第226話 玄通。
三人の盗賊達が襲い掛かって来た。
この九日間の内に彼らは密かに武器の代わりになりそうな木の枝を拾っていたらしく、それを手に走って来る。
それもどうやら三人共に、やはり狙いはエアの持っているお気に入りの古かばんと、エアに抱っこされたままのバウらしく、エアはそんな三人の狙いを知っているのを悟られない様に少し驚いた表情をしつつ、代わる代わるの攻撃を難無くかわし続けていた。……因みに、バウは今エアに抱っこされている状態だが全然平気そうである。
私はそんな光景を見ながら邪魔をしない様に少しだけ距離を取った。
正直言って、私はこの状況ををあまり見ていたいとは思っていない。ハラハラするからだ。
本来ならば魔法で直ぐに終わらせてしまえればと思う。
──だがしかし、今回はこれは全部エアの計画の内でもあるので、私は手出し無用らしい。
「──ねえ、ロム?あの三人って盗賊なんでしょっ?いつもなら魔法にかけて街にいる兵士さんの所に行って貰うのに、今回はどうしたの?」
盗賊組三人と出会って数日経った時、彼らが『少し用を足したいので時間をください』と言い、森で武器になりそうな木の枝を探している際に、エアは不思議そうに私へとそう尋ねて来た。……因みに、彼らの動向は魔力で探知し続けているので、逃げ出そうとすれば直ぐに分かる様にしている。
彼らが盗賊である事は私も重々承知してはいるのだが、今回のはなんと説明してよいやら私は少し迷っていた……。
それと言うのも、上手く言葉にして説明し難いのだが、彼らは一般的な盗賊共とは少し違う様に見えてしまったのだ。
それは最初倒れている三人を見つけた時からの事で、彼らはお互いを守るかのように寄添っていたのが印象的だったことから始まる。
現状も、森の中で武器になりそうな木を拾っている今も、必死にどうにかしようと『想い合い、考え合い、歩み続けている』そんな彼らを見ている内に、なんとも放っておけないと感じてしまうのだ。
彼らの目的が、その内私達を倒して身包みを剥ぐだろうことは、なんとなく想像はできていた。
どんな建前があろうとも盗賊達の考える事は大体盗むか奪うかであるので、そこは間違えたりはしない。
だが、そう読めてはいたものの、彼らはなんとも真っ直ぐで、温かく、素直で、正直に言えばそこまで嫌いな者達じゃなかったのであった。……もっと言えば、気に入ってしまっていたとも言える。
環境が人に与える影響と言うのはとても大きい。
彼らの身体を傷跡から、彼らの置かれたその環境はとても苦しいもので悲しいものだった筈である。
だが、そんな逆境の中でもあれだけの真っ直ぐさで必死に生きようとする姿は、同じ冒険者として肩を並べたいと思えるほどに素晴らしい資質だと思った。
だから、私の思惑としては、彼らに出来る事ならば冒険者になって欲しかったのである。
盗賊の中には嘘の肩書として冒険者の資格を持っている者も昔から少なくないが、そんな片手間な冒険者ではなく、完全に盗賊を止めて、冒険者一本に絞って生きてくれないだろうかと思ってしまったのである。
「そんなに資質があると思ったの?」
「ああ。きっと良い冒険者になってくれるんじゃないかと思う」
根拠はほぼほぼない。ここ数日見ただけの、彼らの雰囲気からそんな気がしたというだけであった。
今も魔力の探知で探ってみた所、私達を襲う計画を話し合っているみたいなのだが、事前に敵の戦力を把握し、こういう隙を付ければどうにかなるのではないかと真剣に話し合っている姿がなんともそれっぽい。
それに、どうやら最初はこちらの情に訴えかける演技をして、私達に隙を作り、そこを密かに準備した木の枝でエアを襲ってバウを人質にし、私の身動きを封じて、価値のありそうなエアの古カバンと、地学竜の子供であるバウを攫って逃げる……という計画らしいのだ。
そのなんとも泥臭い感じとか、それぞれの役割分担と言うか、雰囲気と言うか、なんか古き良き冒険者達の姿を見ている気分になって、懐かしさを感じてしまっている私なのである。
だから、本当に盗賊にしておくには勿体ないと思ってしまった。
ただ、それで私があれこれと手を貸し過ぎるのはまた違う話だろう。
それにやる気のないものに務まる程冒険者も楽なものではないし、冒険者としてのやる気を彼らに出させる方法も私は分からない。
だから結局は、彼らが興味を持ってくれるのを待つしかないのだ。
という事で、私は密かに夜営の準備とかアピールしてみてみたり、焚火番とか率先してやってみせたりした。
あまり効果は無かったけれど、彼らが夜に温かくして眠れることを喜んでくれていた事はわかり、お腹いっぱいになってついつい寝すぎてしまった彼らを微笑ましく想ったりもした。
