第292話 鳳雛。
「……それではこの場所が森にまで育ったら、またこの地に来るとしよう。それまでは元気で。また会おう友よ」
「……ああ、それはわかったんだが、ロム、お前、この倒れたままのティリアはどうするつもりなんだ?」
「もちろん君に任せる。がんばってくれ」
「…………」
友の腕の中にはぐったりとして、気絶した状態で友(淑女)が眠っていた。
スヤスヤと静かに眠る姿だけを見れば、これほどまでに可憐な人もそうはないだろうと思う。
……まあ、どちらかと言えば普段は元気が良すぎるので、棘が多めの薔薇の様な人である。
そして、一方そんな友(淑女)を気絶させた張本人であるエアは、髪を綺麗な『緑色』に染めており、少し宙に浮かんだ状態でこちらを見ていた。
その髪を珍しい『ガーベラ・ポコロコ』の花の様なその綺麗な緑色へと変えて、『前進』と言う花言葉がよく示す通りに戦い方で勝負はあっという間に決着し、エアは私へと向けて無邪気な笑みを見せている。
因みに、今回二人が急に戦う事になったのは両者の希望通りであっただけの話で、突然喧嘩が始まったとかではないので安心して貰いたい。
ただ、流石の友(淑女)もエアがここまで強いとは思っておらず驚いた事だろう。
友も呆気なくも勝負がついた事に目を見開いて驚いていたのであった。
あと言うまでも無いかもしれないが、本当に友(淑女)はエアの事を随分と気に入ってくれたらしい。
ただ、それがどうして最終的に『魔法戦をしよう』となるのかは分からないが、二人は何らかの話し合いを終えて戻ってくると、『これから私達ちょっと魔法戦をするから、ロムは審判してて』と言ってきたのであった。
『……え?なんで急にあの子と魔法戦をやるのかって?……べつに、理由なんてなんだっていいじゃない?まあ、敢えて言うのならば『魔法使いエフロム』の弟子ってどこくらいの力を持っていればいいのかなーって気になってだけね。わたしの方からあの子に少し力を見せて欲しいってお願いしたの。喧嘩したわけでもないから安心して。わたしも一魔法使いとして、知っておきたい事があったのよ。……ダメ?ダメなの?何か文句あるの?ないでしょ?ねっ!良しッ!分かればいいわっ!』……と言う話だったのだ。
友(淑女)が今回、エアと魔法戦をしてみたいその理由とやらに私は最初首を傾げかけたが、その話の途中で恐らくは彼女が今の自分の力を知る為の良い相手として、エアを抜擢したのだろうと私は気づいた。
要は、お互いの力を測るならばぶつかってみればいいの精神であり、相手の事を練習相手として丁度良いと判断したが故に、魔法戦をしてみたくなったのだろうと何となく察っしたのである。
……確証はあまりないのだが、昔からの経験と言うか、こういう時の有無を言わせぬ彼女の雰囲気を感じて私はそう思ったのだ。
正直言って、普通に暮らす分だけでは、国の要人でもある友や友(淑女)は中々にエアみたいな強者と戦ってみる機会もないのだろうと思う。
だから、この機会に出来る事はやっておきたい気分なのだろうと察した。
エアはきっと良き訓練相手として目を付けられた訳である。
だがまあ、心優しきエアは魔法戦をしたい友(淑女)のその気持ちを酌んでくれたようで、笑顔でああして付き合ってくれていると言うわけなのだろう。……やはり女神か。
……だが、そうまで思い至ると、なんとも水臭い話であると思った。
対戦相手が欲しいのならば、私に言ってくれれば、幾らでも相手になったのだが──
「──ロムっ!わたしも、少しだけやってみたいっ!」
──そうかそうか。
まあ、エアが笑顔でそこまで言うのならばと、私としては止める理由はなくなりエアに任せる事にしたのである。
……友(淑女)をどうかよろしく頼む。
それからエア自身も是非とも楽しんで欲しいと私は思った。
「…………」
──とまあ、結果的な部分をみれば、その先はもうわかってしまったとは思うが、戦力的にはあまりそこまで差が無かった筈なのにも関わらず、友(淑女)はエアの最初の一撃に対処する事が出来なかった為に気絶してしまったのであった。
もう少し詳しく説明するのならば、エアは最初から全力で『天元』に風の魔素をちゃんと通しており、『弓』を使う相手と言う事を事前に知っていたので一気に近付いて、お腹をドゴンと蹴っただけである。
そして、友(淑女)はそれを避ける事ができなかったのだ。
私が視るに、戦力的にはそこまで離れている訳でも無いと思っていたのだが、友(淑女)が国の中で暮らしている中でだいぶ感覚が鈍っていたのか、予想以上に速かったエアに対処が全然できていなかったのであった。
この前私に攻撃してきた『超短白弓』の威力は増してはいたし、恐らくは彼女も総合的な戦力は成長してはいたのだろうが、現役で毎日頑張っているエアとは少しだけ『力の出し方』が異なっていたのだ。
