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鬼と歩む追憶の道。  作者: テテココ
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第219話 風雲。



 浄化教会の二人に、聖人と言われている友の『少し恥ずかしいエピソード』と『少し良かったエピソード』を話すと、何とかお帰り頂く事が出来た。



 ……因みに、少し恥ずかしい話の方は彼が噂話を自分で流していた話の一部抜粋で、良かった話の方は彼が最初から最後まで信念を持ち続けて浄化をし続けていた事を、私が実際に見ていたという生きた証言である。


 こういう昔の偉人の逸話などは、どこからどこまでが本当かわからなかったりするので、それが正しいものであるという事を証明するのは、教会側である二人にとっても大層喜ばしい事であるようだった。


 『後日また来ます』と言う不穏な言葉を残して彼らは去っては行ったけれど、良かったらもう二度と来ないで欲しいものである……。




 さて、そんな教会信者二人とのやり取りが終わったかと思えば、それで終わりという訳でも無く。

 今度は家の中で私に対する質問会が始まったのであった。


 『ロムさんがあの泥の魔獣だったんですかっ!?』と言う質問から始まり、各々が聞きたい事をこの際だからと何でも聞いて来たのである。まあ、答えられる事であれば私も吝かではないので全部答えるつもりだった。



 それにしても、『泥の魔獣を改心させた話』と言うのは本当に有名らしく、どの地域の子供でも、親が子に子守唄代わりで話し聞かせる童話の類の扱いをされていると聞いて私も驚いてしまう。浄化教会の影響力の強さは馬鹿に出来ないものがあるらしい。



 『なんで泥の魔獣って呼ばれちゃったの?』と尋ねられた時には、私は呼ばれる方だったので正確にはわからなかったのだが、なんとなくで『昔から冒険者として、野山を駆け巡っていて汚かったからだろう』と答えた。


 今でこそ普通の格好をしているけれど、当時は魔力にもまだ余裕が無く、浄化を使うまでの技量も無かった。

 私は人よりも劣るただの魔法使いで、ろくに武器も振れず、ただただ逃げ回っているばかりの存在だったのだと言うと、屋敷の皆はその言葉にすら驚いてくれる。



 『そんな風には思えないですけど……』と、彼らにそう言って貰えるだけで、私は少し嬉しかった。


 ただ、あまりにも信じて貰えなかったので、遂には『雷石改六』と『雷石付属式──懐皮紙改』を取り出して、皆にその当時の私の視ていた光景の一部を焼き付けて見せるという、突発的な鑑賞会も始まる。


 相手は当然、羽トカゲであり、そんな羽トカゲの攻撃から逃げ続け命からがら街へと帰り、トゥオーから嫌な顔をされて浄化をかけられるまでを見せると、皆とても楽しそうに見ていた。


 全員で見れるように立体的に浮き上がって見える様にしたその魔法道具の光景は、中々に臨場感もあったようで、既に話を知っている筈のエアも子供達と一緒になって見ながら瞳を輝かせている。



 エルフの青年達は昔の羽トカゲの異様や強さに驚き、私の逃げ方に感心したりして、お父さん方はその光景に驚きはすれど、それよりも魔法道具の成果に満足そうな顔をしていた。



 老執事や女中少女、お母さん達は純粋に驚きが高い。

 彼らは時々、エルフの青年達が剣闘場で戦っている姿を観戦し、応援したりはしてきたけれど、街の外で冒険者達がこんな戦いをしているのかと言うのは初めて見たらしく、私が何とか羽トカゲから逃げきれた時には、ついつい感情移入もしてしまったのか『逃げきれて本当に良かった……』と涙ぐんでしまう人さえいたのである。……なんか、過去の話とは言え、心配をかけてしまったようで本当にすまなかった。



 



「ロムさん、やっぱこの魔法道具は凄いですね。これがあれば、もっと色々な人達が戦いや技術の継承に使えますよ。きっと、みんなの助けにもなる。ロムさん、これどうしますか?」



 お父さん達は優秀かつとても優しい方々だ。

 彼らは今、とてもいい笑顔をしている。


 彼らはこの魔法道具の利点を正しく理解できている。これは素晴らしいものだと、確信もしていた。

 きっとこれは正しく使えば、とてもいい魔法道具として認知され評価され、使用される事であろう。


 彼らは誰かの為になる道具を、人の喜びに繋がる道具を作る事を求めている。

 それは、彼らが以前に辛い状況にあって、好きに物作りが出来なかった事が影響していた。


 だから本来ならば、これは作ったらそのまま商業ギルドなどで好きに売りに出したい筈なのである。

 ただ、これは同時にかなり危うい道具にもなり得る事を彼らはちゃんと理解もしていたのだろう。



 私に向かって『どうしますか?』と聞いてきているのは、『これを作って売りだしたらどうなると思うか?』と尋ねてきているのと同義であった。

 