彼らは申し訳なさそうにしていたけれど、それ位は何も大した問題ではないのだ。
ゆっくりと寝て欲しいし、沢山食べて欲しい。
身体が資本なのだから、体調管理に気を付けて、風邪をひかない様に温かくして眠って欲しかった。
「ふ~~ん」
もちろん、これで都合よく『冒険者になりたい』とまで心変わりしてくれるとは思わないけれど、してくれたらいいなとそんな小さな期待があったのである。
……だが、それと同時に、彼らの襲撃計画も進んでいる事も把握できていたので、可能性は低いだろうとは思っていた。
彼らは盗賊としてしか自分達を見ていない。それしか生き方が無いとでも言いたいかのようである。
それに『仕える』とか『奴隷』とかそんな風になるとは言ってくれても、自分達から私達と肩を並べて『冒険者になりたい』とまでは言ってくれそうになかった。
このまま彼らの計画が進めば、間違いなく襲って来るだろう。
そうなれば流石に、襲い掛かられた盗賊を捕まえないわけにはいかないので、その時が来た時には捕まえて消し去るか、まやかしでもかけて兵士の所に行って貰わなければいけないのだが……そんな事がなければいいなとは密かに思っていたりもしている。
「ふ~~~~~~~~ん」
だが、結局はそんな密かな想いは届かず。
もう二日後には街に着くかという距離になって、じゃあその前には襲撃計画を実行しようとする彼らのやり取りを把握してしまい、私は少しだけ残念に思ったのであった。
「じゃあ、ロムッ!今回はわたしに彼らの相手を任せて欲しいっ!……だめっ?」
すると、そんな私の残念そうな顔を見分けたのか、エアは『ふんす!』と気合を入れて私の名を呼ぶと、私にそう尋ねて来た。
それによると、彼らがもし襲い掛かって来る事があれば、今回は私は手を出さずエアに対処を任せて欲しいと言うのである。
そりゃ勿論、エアの力を私は信じているし、彼らがエアを傷つけられるとは思っていないが、それでもエアにだけ対処をお願いするのは……「お願い!がんばるからっ!」……ふむ。分かった。任せよう。
ただ、どうにも収拾がつかなかった時にだけは手を出す事を条件に告げて、彼らの相手はエアがする事になったのであった。
──と、いうのが、ここまでの流れである。
つまりは全部予想通り、彼が何の話をして私達の精神的隙を作り出すのかまでは分からなかったが、彼の話一つでそんな隙を晒すような私達ではなく……彼らはゆっくりとだが確実にエアにボコボコにされ続けていた。
「さっきの話、何が言いたいのか全然分かんなかった。『持ってる者』って何?『持ってない』って何?誰が決めてるの、そんな事」
「ぐぁっ」
「結局は、そう言うのって自分でしょ?やるか、やらないかを決めているのは自分。もちろん相性はあるよ?世の中に全部が得意な人なんて居ないから。ロムにだって『お料理』は全然できないんだし。みんな同じ。自分に出来る事をがんばるしかないんだよ?」
「ぐぼっ」
「それに、あなた達、ハッキリ言って盗賊しか生きる道がないって言ってたけど……ごめんね、凄く弱い。どれだけ辛い思いをして来て、それをやって来たのかは分からないけど、たぶんロムにとっての『お料理』と一緒だよ。相性が良くないんだと思う」
「かっ、勝手な事言わないで……私達にはこれ以外の生き方なんて……」
「あるよ。あなた達の生き方。もっと良いのがあるって。凄い魔法使いが一目でそれを見つけてくれたよ。あなた達はそれならば凄い素質があるだろうって。勿体ないって言ってたよ。……私だって言われた事ないのに。まったく……ぶつぶつぶつ」
「あがががが」
「ぐわあああ」
「きゃあああ」
それからは八つ当たり気味にエアは木の枝を全部二つ折りにへし折っていき、ポコポコと三人を殴って気絶させると、はぁーっと大きくため息を吐くのであった。
『うんっ、三人共。ただの訓練不足だよ。これから頑張りなさい!』と、エアは倒れた三人に声を掛けると、私に終わったと合図を送って来て、今日の夜営の準備をし始める。今日は此処で寝る様だ。
「…………」
あれ?私って、エアに冒険者としての素質があるって言った事がなかっただろうか……。
言った事はあった気はしたけれど、気のせいだったのかもしれない……。
──という事で私は、夜営の準備が終わったら、ちゃんとエアには誰よりも冒険者としての素晴らしい素質があるという事を絶対に伝えようと思うのであった。
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