友(淑女)は暫く見ない間に随分と『スロースターター』になってしまっていたらしい……まあ、しょうがない事だろう。
久しく自分で戦場に立つような事をしていなかったのだろうと思われるし、この結果はある種当然の事だ。
まあ油断があったのは明白だし、準備を怠った彼女の責任でもある。
……うむ、なんだかんだとは言ったが、今回ばかりはどの面を鑑みても、流石に友(淑女)が悪い。
魔法戦をやるのは良いが、遊びではないのだ。もっと真剣にやって貰わねば困る。エアの訓練にもならない。是非とも出直してきて欲しいものだ。
因みにだが、更に補足いておくと、エアにお腹を蹴られた友(淑女)は、それだけで己の魔力防御も貫かれてしまい、下手したら危険な事になりかけていたので、私が咄嗟に回復を施しておいたりもする。
敢えて衝撃までは何も手を施さなかったので、蹴り一発で友の方まで飛んで行ってしまったのだが、そこは補佐役が確りしていた為にちゃんと受け止めてくれたので、更なる大事には至らなかったようだ。
……何か雑念があったのかは分からないが、どうにも彼女らしくない一戦であったと私は思った。
「……強いな」
流石に、一撃で終わらせたエアの強さには補佐役である友もかなり驚いていた。……そうなんです。うちの子凄いんです。もっと褒めてくださっても構いません。
……因みに、エアの方もまさか一撃で終わるとは思っておらず驚いていたわけなのだが、これはエアの感覚の方が正しいので、後でちゃんと説明だけはしておきたいと思う。
まあ、これで勘違いし傲慢になる様な子ではないとは知っているので、一応補足の様なものと、もし彼女がこういう戦い方をして来たらエアも危なかったと教えながら、更にその対処を本人に考えさせるという方法を取ろうと考えていた。
もし友(淑女)が油断せず、最初から完全に距離を一定に以上に接近させない様に立ち回りつつ『超短白弓』を使用していれば、まだまだエアには対処が難しい戦いになっただろうと私は予想したのである。
もちろん、対処ができないわけではなく難しいだけなので、上手くすればエアの方が勝ち目は当然大きかっただろうとは思うが、そう言う色々な戦場を経験しておく事で冒険者としての幅も広がるので、是非とも成長の糧にして欲しいと思った。
まあ、何にしても当初の予定である友二人を招く事も終えたし、予定外の魔法戦も終わったので、目的を達した私達はそろそろ帰ろうかと思う。何気に、そろそろ急がねばいけないとある問題が発生しかねないのだ。
……と言う訳で、私は友『レイオス』へとその事を伝えると、冒頭の通りに別れの挨拶をし始めたのである。
『それじゃあ、私達はお暇する事としようか』と。
──だが、そうすると、いきなり私の白いローブをいきなり──ガシッと強く掴む者が居た。
「──えっ!?ロム、もう行っちゃうのっ!!」
……ただ、それはエアでもバウでもなかったのである。
「そうだぞロム。そんなに急ぐことはないだろう。そちらのお嬢さんもそう言っている事だし、きっと『ティリア』も目が覚めたら二人に挨拶したいだろう。そうだ、良かったら今度はこちらの国の王城に招待するので是非ともそちらで──」
……友であった。
「──いやいやいやいや、なんとも有難いお誘いだが、私達はここらで失礼させて貰う。エア、エアもよく聴いて欲しい。もう少し居たい気持ちもわかる。だが、私達の冒険はまだまだ途中でこの先も続くのだ。この二人にもまたいつか会いに戻ってくればいいだろう。ここらで一旦、私達も拠点に帰る必要があると思うのだが、どうだろう?エアもそう思わないか?」
「う、うん??」
「ほうっ!それはつまり疲れたと言う事か!それならば、是非ともうちで休んでいくと良い!旨い食事や酒や果物、何でも用意しようじゃないか!それと安眠間違いなしの王城の特別なベットも提供しよう!」
「いやいやいやいや、それには遠く及ばない。ほら見てくれ、この『空飛ぶ大地』には数多くの宿泊施設があるのだ。ここに泊まれば何も問題はないのである」
「んー???」
「行くな!居ろっ!俺一人にこいつのこの後の対処を押し付けて逃げるなっ!ロム!俺達は友だろうっ!」
「嫌だ!断らせてくれ!帰らせろっ!魔法で運んでやるから君は友(淑女)を連れてそろそろ国に帰り給えっ!」
「????」
──そうして、困り顔のエアが首を傾げて不思議そうに見つめる中、私と友は急に始まったその押し問答をひたすら繰り返し続けるのであった。
彼女が目覚めるまで……。
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