「そうだな。先ず間違いなく、本来の意図とは違う使い方をされるようにはなるだろう」


「……やはり、そうですよね」



 私がお父さん達の質問にはっきりと自分の考えを返答する。

 やがてこの道具が悪用されて争いなどに使われる事は目に見えているだろう。考えるまでもない。



「だが、それでいいのではないか?」 


「……いいんでしょうか、誰かを傷つけ、悲しませる事になりませんか?」



 本来の目的と違う用途で使うのは使い手の問題だ。彼らは悪くない。

 職人であるお父さん達にとって、これは誰かを幸せにするための道具だ。

 だから、これが悪用されたりするのは不本意であり、誰かを傷つけ悲しませる事に使われるのは許せない気持ちになるのだろう。


 そこに込められた想いは純粋なもので、凄く尊いものだ。

 それに道具を悪用した者達の責任までは、職人である彼らには無いと私も思う。だから、そう答えた。


 だが、どうにもお父さん達は悩んでいる様に見える。

 ……そうだな。では一つ、こんな話をしようか。



 かつて、魔法がまだ乱雑に使用されていた頃の、魔法使いの世界では有名な話。

 これは、大衆向けの『詠唱』を体系立てて作り上げようと奮起した者達の話だ。


 そう長い話じゃない。

 彼らは人々の為を想って、『詠唱』と言う技術を作りあげた。

 それによって、人々の生活は少し良くなり、喜ぶ人は増えた。

 だが、同時に、その技は戦争で使われる事になり、数多くの人々を悲しませた。



「…………」



 その結果、その者達は、数多くの者達から様々な汚名を着せられる事になる。

 『お前たちがその技術を生み出したから人が死んだ……』と言われ、その後の争いによって、実際に彼らは自分達が作りあげたその技術で、自分達の大切な人まで失ったりもしている。



 だが、それでも彼らは大衆が少しでも喜べばと思い『詠唱』と言う技術を作り上げた事を、その想いを、最後まで誇りに持ち続けた。


 その誇りを自ら曲げてしまえば、それこそ何の為に生み出されたのかわからなくなる。

 本当にただの人殺しの為の技術になってしまう。



 それだけは許せなかった。そんな事は彼らには出来なかった。

 その技術に込められた自分達の願いや想い、それら全てを汚し否定する事は出来なかった。


 彼らはそれを信じていたからだ。これは必ず人の為になる物であると。



 そして、長い年月をかけて、その想いと評価は段々と変化していった。

 それには長い時間がかかったけれど、彼らの死後、『詠唱』という技術は、大衆に認められた。

 人々はその技術に頼り、喜び、そして感謝している。


 今の世で、『詠唱』がどう扱われているかを見れば、皆にもそれもすぐに分かると思う。



「──だから、君達も信じるといい。自分達が作り上げた物を」


「ロムさん……」



 極論だが、悪用された時の事なんかは考えなくていい。その時はその時だ。

 『俺は俺の好きな様にやっただけの事だ』と強く胸を張っていてくれ。

 これが人の為になると信じていると想っていて欲しい。



 私は君達にこれからも前を向き続けていって欲しいと思っている。

 人を幸せにする道具を作り、自分達も幸せになっていって欲しいのだ。

 だから、その為の手伝いは私がしよう。



 ほんの少しの手助けにしかならないが、先ずは道具自体にも契約をかけておこうか。

 君達はこの道具を作った者達として、代わりに私と約束をして想いを込めて欲しい。


 そうしたら私は、『これは製作者の想いに準じ、その為に存在する魔法道具であれ』と、契約を結んでおこうと思う。



「そんな事が出来るのですか!」



 正直な話、おまじないの類だ。

 これだけだと、そこまで契約は完璧でない上に、効果も影響力も酷く薄い。



「そう、なんですか……」



 だが、そこでもう一つの影響力を使う事で、この魔法道具はかなりの人に喜んで貰えるんじゃないだろうかと私は考えている。

 ……どうだろう。任せて貰えるかな? 



「はい。もちろんです。お願いします」



 私が問いかけると、彼らは二つ返事で了承してくれた。

 その事に幸いを感じつつも彼らの期待を裏切らない様に、私も精一杯を尽くそうと思う。

 正直、君達にとっては少し思い描いていたのとは違うかもしれないが、この魔法道具を悪用はさせない様にしよう。




 ──という訳で、私はこの魔法道具を、翌朝からやって来たとある二人組に紹介しておく事にした。



「──なんとっ、この中に聖人様の生前の頃の説法がそのまま残っていると言うのですかッ!?」



 この手のしつこい者達は必ずやって来るとは思っていたが、まさか翌日の早朝からやって来るとは……。


 そうして私は、そんな浄化教会の影響力を使いつつ、彼らと契約を結ぶ事により、悪用させない事を約束して貰ったのであった。

 まあ、そのついでに、今度彼らがこの屋敷の者達や私に干渉し過ぎない様にも契約できたのは僥倖である。


 『旦那が一番、その魔法道具を悪用しているとも言えるけどな……』



 ……ちょっと何を言っているのか分からないが、そこはあまり考えない様にして貰いたいと私は思った。





またのお越しをお待ちしております。

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