には中々なれぬものだからだ。
ただ、不安になっていたエアにとっては、その関係性はきっと希薄に感じて、見失いかけつつあるほど弱いものであった事も確かではあった。
だから、来て良かったと思う。
……そして、エアがそれらを見失わなくて良かったと、心から思った。
この経験は、きっとエアにとって言葉に出来ない大切なものとなってくれるだろう。
……それをどうか、いつまでも忘れないで欲しいと私は思ったのであった。
嬉しそうに笑い合うエア達の姿を横目に、私は何故か人見知り一つすることなくトコトコと近寄ってきた小さな子供達の面倒を見続けている。
……ん?おんぶが良いのか?違う?抱っこ?よしよし、来なさい。おっと、私の背中にいる白い糸目のプニプニドラゴンは、ただのぬいぐるみだからな。そうそう、あまり引っ張ってはダメだぞ。叩いたら痛いからな、優しくなでてあげると喜ぶと思うぞ。
またのお越しをお待ちしております。




